誘拐
(前回のあらすじ)
俺は事前の了解なしにムスタフ軍の居るであろうダンジョンへディストラクションで先制攻撃を仕掛けた。
始まるお説教タイムでもっともらしく言った言葉が、責任を伴うものだとも思わずに。
◇◇
「――言った以上は責任を持って避難させろよ」
そう言ってコウはスンナとの合流へ向かうことになった。
スンナと合流するのは、ここから約二時間ほど“魔獣の森”へ戻った渓流の流れる地点だ。
発着するスペースが十分にあるのと、消費した魔力を補給するのに魔素の濃い“魔獣の森”の中の方が都合が良いそうで、今はそこにいる。
本来ならスンナが単独で補給を済ませて、後から合流する手筈だった。
「(護衛の)一小隊が着いてるとは言っても、気ぃつけてな。
なんかあったら信号弾をーーすぐに駆けつけられるようにここに一中隊残しとくからな」
万が一のために、カイに頼んで“風の民”から一中隊割いてもらった。迅速さでは彼らにかなう部隊はない。
同行させないのは、コウ自身の
「不測の事態が起こったときに被害を最小限度にしたい」
って希望と、無事に合流を果たせたらすぐに追いついてもらうためだ。
「不測の事態って、おい?」
「気にするな、あくまでも万が一だよコウヤくん。スンナにはもう念話を飛ばしてある。何かあればスンナが教えてくれる」
「フラグじゃねぇよな? ともかく下手だけは打ってくれるなよ」
コウは「お前が言うか?」そう笑った。
こうなったのも全部俺のせいだから苦笑いしか出ない。
「全くだ――」
ガシガシ頭を掻きながら、拳で胸を二回叩く『貴方の命とともにある』ってゴシマカス軍式の敬礼をする。
ついでながら、コウに同行する小隊の分の騎馬もここに残している。
森の出口に近いここらからなら、本隊との合流もさほど時間はかからないだろう。
「万事抜かりなく」
とロン大尉からの報告に、サンガ少佐は腕を振り上げ
「全軍、前進――っ」と振り下ろす。
「全軍前進――っ」
「全軍前進だ――っ」
復唱の声が響き渡り、ガチャガチャと装備が触れ合う音で
◇◇
ピー……、ピー……。
人の耳では聞こえない周波数の笛が二回吹かれた。
ここは“魔獣の森”の中。
つい先程まで、偽装された塹壕に身を潜めていた二メートルを超す巨漢たちが、ムクリを体を起こす。
「ドラゴンのテイマーが動き出したようだの」
「ムスタフ将軍、すでに包囲しております。あとは命令を待つばかり」
九人の巨漢たちがその背後に控えている。
周囲は『認識阻害』と『遮音』の魔法が展開され、隠密の行動をとっているのは一目瞭然だった。
「ダンジョンに攻めかかれば背後を突いてやろうと潜んでおったが、ダンジョンごと吹き飛ばしてくるとはの。我が兵たちを消し炭にしてくれよって」
声色に憤怒の色があふれ、いつもの泰然としたそれではない。
「コウを捕らえる。それだけでドラゴンもコウヤも封じこめできるわい」
「しかしどちらも呼び込む形になるのでは? 両方を相手取るには戦力が足りないかと……」
十将の一人が小声で質問してくる。
ムスタフ軍において作戦計画の段階での反論は許されていた。
「だろうな、だからこそだ。わからぬか?」
畏れながら――と目を落とす十将(サガンが倒れた今は九なのだが)に天と地を指差す。
「寡兵で大軍を相手取るには天と地の利を活かすのが常道。遮蔽物の多い“魔獣の森”は
それに『災禍』が迫っておる。
だから焦ってダンジョンの破壊などと言う暴挙に出たのだ。ヤツらには時間がない。
ならば我らは『災禍』がくるまで足止めをするだけ――今いる戦力で問題ないであろう?」
「しかしそれでは我らも巻き込まれてしまいます」
やや焦った声で反論の声が上がる。
もはや自分たちの避難できるダンジョンはない。
いかに武功好きな魔人たちとはいえ、玉砕してまでそれを欲することなどなかった。
作戦の実行をする上でも、付き従う兵たちの命の保証は必須だ。
「案ずるな――この“魔獣の森”の中腹にアダマンタイトの採掘場がある。そこを占拠し避難する。
最も硬い鉱石の採掘場だ。
強度としては『災禍』をやり過ごすことくらいはできよう」
いつの間にそんなところを……? 驚きの目線が集まると、剣呑な雰囲気を醸していたムスタフの目がフッと柔らかくなり笑った。
「金の動きだ。
ゴシマカスに潜り込ませた“モグラ”(スパイのこと)が、商人に化けてゴシマカスの
その者へ『アダマンタイト鉱山の債権へ出資しないか?』と、話を持ちかけてきた
胡散臭いと蹴るよう言うつもりであったが、聞けばオーナーは勇者コウヤと言う。
気になり調べてみれば“魔獣の森”に――と言う顛末だ。戦利品としては悪くないと思うて調査させておった」
ゆえに――と続ける。
「
と手にした袋からアダマンタイトの鉱石を取り出してみせると、ポンッと放って真偽を確かめさせた。
「これだけの利があるのなら、命をかけても惜しくあるまい?」
と見回す。
まさに飴と鞭――信賞必罰はムスタフ将軍の用兵の手腕の一つだ。
「だが敵に背を見せることは許さん。心して当たれと我が
それだけ告げると『早く行け』と顎を小さく突き出した。
「「「御意っ」」」
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