オキナ参戦


2023年 明けましておめでとうございます。

 皆さまにとって

 幸多き年になりますように( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )੭⁾⁾



 (前回のあらすじ)

 スンナと合流するために“魔獣の森”へ戻るコウ。そこに待ち構えていたムスタフ将軍にまんまと捕縛されてしまった。


 ◇◇


『コウヤ、コウがさらわれた。ムスタフ軍だ――』


 スンナからの念話が届いたのは森を抜けて一時間ほど進んだあたり。

 ここらは空っ風の吹く見渡すばかりの平原だ。


「なんだってぇ?!」


 いきなり話しかけてきたからビックリしてあたりをキョロキョロ見回した。


『小隊ごと捕縛された。君たちの仲間がそれを追っているよ』


 途中に待機させていた中隊がコウの救援に走っているようだ。

 

 コウがスンナと合流し、第二(候補の)ダンジョンまで護衛してもらわなくては、避難計画自体が白紙に戻ってしまう。

 アイツのことだから、おいそれとやられることもないだろうがーー。


 こういう時に一番頼りになる男を探す。

 一万六千もの兵を指揮するサンガ少佐の元へ、俺は馬を駆った。近づくや否や「耳を貸せ」と、軍馬を並走させ小声で告げる。

 

「サンガ少佐、コウがムスタフ軍にさらわれた」


「な?! まだそのような報告はなにも……?」


「スンナからの念話だよ。間違いねぇ――」


「なんでまたこんな時に――?!

 コウ大佐を捕縛し(スカイ・ドラゴンの)スンナ殿の魔人軍への牽制を阻止するため? と、すれば我らの計画は見抜かれているとなるが……」


「先走りしなさんなって。

 なによりコウの救出が最優先だろ? 大至急、救援部隊を編成してくれ。大軍で動くと時間がかかりすぎるから小隊クラスで良いや」


 サンガ少佐は「分かりました」と、全体の行軍機動を停止させる。

 そこから部隊の編成と、魔人軍からの襲撃に備えた陣立てを組み上げるのにものの数分も掛からなかった。


 さすがだね……などと軽口を叩く余裕はない。その代わり「ここで(魔人軍が襲ってきても)踏ん張っていてもらえないだろうか? 頼りになるのはアンタだけだ」

 と丸投げすることにした。


 サンガ少佐が周辺地図を持ち出して彼我の位置を示しながら、

「コウ大佐がやすやすと捕まるとは思えません。状況を説明してもらえませんか?」

 と訊ねてくる。

 

「詳しい中身はわからんよ」

 と前置きすると、


「ダンジョンをぶっ飛ばしただろう? どうやらあの中には、ムスタフ将軍はいなかったらしいよ。それどころかこの――」

 と“魔獣の森”を指差す。

「中に潜んでやがったらしい」

 と話すうちに狙いがわかってきた。


「俺がダンジョンを潰しただろ?

 あれほど速攻で潰されるとは思ってなかったんだろうさ。ダンジョンに襲い掛かる俺たちの背を討つ算段だったんじゃねぇか?」


「なんとも……。それでコウ大佐の行方は?」

「まだなにもわからない。索敵のできる魔導官を貸して欲しい。それと『追跡者トレーサー』も、だ」


 追跡トレーサーとは、魔力の残滓ざんしを追って文字通り追跡のできる技能者。

 魔力は魔素を加工して発現するから、加工する段階で人によってそのクセがでる。

 その魔力のクセをもとに、人物を追跡することから紐付けと呼ばれたりもする。


「了解です。編成に加えましょう。ダンジョンへの行軍が難しくなった今、反転してムスタフ軍の掃討戦に入りますが、しばらく時間がかかります。コウヤ将軍は救援部隊と先行してください」


「あぁ、助かるよ。通信兵オッチャンはどこに? オキナにも知らせてやらなきゃな」

 あちらです、と応えて指差された先に馬首を巡らす。


◇◇◇


「――と、いうわけなんだ。オキナ、すまねぇ……」


 通信士に王宮まで繋いでもらい、ついでにオキナも呼び出してもらった。

 眉間に皺を寄せて俺の報告に耳を傾けるオキナ。

 しばらくして口を開く。


『私はなんでそうなる事が見抜けなかった……』


 思わずこぼれたのであろう懊悩が、整った顔に陰を作る。

 オキナは決して他人の失敗を責めない。

 むしろ次善の策を示すことで、将校たちの発奮をうながす事を常としていた。

 だが今度ばかりは次善の策どころか、色白の彼の顔色からさらに血の気が引いて青ざめている。


『我らが『災禍』を恐れて、ダンジョンに逃げ込もうとしているのに、なぜムスタフは森へ残ろうとした……?

 別に退避する当てがあったに違いない。

 こちらだけが被災しムスタフ軍が避難できるどころ――そこにコウもいるはずだ。

 人質に取ることで、こちらをコントロールするつもりだとすると……』


 通信石が映し出す向こう側で地図を睨みながら黙考している。ふいに顔をあげると、

『コウヤ殿。頼まれてくれるか?』


 と片方だけ器用に眉を上げる。

『ヤツが何を考えているかわかったよ。

 おそらくムスタフ軍は、君のアダマンタイト鉱山に引きこもるつもりだ。

 あそこの坑道は二キロに及ぶ。一万は無理でも、今のムスタフ軍なら四千かそこらだ。それくらいなら避難できる』


 対してこちらは一万六千も抱えている。同じ手は使えない。


『コウもおそらくそこに。

 最優先で救出して欲しい。数で押し負けることが無いように、救援部隊の後詰めを分厚してくれ。

 火力で負けないよう金属兵をそちらへ送る。サンガ少佐はいるかな?』


「こちらに」


『魔導官に魔法陣の準備を。こちらから二百は送り込む。それなりに時間がかかるから魔力切れにならないよう、魔導官のチームを割いてくよう頼む』


「了解致しました」


『手が回らないだろうから、私もそちらへ行く。

 そちらに向かう前に、キミの潰したダンジョンの状況も知っておきたい。

 本当に避難できないのか? を調べてからでも遅くない。そちらにも探索チームを派遣して欲しい。使えるようなら……』


◇◇


 こうして事態は急速に動き出した。

 オキナの指示した位置に本陣をおき、増援を迎え入れる準備が進む中、俺たちは先行して“魔獣の森”へ後戻りだ。


「リョウっ、モン行くぞ」

 隊列を組み終わったのを確認すると、一斉に森へ続く道を駆け出した。

 

 待ってろ、コウ! 今助けてやる。

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