目を閉じておいでよ

(前回のあらすじ)

 ライガとカノン・ボリバルに挟撃され危機一髪に陥った俺。スカイ・ドラゴンのスンナの援護で状況がひっくり返り、あと一歩で捕縛するところを取り逃した。


◇◇

 激戦を終え一日かけて傷を癒やした翌日。俺たちは森を抜ける道を進軍していた。


「ライトニングボウ、構えっ」

 

 Tの字の横両端が輝きを増す。伏せ撃ちの三人の後ろに膝立ちの三人、最後列にスタンディングで三人と縦横三列に並ぶ。


「撃てっ」


 いっぺんに九本の光の矢が、白銀の尾を引いて森の中へ消えて行く。

 

 両側を森に挟まれたココで、展開できる人員は上記の通りだ。

 コレを数回繰り返しながら、小隊ごとにバラけて撤退していった魔人軍を掃討しては進軍してる。


「グボッ」


 短い悲鳴と転がり落ちる亡骸。

 

 無茶なことしやがる……。

 万の大軍にこんな小隊で奇襲をかけるつもりだった連中に目をやる。

 

 その悲壮感がなんとも胸糞が悪い。


 同じ思いなのか、サンガ少佐が口を開く。

「おそらくコウヤ将軍狙いだったのでしょうが、ムスタフ軍が撤退する時間稼ぎなんでしょうな。そのためにわざわざ特攻させるとなると……」


「結構な罠を仕込んでるってか?」

 犠牲に見合うくらいの戦果を狙わなければ、こんな特攻を仕掛けてくるはずがない。


「『警戒しつつも迅速に進軍せよ』でしたな?」

 通信石から吐き出されたオキナからの指令はそれだ。


 そろそろ掃討戦も終盤。

 スカイドラゴンのスンナの参戦で、魔人軍は浮き足立ちカノン・ボリバルとライガの一味も姿をくらませている。


「ここらは片付けたようです」

 

 他に潜んでいる敵がいないか確認を終えた“風の民”が駆け寄ってきて報告をあげると、サンガ少佐は頷き大きく軍を前進させた。

 もはや“魔獣の森”を抜けるまであと半日の距離だ。


「時間との勝負ですな」

 こちらをチラリと見ては、おかしそうに目を細めすぐに周囲へと目線を戻す。


「なんだよ? なんか可笑おかしいか?」


 極めて普通ですが?

 

 ただ、俺の隣には近衛隊の副隊長のリョウ(怪我から復帰してきた。近衛隊長は魔法陣で王都まで帰還してもらっている)、左手には“風の民”のカイ、後ろにはコウが陣取っている。

 そのまた傘下の人員が、絶妙な隊列で持って俺を取り囲む。


「たいそうな護衛ですな? 五大侯でもここまでの豪華な護衛は揃えられますまい」


 護衛じゃなくて監視だと思うのですが?

 

 後ろからコウが脇腹を突いてくる。

「コウヤ、今失礼なこと思ったただろ?」ゲシゲシと魔法杖ワンドの先で脇腹を突いてくる。


「おまえさ。使い方、完っ全に違うよな? それ確かラドクラシル(世界樹)かなんかの、超〜レアアイテムじゃなかったか?」


楔帷子くさりかたびらの上から指で突いても効かないだろ?」


 ふふんっ、と鼻で笑いながら

「反省が足りないようだな」

 と魔法杖ワンドの先に魔力を込めたか、先っぽがバチバチッと凶悪な音を立て始めた。


「教育的指導だ。謹んで受けなさい」

 と、そのバチバチと唸る杖先を寄せてくる。


 完全に遊んでやがる。

 なんの余裕だ? ついさっきまで、死闘を繰り返していただろうに。


「コウっ、おふざけが過ぎねぇか? もうすぐムスタフの待ち構えるダンジョンだぜ」


「さんざんやらかしているのを詫びるのが先だろ? そこを言っているのだよ。コウヤくん」


「頭を下げるのはかまわねぇが、コレは私罰リンチじゃないのかね?」


 言うほど互いに本気ではない。久しぶりの戯れ合いみたいなモンだ。

 

 長い坂を登り切り下りに差し掛かると、“魔獣の森”の樹木がまばらになり視界が開けてくる。遠くに目をやると遠くに小山ほどの大岩が見える。


「あれがムスタフのいるダンジョンですな」

 指し示された先に目をやると、大岩にこんな遠くからでも分かるほど巨大な穴が開いており、異様な雰囲気を醸し出している。

 

 サンガ少佐の指示で警戒体制にはいる。

 

「全体――止まれっ」

「全体止まれーっ」

「止まれーっ」


 復唱が終わり行軍がとまると、

「斥候は索敵を。その他は警戒を継続しながら小休止っ」

 とロン大尉の指示の声。

 

 うん、この人たちに任せておいて正解。

 おかげで流れるように滞りなくここまで来れましたっと。

 ほとんど拉致状態でストレス溜まってるのもこの人たちの指示だけど。


「小出しに誘導の襲撃をして来るか? と思っていましたが、(ダンジョンに)こもって迎撃するつもりのようですな?」

 

 手渡された双眼鏡(魔道具だから拡大される倍率は半端ない)を受け取ると、大岩にポッカリと口を開けるダンジョンに、ピントを合わせる。


「距離十キロってとこか……」


 ダンジョンの入り口に本陣を構えているようだ。

 大穴の入り口中央に、本陣と見られる天幕とわざと目立たせるつもりなのか、ムスタフ軍の象徴ドクロを縫い取った大旗がひるがえっている。

 その周りを三重に囲む魔人たちの群れ。


「なぁ、あれって罠だと思うか?」

 コウに双眼鏡を手渡しながら、あまりにあけすけな本陣をさらす軍容に眉をひそめる。


「(こちらの)出方をうかがっているんだろ。

 食いつけばダンジョンに引き込み、無視して他のダンジョンへ行こうとすれば背を討つ。自軍だけでなく、他の軍との連携も視野に入れた構えだ」


 なにそれ? コウが軍師っぽいんですけど?


 ちょと驚いた顔でコウを見ると、

「オキナから聞いていた流れよ」と軽く微笑んだ。


「なら、アイツらもそこまで追い込まれたとも言えるな」

 自軍のみの勝利を諦め、他との連携も考えているのだから。


「なら、俺が引導いんどうを渡してやる」


 ふふふん。


「総員、耐ショック。耐閃光防御――」

 そう言うと片膝をつく。言ってみたかったんだよねぇ。


「な、バカッ! なにする気だ?!」


 コウが慌てているが聞く耳は持たん。


『亀――ディストラクション』


 左手からニョキッと顔を出した玄武が、パカリと口を開くと凄まじい熱線が、集まってくる。


「「「はぁぁぁぁぁ?!」」」


「ここから、みんなぶっ飛ばしてやらぁ。みんな目ぇつぶっとけ」


 ズォゥと空気が揺らぎ、あたりが真っ暗になると海亀から閃光がほとばしった。

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