チョーーーヤバイんですけど?!
(前回のあらすじ)
ムスタフ将軍が要請したのはライガたち第二空挺大隊の陸戦部だった。コウヤたちは貴族中心に編成された後発の一万の軍に裏切られ窮地に陥る。
そしてコウヤはキレてしまう。
◇◇
「盾兵っ、獣人も全部退けっ。魔人の百人や二百人なんぞぶち殺してやらぁぁ――っ」
「「「敵将コウヤ発見っっ!」」」
パシュンッ、パシュンッ、と見たこともない数の信号弾が打ち上がる。
「師匠っ、キレちゃダメだってっ」
リョウが叫んでいるがもう眼中にはない。
あるのは黒い鎧を来て爛々と目を輝かせる魔人どもだ。俺を討ち取る気マンマンでやがる。
『神速――』
魔練鉄心で練り上げた神力と魔力が一気にブーストされる。
目の前の時間がゆっくり流れ出した。
「敵〜将〜ッは〜ぁぁぁ〜っ。こ〜〜〜こ〜〜〜〜だぁ〜〜〜〜ッ」
壊れたレコードのような敵の雄叫びが間抜けすぎて笑いたくなる。
「フンッ!」
五メートルほど先にまで迫ってきていた黒い鎧に、一足飛びで近づくと横に一閃。
ドンッという音とともにその首が飛んだ。
ソイツの血吹雪が上がる前にその後ろにいるヤツにも躍りかかる。
俺が元いた場所を睨んだまま、こちらをまるで目視できていない。
何やら魔法をぶっ放すつもりだったようだ。
突き出した左手のガントレットに手を添えて、魔力を放出しようとしていた。
「シッ!」
食いしばった歯の隙間から短く息を吐き、その腕を叩き切ると刀を返して喉元を掻き切る。
その勢いのままクルリと身を回して、隣の槍を持った魔人を袈裟斬りに斬り下げ、さらに前へーー。
少し後ろにいた槍兵が俺の元いた場所へ、白銀に輝く穂先を投げ入れようと、弓のように体を反らせている。飛び込んだ勢いそのままにその胸にミスリルの剣を突き立てた。
胸部鋼板が火花を散らす。
ここまで加速した俺の体重の乗った剣先は、豆腐に箸先を突っ込むようにその鋼板を突き抜けた。
『重いモンをすっごく早くぶつけたら、すげぇ痛ぇ』だったけか?
素早く引き抜いてその横へ飛ぶ。
勢いそのままに隣の槍兵の冑をぶっ叩くと、変な角度に首が曲がってゆっくり崩れ落ちていく。
『まだまだぁっ』
胸の高さくらいの盾を並べて壁を作っている連中が視界にはいる。
『拠点を潰してやるっ』
タ、タンッ、と地を蹴るとその壁を飛び越え、素早く振り向くと袈裟斬りに切り落とし、かえす刀で隣を斬り上げ体を捻ってよこなぎに斬りつける。
「う〜〜〜〜ぅわぁ〜〜〜〜っ」
こちらをゆっくり見た間抜け顔。
咄嗟に手を突き出そうとしているのか広げた手のひらが上がってくる。その頃には横をすり抜け、ソイツの首を落とした。
次に視界に引っかかったのは、盾兵の後ろにいた魔導官だ。
「うわぁ〜〜ぁ〜ぁ〜っ」
ゆっくりワンド(魔法使いの杖みたいなやつ)を持ち上げ、俺の振るう剣から身を守ろうとする。
そのワンドごと叩き切って、さらに前へ飛び出す。
『どいつも、コイツもっ……っっ』
最後尾にいた二メートルを超すクマのような魔人を頭から胸まで叩き切って崖下に蹴落とした。
『舐めた真似しやがったらっ』
無音の世界で俺は暴れ回る。
『ただじゃおかねぇぞッ!』
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ――っ」」」
ビュンッ、ビィンッ、ガシャンッ、スバッ、ブシュゥッ、ブワッ、グォンッ、ドンッ。
音があとから追いかけて来た。
ブワッ、と振り返る。
その先をトコトコと走る魔人が横倒しになり、ゴロンッとその首がもげた。
あちこちで血吹雪が舞い上がり、魔人が作った拠点の盾が倒れていく。
少し遅れて崖下に蹴落とした例の魔人が落ちていくのが見えた。
どうやら『神速』が解けたようだ。
どうだっ?! まだやるってか?! ……? あれ?
俺も膝から崩れ落ちる。
魔力切れ? 神力枯渇?
視界がグルリと回ってそのままソコに倒れ込む。
ヤバイな……。
もう……、動けねぇ……。
チョーーーヤバイんですけどっっっ?!
俺の焦りとは裏腹に、呆気なく意識が途切れた。
◇◇◇
「……ウヤ……んっ」
「……ヤ師匠っ……」
「コウヤ将軍――っ」
なんだか騒しい声がする。
「起きてくださいっ、コウヤ将軍ッ……」
その将軍ってやめてくんない?
もういいから、偉そうだけどシンドイわ。
命を預かるなんてガラじゃねぇし、もっとお手軽な方が希望ですぅーーー。
「起きろっコウヤッ!」コウの声がした。
ハイッ、ごめんなさいっ!
慌てて目を開ける。
ボーっとした頭を振り瞬きを繰り返すと、視界がハッキリしてくる。コウと見慣れた連中がこちらを覗き込んでいる。
ん? どうしたの?
コウがふぅ、とため息をついた。
「コウヤッ、いくらなんでも無茶しすぎだ。仮にも将軍が敵の中に単身飛び込むなんてあり得ないぞ」
少し怒っているみたい。
「んぁ……? あれ? どうしたの? あれからどうなった?」
「崖上に登ってきた魔人軍は撤退しました。ほとんどコウヤ将軍が斬り伏せてしまわれた。百は超えていたでしょう」
近衛隊の一人が教えてくれた。
少し視線に畏怖の色が見える。リョウがそのあとを引き継いでくれる。
「魔人軍はまだ渓谷の下にいるッスよ。崖の上に来た連中の残りは片付けました。それからすぐあとにコウさんがやってきてここにいるってワケです」
よく見ると天幕の中だった。簡易ベットに寝かされていたようだ。
魔力、神力ともにガス欠になって意識を失って倒れたところまでは覚えている。
「大変だったんスから。魔人が突っ込んでくるのをみんなで防ぎながら、天幕まで師匠を引きずって避難させたんですからね」
全く後先考えない将軍ってどうなんすかね? なんて憎まれ口は相変わらずだ。
「リョウ、俺はどれぐらい寝てた?」
「二時間ってとこですかね?」
「サンガ少佐の本隊は? 合流できたのか?」
まだ頭の奥がズキズキと痛む。
「あそこッス」
天幕の入り口を覆う布をたくしあげると、渓谷の両側の崖の上に一万を超える軍勢が姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます