これはあの時の?!
(前回のあらすじ)
ムスタフ軍を追い“魔獣の森”の
◇◇
「おそらくムスタフもこの先にいる」と
オキナは俺に
方位石の放つアダマンタイト坑道へ向かい照準を合わせると、海亀にリクエストを伝える。
ズォゥと空気が揺らぎ、あたりが真っ暗になると海亀から閃光が
◇◇ムスタフ軍side◇◇
少し時を巻き戻し、同日の朝日が昇る頃。
相対するムスタフ軍はアダマンタイト坑道の入り口から少し離れた小高い丘に陣取っていた。
丘と言っても“魔獣の森”。
小山ほどある頂きに巨木がそそり立ち、上空からの視界を遮っている。
おそらくスカイ・ドラゴンと言えども本陣を簡単に見つけることはできないだろう。
ムスタフは仮眠用の外套をクルクルとまとめバックパックにくくりつけると、うっすらとあけ染める山並みを見渡し軽く伸びをした。
ガントレットの留め金を絞め直しながら、見晴らしのいい場所に出ると、眼下のアダマンタイト坑道と
昨夜の戦いを振り返ってみる。
囮のコウとその小隊を拉致し、救出にきたゴシマカス軍と交戦。あと一歩で敵将コウヤと本陣を陥れるところまで追い詰めた。
が、またしてもあと一歩のところで討ち漏らす。
本来、闇夜は魔人の得意とするところだ。が、逆に閃光の目潰しをくらい最後にはスカイ・ドラゴンの襲来。
「少々旗色が悪いの……」
と独りごちる。
後退を指示したあの時、カノンが「引くなら前じゃないのか?」と発した一言が気にかかった。
視界を奪われたままの戦闘を回避し、カノン・ボリバルらヒューゼン共和国友軍に
確かにこちらの方がリスクは少ない。
だが、勝つとしたらどうなのか?
「何か気がかりがございましたか?」
「ん? ああ、気がかりと言えば気がかりかの」
ムスタフより早く起き出して、配置の采配を振るっていた筆頭がムスタフへ駆け寄り報告を始めていた。
「敵は増援を呼び寄せて、おおよそ四千に膨れております。対する我が軍も四千、すでに配置を完了しております。
ムスタフ将軍は報告を聞きながら頷いてはいるものの、不機嫌な顔のまま押し黙ったままだ。
「何か不手際がありましたでしょうか?」
筆頭がその沈黙の意図を図りかねて尋ねてみても、空と
やがて「
「ゴシマカス軍の側面に回り込んだと報告が来ております」
筆頭がすかさず応えるものの、考える素ぶりをやめない。
「魔力の歪みが広がっておる。軍司令部に『災禍』の位置を問い合わせろ」
ムスタフの声に反応するように御意、と頷いて伝令を走らせている。
魔素のゆらぎを感じる。
目に見えない脅威が迫っている。
それが『災禍』なら最初に描いた作戦どおり、ゴシマカス軍を『災禍』の餌にできるだろう。だが、もしそうでないとすれば第一ダンジョンを吹き飛ばした、謎の力とも見て取れる。
「
「伏せておりますのは五小隊、計二百五十名。
少し得意げに報告をする筆頭の顔を見ながら、ムスタフは少し口角を上げて見せた。
「この短時間に見事な編成だ」
「ありがたき――」
「だが、六百は予備兵にのこせ。不測の事態もあり得る」
「……で、ありますか。不測の事態とは?」
伊達に筆頭を名乗るワケではない。
ムスタフ軍のナンバー2として、ムスタフの考えを確認しておきたい狙いもある。
「なに、もしもには備えておかねばならぬ。
ヌシの編成の不備と言うこともない。例えワシが
ご冗談が過ぎます――と硬い顔になる筆頭を、早く行けとアゴをしゃくる。
おそらく数時間後には決着がつくだろう。
我が軍の勝利は疑いようもない。
だが――胸騒ぎがおさまる気配はなかった。どんな兵士であろうが、戦を重ねれば無視できなくなるこの虫の知らせ。
それを無視して無理をした者が逝くのをなん度も見送ってきている。
「伝令っ」と短く告げると駆け寄る少年兵。
おやおやと相好を崩すと目線を合わせるように腰を屈める。
「おお、勇敢なる少年よ。名前は?」
「ベロでありますっ」
そうか? と言いながら懐から銀貨を取り出し与えると、「十将に伝えよ、本陣を移す」と短く告げる。
「これは?」
「駄賃じゃ、とっておけ」と伝えてクルリと反転させるとその背を叩く。
走り去る少年兵と入れ違うように、先ほど『災禍』の位置の確認に走らせた伝令が駆け込んできた。
「伝令っ、『災禍』が早まっております。あと四十時間後には大陸にかかるかと」
敬礼をしながら声を張り上げる伝令に、ご苦労と返礼する。
伝令へ『災禍』が目前であることを十将に伝え、全軍に通達するよう指示する。
『
各々奮闘せよ、我が軍の勝利は目前だ』――同様な内容を友軍にも伝令を発した。
坂をゆっくり降りながらつぶやく。
「なんのことは無かったの。胸騒ぎは『災禍』の方であったか――」
そう呟いたとき巨大な魔力が森の奥に渦巻いたのを検知した。
まさか――?!
と思った刹那「退避――っ」と叫んで地に伏せる。
ゴウッ、と
これはあの時の――?!
コンマ数秒もせずゴッと衝撃波が押し寄せる。鎧に仕込まれた魔道具がシールドを発動し、体を包み込むと同時に小石のように宙へ跳ね飛ばされる。
体がバラバラになるような痛みを覚え、そこで意識が途切れた。
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