いいわけ

(前回のあらすじ)

 ムスタフ軍が逃げ込んだダンジョン。それを目にした俺は引導を渡してやることにした。ディストラクションを発砲し一気にケリをつけるつもりだ。


◇◇

 

「総員、耐ショック。耐閃光防御――」


「な、バカッ! なにする気だ?!」


 コウが慌てているが、

『亀――ディストラクション』と唱えたコンマ一秒後。

 ズォゥと空気が揺らぎ、あたりが真っ暗になると海亀から閃光がほとばしった。


ドォォォ――ンッ、ドォォ――ンッ、ド――ォン。

 雷音が響き木魂こだまが駆けめぐる。

 閃光が走ったあとに静寂が訪れた。


「双眼鏡を」

 固まっているコウから魔道具を取り返す。

 拡大された先には、威容を撒き散らしていた例の岩山はない。


「うむ。ケリがついた」

 

 うんっ、スッキリしたぁ!


「な……?!」


 一同言葉を無くして眼前の光景に見入っていた。

 そこに広がるのは、その先にあったはずの岩山まで続く黒い焦げ跡と丸く穿たれた大地。


「な……?」


 コウが再起動した。

 

「なんて――っ!?」

 プルプル拳を震わせている。


 なんて?


 うにゅ? と小首を傾げる俺を見ると、ちっ、と舌打ちしてコウは天幕にサンガ少佐とロン大尉、リョウとカイに他の千人将を集める。


遮音サイレント

 味方の兵たちへの配慮だ。

 そりゃ軍の上層部が揉めてる姿なんて、不安を煽るだけで良いことないもんな。

 

 んで、開口一番。

「なんでことすんだっ! ダンジョンに溜まった魔素が、どこに向かうか考えなかったのか?!」

 ワナワナと唇を震わせている。

 

 魔素は魔力の元となる存在。魔素を凝縮し魔力へと変換し、それを操るのが魔法。

 地球で例えるなら石油が魔素で、それを精製したものが魔力。それを電気や動力へ変えるのが魔法だ。

 コウの感覚だと俺は油田にミサイルをぶち込んだようなものらしい。

 入り口を壊しただけとはいえ、崩落したダンジョンには魔素が溜まりまくり、出口を求めてどこからか吹き出してくる恐れがあると言う。

 

 もちろんダンジョンの中で巣食っていたモンスターたちが、濃縮された魔素の中でどんな変貌を遂げるかは想像に難くない。


「ちょと考えればわかることだろう? それよりなんで事前に相談しなかった? オレTUEEEってアレか? それしてみたかったのか?」

 カンカンである。

 ここまで怒るコウも珍しい。


「落ち着けって。

 この距離から攻撃されるとはムスタフたちも思ってないはずだ。だから先制攻撃した。

 もう一つ、これ以上時間をヤツらにかけたくない。俺らが避難するための時間を浪費させたくなかった――相談しなかったのは悪かったが」


 ムスタフ軍が『災禍』がくるまで俺らを足止めをしようとしてるのはわかっている。なら、爆破してとっとと避難しようぜってワケだ。


「呆れた……」


 コウが頭を抱えている。


「『災禍』の最中、濃縮された魔素で凶暴化した魔物が溢れ出したらどうするつもりだ? 『災禍』だけでも苦しいのに魔物まで相手にしなくちゃならなくなるだろう」


 あれ……? そうなるのか?

 やだわぁ――ってやっちまったのか?


「なんかゴメン……「「「で済むかぁぁぁぁ」」」って、ええっ?!」


 全員激おこなんですが? 誰か味方はいないのか?

 オロオロ視線を這わすが、全員鬼の面を被っているみたいだし、それ以外は魂が抜けたような顔をしている。

 

 こうなりゃアレだ。ハッタリしかねぇ……。


「狼狽えるな(言ってみたかっただけ)。コウ、オキナはなにを優先させろって言ってた?」


「この場面でオキナは関係ないだろ? まさかおまえがダンジョン吹っ飛ばすと思っていないよ」


「いいから言ってみろ」


「……迅速に、かつ避難を優先させよ――だが、『災禍』を乗り切るためだ。このままじゃ乗り切れなくなるかも知れない」


「違うな……。『災禍』に間に合わせるために“避難を優先させよ”だ。つまり『災禍』が終わったあとも不測の事態に対応するために、“避難を優先させよ”と指示した」


「そんなワケ……「そんなワケがあったんだよ」」


「そんなワケがあったんだよ」

 大事なところだから二回言う。


「もし仮にだ。このままダンジョンへ向かい、あのムスタフ軍を足止めしながら第二(候補の)ダンジョンへ向かったとしよう」


 サンガ少佐、と声をかける。

「一万の兵がムスタフ軍を相手にしながら、他の魔人軍をスンナ(スカイ・ドラゴンで)牽制しつつ第二(候補の)ダンジョンに到達する移動距離は?」


「戦闘の烈度によりますが一日十三キロかと。奇襲、迎撃、地形によっては十キロを割る可能性も」


「第二(候補の)ダンジョンまで何キロある?」


「約四十キロです。ムスタフ軍への対処も合わせて四日はかかると見込んでおりました」


「他にも人的損耗……イヤな話だが、何人生き残れたと思う?」


「おそらく六千……「そこだよ」名……」


「恐れがある? かも知れない? その前にここにいるうちの四千名が死ぬってわかって言ってるのか?

 なぁ、その四千名を仕方ないって言うつもりかよ。『災禍』が近づくスピードも上がってるかも知れないんだぜ? 間に合わなければここにいる全員が死ぬのをわかってるんだろうな」


 自分で言いながらそんな気がして来た。


「なぁ、なら俺としては何をすれば良かったんだ? ここにいる連中みんなを生かして帰すためには――」


 コウはしばらく黙って聞いていたが、ゆっくり口を開いた。

「ーーーだから。苦渋の選択をしたってワケか?」


 おもむろに頷きながら第二(候補の)ダンジョンを指差し、

「今なら間に合う。

 行こうぜ、俺たちを待っているのは無事を祈りながら帰りを待っている家族と、『災禍』を退けて国を守って欲しい罪なき人々だ」

 と、キラッキラの笑顔でみんなを見る。


 なんかそれっぽくない?


 沈黙が一同を包む。

 しばらくしてコウがキッと顔を上げた。

「詭弁だ――。だが、それもまた間違いじゃない……わかった。私はスンナと合流して避難を邪魔する魔人軍の牽制に入ろう。コウヤ、言った以上は責任を持って避難させろよ」


 あたりまえだの前田くんだよ。

 

「さぁ、迅速に避難開始だ」


 と転進の指示を出した。

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