『災禍』襲来
(前回のあらすじ)
コウヤがディストラクションを放ちムスタフ将軍はディストラクションに飲み込まれて消えた。
◇◇コウヤsideです◇◇
「終わったか?」
ディストラクションの閃光が消え去り、巻き添えを食った大気が爆風となってあたりを粉々に粉砕し終わったあと。
俺は巻き上げられた土砂だか木片だか、なんだかよくわからない灰色のものが降り注いでいる眼前に目を凝らす。
「
伏せていたオキナやリョウをはじめとする近衛隊がシールドを解除して駆け寄ってくる。その後ろから関節をギッチョン、ギッチョンいわしながら金属兵が。
あら? 背中に高射砲みたいな物を背負ってやがる。
新型か?(言ってみたかっただけ)
「うわぁ……」
一同言葉を失っている。
目の前には黒く焦げた岩肌が広がり、ところどころ黒煙の中にオレンジ色の炎が見え隠れしている。森であった痕跡すらない。
魔導官がシールドを解除すると、ふぅと乾燥した熱風が押し寄せてきた。
「熱ッ……ちょっと離れよう」
顔を照らす熱波に、袖で口元を覆ったオキナが皆を促して距離をとった。
俺たちが集まると顔を引き締め、
「この熱波だ。もう反撃能力を残しているとは思えないが、魔眼を飛ばして敵の状況を確認する」と告げると、即座に魔導官が魔眼を空に放ち、手元に上空からの映像を浮かび上がらせた。
まんまドローンだな、こりゃ。
「見渡す限り焼け野原だな……」
俺が放ったディストラクションの焼け跡は、アダマンタイト坑道の入り口を過ぎても止まらずその先の山々まで、ちょうど四車線の高速道路のように伸びている。
しばらく映像を丹念にチェックしていたオキナが顔を上げた。
「追撃を打ち切り避難に切り替える。念のため金属兵を
と編成に入ろうとするオキナに、ゆっくりと衛生兵に付き添われたコウが近ずいてきた。
俺がヨウッと手を挙げると、オキナも気づいたのか
「もう大丈夫なのか?」
と気遣わしげに肩に手を添える。
なんだかなぁ……。
戦場に寄り添うオシドリ夫婦ってか? 早く二人を(王都へ)戻してやらなきゃな。
「オキナさんや。もうここは(状況が)動くことはないだろう? あとはやっとくからコウを連れて戻ってやりなよ」
「そう――だな。コウにもこれ以上無理をさせら「私はあとから合流する」――コウ?」
コウが凛と言い放った。
「オキナ、私はスンナと合流して(軍の)避難を見届けてから追いかけるわ。
オキナは王宮に急がなきゃ。あのウスケ陛下よ? あなたじゃなければ収めることはできないわ」
雲行きの怪しくなってきた空を見上げて髪をかき上げて笑った。
「まるで今の(ゴシマカス)王国のみたいね。いろんなものがこぼれ落ちてしまいそう……」
「しかしコウ、ムスタフ軍の脅威が去った今。もう無理をして君が前線に残る必要はないだろう?」
「大アリよ。『災禍』のコースはまずはヒューゼン共和国の北端。その次はここミズイだもの」
コウは俺を見て少し微笑んだ。
「そんな時、大将が……(俺を顎でしゃくるんだが?)なら私がフォローしてやらなくちゃね。何かあったらナナミちゃんに顔向け出来ないわ」
優しさで帰還を勧めたはずなのだが? なんだか俺への風当たりが強い気がするのは気のせいだろうか。
風が強くなってきた。(物理的に)
本陣と救護ブースの天幕が捲れ上がり、固定したロープが激しく揺れてブブブッ、ブブッと蜂の羽音のような音を立て始めた。
「いよいよ近づいて来たみたいだぜ」
黒い雲が巻き起こり、雷鳴が響き渡る。
「もう、それほど時間がなさそうだ。オキナ、どうすんだ? 俺はどうしようが文句は言わねぇ」
俺が放った丸投げ宣言を聞き、コウが覚悟を決めたようだ。オキナの足元へ魔法陣を展開する。
「ムラク・ド・ジュン伯爵(前防衛大臣)のところへ転移させるわ。力になってくれるはずよ」
「ま、待ってくれ。コウ――」
オキナの声が後半エコーがかかったようになって、光の滝が足元から浮かび上がる。
「コウッ、コウ――」
焦るオキナの声を残して光の滝が静まると、コウの描いた魔法陣が輝いて消えた。
「コウ、良かったのかよ――あっちはあっちで大変だぜ? 支えてやった方が良かったんじゃねぇか?」
「あの人なら大丈夫。ううん、あの人だからかな? 私がやるべきことはみんなを生かして帰すことだもの」
コウの覚悟がそれなら、俺から言うことは何もない。
「よっしゃ、じゃあ行くか」と両手を天に突き出すような伸びをして四千の部隊がひしめく林道へ歩き出した。
「私は一足先にスンナと合流する。
護衛に分隊を借りるわよ」
そう言って手をヒラヒラさせると、風の民の分隊を連れて森へ消えていった。
◇◇
「全軍(第一)ダンジョンまで全速機動っ」
「あいっ」
「よっしゃっ!」
「「「応っ」」」
なんかバラバラだが、風の民やら獣人やらの混合軍だ。『災禍』が間近に迫っていると聞いて、多少混乱しててもてもしょうがない。
「重い武器は捨てて走れっ」
ガチャガチャと
だが四千もの兵力が移動するとなると、せいぜいマラソンの駆け足くらいだ。やっとの思いで森を抜けると、ドゥと突風が吹きつけてきた。
「うおっ?!」
咄嗟に左手を海亀に変化させると顔を庇う。
『後ろじゃ』
久しぶりに響く海亀の声にキョロキョロとあたりを見回す。
『もそっと上じゃ、空を見てみろ』
なんだってんだ? わけもわからず言われるままに上空を見上げると、群青色の巨大な何かが上空を旋回している。何かってクラスじゃない。
天を覆うばかりの巨体が、まるで宙を泳ぐようにゆっくりと蛇行しながら飛んでいる。
まだだいぶ離れているはずなのにほぼ視界の右から左を占領する大きさだ。
体長は五キロはあるんじゃなかろうか?
頭のてっぺんから尾っぽまでのながさが、魔獣の森よりでかい。
『災禍じゃ――
「うっそぉ〜ん?!」
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