やばくね?
(前回のあらすじ)
スンナからの念話でコウが攫われたことを知る。救援部隊を編成し、オキナへそのことを報告すると、彼自身も金属兵をともなって駆けつける非常事態となった。
◇◇
「コウ、待ってろ――今助けてやるからな」
“魔獣の森”に着くまでに、このお題目を何度唱えたことか。焦燥に駆られ、先導する“風の民”を急がせる。
入り口近くで馬から降りると、居残り組に馬を託して森の中へ。
ここで俺は小隊を二手に分けた。
一つは本隊との中継に、一つは“魔獣の森”での戦闘とコウの追跡の探索隊として。
この世界にスマホのような通信手段はない。
スンナの念話のような高位な魔法を使える存在も存在するが、ごく限られた存在だ。
だから取り決め内容を通信石で本隊へ送らせ、有事の際に打ち上げる信号弾と同じ信号弾をここで打ち上げて、本隊へ中継する部隊を残した。
「リョウ、モンッ。ちょっといいか?」
探索組を集めて簡単に確認をしておく。
「目標はアダマンタイトの坑道のあるココらあたりだ。そこまで伏兵が潜んでいる可能性も十分ある。トレーサーを先頭に走らせるが、目視での索敵も油断なくな」
「「了解です」ッス」
「行くぞっ」
「「オウッ」」
トレーサーが走り出すのに合わせて獣人、風の民と続けて走り出す。黒々とした“魔獣の森”の薄暗い樹々のトンネルに駆け込んで行った。
◇◇
「見つけた……」
思った以上に戦闘痕がない。
コウのことだから派手にぶちかましているのだろう、と思っていたから肩透かしを喰らった気持ちになる。
「つまり……だ。ほとんど抵抗できないまま、拉致されたってワケか」
「ここでコウ大佐の魔力痕は途切れています。おそらく“魔力封じ”の魔道具で拘束されているのでしょう」
かなりヤバイ状況だ。
ただ救いとしてはコウを殺すのではなく、捕縛しているってこと。
「コウを餌に引き伸ばしをする構えだな?」
聞こえないくらいの小声でボソリと呟く。
拉致にしたって交渉にしたって、『災禍』が来るまでの時間稼ぎに他ならない。
向こうには、俺たちが『災禍』と言う
「全く厄介だよな? コウ」
さぁ、どうすんべ?
ノコノコ乗り込んで行って、コウともども始末されてもしょうがない。かと言って向こうの狙い通りに時間をかけすぎても、『災禍』が訪れて全滅してしまう。
「ともかく、情報を集める方が先だな。モンッ、ちょっと良いか?」
ん? て顔で大きな体をのそのそ揺らしながら近づいて来る。
「斥候を出したいんだ。隠密ができるヤツいるかい? ヒョウ族とかさ」
「ん? ああ、ちょうど良いヤツがいる。(アダマンタイトの)坑道のあたりを探らせたいんだろう?」
「そう言うこった。頼んます」
了解っと手をヒラヒラさせると、ヒョウ族の男に近づきなにやら伝えている。その男もわかったとばかりにこちらに頷くと、あっという間に森の中へ消えて行った。
警戒しつつも待つこと半日。季節は冬に近く陽が落ちるのは早い。あたりが薄暗くなってきたあたりで、
「旦那っ(俺のことらしい)、小隊の連中が
「ん? いま
「
「なん……だと?」
ただの捕虜になっていると思っていた。だが、晒し者にしているだと……?!
「あ、息はしてたから、殺されてはいないかと」
ヒョウ族の男が慌てて付け足すが、それでも血が逆流するのを抑えきれない。
「なんて事をしやがる」
この世界において。
捕虜は戦利品であり、金銭交換の対象となる。
もちろん金銭交換の対象とならない者もいるが、奴隷として売却されるから、商品と同じ扱いとなるのが通例だ。
つまり、ムスタフ・ゲバル・パジャはコウの事を、敵対する軍の将校として見なさず、自軍を崩壊させた犯罪者として扱った。
もはや交渉の余地はない――。
顔色が変わった俺を見て、リョウが目の前に飛び出してきて通せんぼをする。
「師匠、これは煽られてるってことッスよ。晒せば師匠が飛び込んでくるって見透かされてんスからね?! いっちゃダメなパターンです」
「だからって、コウをほっとくワケいかねぇだろ? もうすぐ暗くなる。それに紛れて救出する」
「だから、それが罠なんですってっ。わかり切った事じゃないですか? あのコウさんが嵌められたんですよ? 闇夜に紛れて有利なのは魔人の方ッスから」
「じゃあどうしろってんだ?!」
ドカリッと手近にあった立木を殴りつけた。バンッ、とみじろぎすると、バキバキッと音を立てて倒れていく。
「あれ……?」
『力が欲しいか?』
いつか聞いたあのセリフが記憶に蘇ってきた。
まさか――? うん、気のせいだ。
変なシコリを胸の奥にしまい込んで、振動する通信石を取り出す。
オキナからのメッセージだ。
『シテイノ・イチ・へ・ホウイセキヲ・ハイチ・サレタシ』
指定の位置へ方位石を配置されたし?
あとから吐き出される略図に座標が記入されている。この座標に方位石を置けってか?
『オキナ・シハントキゴ・ソチラヘ・テンソウスル』
オキナが二十五分後に転送してくるって?
慌ててモンと獣人たちに指示し、座標の位置へ方位石を配置してもらい、俺たちの近くの座標に置いた方位石の周りに集まった。
ほどなく魔法陣が展開し、眩しい光の滝が立ち昇り、その光の中からオキナが美麗な眉を顰めて現れた。
「待たせたかな? コウヤ殿」
野戦服を纏った美丈夫が、こちらに歩みより俺の手を握る。
「これより闇夜に紛れてコウを救出する」
オキナがピシリと言い放つ。
ヤバくね……?
俺とリョウは顔を見合わせた。
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