ものすごく集まってくるんですけどっ?

(前回のあらすじ)

 青龍のブレスで吹き飛ばされようとした直前で、スンナが参戦。ブレスを逸らすと反撃が始まる。


◇◇


 必殺――渾身の一撃を放つ。

 魔力の流れに乗せてグルリと回ると全身が蒼い光に包まれた。


「シッ」

 目を覆うばかりの閃光となった斬撃が青龍を襲った。バァァァンッとサファイア色の火花が弾け飛び、濃紺の霧があたりに広がる。


「ヴォォォォォォォォォッ」

 耳をつんざく咆哮をあげると、身をくねらせている。


 もう一発ッと見上げると、青龍の背後から着弾の閃光が上がる。

 ん? アレはスンナのブレスか?

 上下から攻撃されて、青龍が苛立つようにスンナへブレスを放つ。

 スンナの飛行痕が白銀の尾を引きながら、それを避けて上昇していく。

 背を向けた青龍へ城壁の上からオレンジ色の火山弾ボルガニックが打ち上がっていき、真っ黒な爆煙とその中から赤い炎が立ち昇った。


 やれるんじゃね?

 一瞬でも希望を持ったのは俺だけじゃないだろう。


「効いてるっ、チャージ急げっ」

 城壁の上では、勢い盛んに軍団の隊長たちの檄を飛ばす声が飛び、キィィィィンとランチャーへ魔力を注人する音で満たされている。


「ヴォウッ」

 と青龍が吠えると、地面から突き上げるような振動が襲ってきた。


「ぬぁッ」

「うおッ」


 あちこちで城壁が崩落し、不幸にも巻き込まれた団員が落下していく。


「ちくしょうッ、もう一発ッ」

 ビリビリと細かく振動する剣先をまっすぐ青龍へ向けてタンッと振り下ろすと、サファイア色の閃光が走った。

 バァァァンと弾け飛ぶ青龍の鱗がキラキラと輝く。

 そのあとから噴き出す濃紺の霧――グラリと体を傾けるが、見る見る勢いを取り戻してスンナを追い天空を駆け巡っている。

 

 ひょっとして?!

 青龍の血は霊薬――その血を霧状に撒き散らせて傷を再生させている?

 ふとそう思った。

 

 その再生を上回る傷を負うと、魔力を消費して回復し、その分巨体を支えきれなくなるから小型化する。

 おそらくそれが青龍のDEFディフェンスのカラクリだ。だから一定以上の魔力を消耗したら、青龍は回復のために攻撃されないところへ避難する。

 つまり撃退できる――かも知んない。

 

 おいっと魔導官へ声をかける。

「――ってなカラクリだ。ここへ火力を集めろ」

 魔導官が微妙な顔をしている。

「つまりだ。再生が間に合わないくらい繰り返し攻撃を加えれば撃退できる」

 えぇ――? って顔してる。

 

 なんだよ?

 口をとんがらかした俺に

「いえ、反論があるわけではありません。しかし火力は際限があります。押し返せるほどあるか? と危惧しただけです」

 際限がって砲弾、火薬、魔力の兵站が底を突きかけてるってことかい?

 

「無けりゃ終わりだ。出し尽くさねば青龍アレは倒せねぇ」

 どのみち腹をくくらねばならない時期はくる。

 今がその時だ。


「オキナ宰相の指示を仰ぎます」

 と短く告げ、通信石で連絡を入れてくれた。

 程なく「魔導官は魔力を温存しブレスに備えよ。

 部隊は第一、第二は波状攻撃はじょうこうげき、第三隊は輜重隊しちょうたいを護衛して補給を急げ」と指示が下る。


 第一隊の隊長に「あとは任せる」とだけ告げて遊撃に走り出した。上空ではスンナと青龍が文字通り火花を散らして戦っている。

 兵站を睨みながら攻撃を最大化するなんて、俺には考えが及ばない。だから俺は火力担当で目の前のアレをぶっ倒す。

 

 ふぅ……と脱力し魔力を天中(頭のてっぺん)から仙骨(骨盤の真ん中)に通す。

 そして洗骨から丹田に流れ込んだソイツを全身に流し込んでいく。


 ん? 薄く目を開けると、全身が蒼く発光している。

 青龍の血の影響か?

 青龍の感覚がちょっとばかりわかった気がした。空気中を漂う魔素がキラキラと輝いて見える。

 それは際限なく空中に開いた穴から流れ込んでくる。

 

 ソイツを息を吐き切った後で思い切り吸い込む感じで。ピリピリと痺れるような感覚が全身に行き渡ると、ミスリルの剣がビィィィィィンッと細かく振動を始めた。

 

 上空を見上げると幾分か小さくなっている青龍が、天を駆け巡っている。

「ウリャッ」

 クルリと回ると青龍へ向けてタンッと剣を振るった。

 真っ青な閃光が空を駆け上がっていくと、サファイア色の火花が散る。


「もう一発!」

 思い切り魔素を吸い込んだ。金色の光で満たされていく。


「ウリャッ」


 剣先からほとばしった濃紺の光は、空間を斜めに切り裂くとバァァァンッと鱗が弾け飛び、サファイア色の火花がパチパチ音を立てて落ちた。


「$><#%^*£•€=%#」

 青龍の悲鳴が上がる。

 もう一発――と見上げると、例の穴からキラキラと光る魔素が押し寄せて、青龍が再生している。

 この再生を上回る火力を集中させねばキリがねぇ。

 と思ってたら、コウから念話が届いた。

『コウヤッ、集中砲火をかける。軍団が火山弾ボルガニックで砲撃したらそれが合図だ』


『了解っ』

 

 ドドン、ドンドンッと砲音が響いて、オレンジ色の光が打ち上がった。


「見てやがれっ」


 鼻からスゥ――ッと息を吸い込み、口からゆっくりと吐き切る。さっきの要領で魔素をかき集めるとやっぱり蒼く体が発光を始めた。

 今さらなんだが、俺の体はどうなっちゃってんだろ?


「亀――ディストラクション」

 左手の海亀の口がパカリと開き、キラキラと輝く魔素が吸い込まれていく。吸い込まれていく。吸い込まれて――ってもの凄い集まってくるんですけどっ?!


『亀っ、大丈夫なんだろうな?』呼びかけてみても返事はない。慌ててコウに念話で呼びかけた。


『コウ、コウッ』

『なんだ?! こっちも忙しいっ』

『ディストラクションがもの凄いことになりそうだ。射線から離れろっ』

『な?!』と驚いているコウと『良いよ。思い切りやりなよ』とスンナの念話が帰ってくる。


『コウヤ――距離をとった』とスンナからの返答が届くなり、海亀を青龍へ向けて膝撃ちの体勢をとる。

 あたりは魔素を高速で吸収するキィィィィン――ッとジェット音が響き、金色の光で満たされていく。


「ショット」

 世界の白と黒が逆転した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る