ミズイ戦線  横撃

(前回のあらすじ)

 “魔獣の森”からの奇襲を受けた俺たち。

 サンガ少佐と俺はこれから反転攻勢をかける。


◇◇


「獣人部隊を借りるぜ?」

 

 火山弾ボルガニックの爆風でめくり上がろうとする地図を抑えながら、俺はサンガ少佐にざっくり作戦を伝える。


「俺は獣人部隊を率いてアイツら(魔人軍の小隊の駒を指しながら)の横っ面を叩く。

 サンガ少佐は、残りを指揮して反転攻勢に出てくれ。

 従来の打ち合わせ通り、後方(支援部隊)には“風の民”を護衛に物資を森の奥まで移動――」


「無茶だ、あなたが倒れたら全体が崩壊する。側面攻撃は獣人部隊のモンに任せましょう」


「なぁ……俺は将軍様ってガラじゃねぇって。

 全体の指揮はアンタに任せる。獣人たちアイツらに無理言って連れてきたのは俺だ。俺が安全なところにいちゃダメなんだよ」


「あなたがなんと言おうと、周りがあなたを将軍と思っている。

 奇襲ごときであなたが危機におちいれば、我らにとっても名折れだ。

 なによりあなたは『災禍』を納めなくちゃならない。この先もあるんですぞ?」


「ブチブチ言うなって。アンタは俺のオカンか?」

 そう言って笑うと、呆れた顔をする。


 納得できねぇって顔だ。苦笑いしながら続ける。

 

「俺が前に出るのには意味がある。

(敵の)奇襲部隊を全部コッチに引き付ける。いや、コッチに来るさ。

 武功に血迷ってる連中だ。とんでもない武功が横から来るんだからな。

 正面向いてた奇襲部隊を横向きにさせる。そこを叩いて欲しい。

 そのあとは連中を率連ひきつれて罠に誘ってやるさ」


 ん……? 俺ってこんなに好戦的だったっけ?


 ふわっとそう思ったが『ここは命を張りどころぞ――』と別の思考が疑問をかき消す。


「無茶だ――狂ってる。と言わせたいのですか?」


「少しばかり狂わなくちゃ、今度の敵は倒せないだろ? 鼻の穴かすには、(無茶を)やるしかなんねぇ」


 バクチが過ぎる――と額を擦りながら、サンガ少佐が地図を見つめている。

 おそらく脳内で討論会でもしてるんだろう。


「わかりました。ともかく我らは横を向いた敵を突けば良いのですな?」


 渋々といった感じでサンガ少佐が頷いた。


「じゃ、頼むぜ……って、オキナへの報告も頼んだ」


「了解です。将軍もご無事で」

 サンガ少佐にヒラヒラと手を振り、獣人部隊の居場所を聞く。

 

「……ん? 俺だったかい?」

 今さらのようにサンガ少佐を見ると、


「将軍。あなたが倒れたらここにいる一万の命が危うくなります。それをお忘れなく」


 困ったような笑顔で胸に手を置くゴシマカス軍式の敬礼をする。


“我らの命は貴方と共に”

 

 それを言いたかったらしい。


「アンタもだよ、コッチは心配いらねぇ。サンガさん、ココは任せた」


 ドーンッと火山弾ボルガニックが近くで破裂し、シールドを揺らす。爆風が吹き込んできて耳がキーンとなる。


「んじゃ行ってくらぁ」


 そう言い残して走り出した。


◇◇


 盛んに“魔獣の森”へ向かって光の矢ライトニングを撃ち返している獣人部隊と合流し、盾兵で壁を作ってモンとシンを呼び寄せ大まかな作戦を伝える。


「奇襲部隊への側面攻撃は我らに任せても良いんですぞ?」

 モンが呆れたように言うが、


「馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺が出て行かなきゃ、ムスタフの本隊は釣り出せないだろう? ちゃんと頼もしい護衛は連れてきているから心配すんな」

 とチラリとリョウに視線を投げる。

 他にも護衛として近衛隊を二十名ほど連れてきた。

 

 リョウときたら

「まったく将軍の近くなら安全かと思ってたら、すぐ前線へ出張でばるんだから……」

 ブチブチと恨みがましい目線で見返してくる。


「森といえば獣人だろ? 一番頼りになる部隊だから安全だ。ブチブチ言うな」

 スコンッと頭にチョップを振り下ろし、「痛ってぇ」とぼやくリョウを急かして信号弾を打ち上げさせた。

 作戦開始の合図だ。


 “魔獣の森”の正面の部隊が火力を増し、時折飛んでくる火山弾ボルガニックを魔導官がシールドで跳ね返している。

 ガチャガチャと金属兵が最前線に並び壁を作ると、両手に大ぶりなライトニング・ボウを装着して猛烈に掃射し始めた。

 バンバンッ、ドーンッという轟音とともに眼前の木々が薙ぎ倒され、土が舞い上がって湿った苔の匂いがする。


「全体、前進っ」


 サンガ少佐の号令が響くと、金属兵を盾に前進が始まった。


「俺たちも行動開始だ」

 “魔獣の森”へ沿って走り出す。


 五百メートルほど本隊から離れると、マッピングしていた獣道へ入る目印がある。

「森へ入るぞっ」と声をかけ、その印に沿って長い縦列に変わり駆け込んで行く。


「正面は我らが守ります。将軍は中央へ」

 とモンから後ろへ追いやられてしまった。

「将軍に何かあったら、ナナミ殿が……」とぶつぶつ何か呟いてるのはなんで?

 良い娘だよ?

 

 モンより先に斥候に出ていたシンが戻ってきた。


「この先でゴシマカス軍と魔人軍が交戦中です」


 しばらく進むとライトニングが木々や岩を砕く音と、「……なッ! 撃ち返せっ」と激しく叱咤する声が風に運ばれてうっすらと聞こえるようになってきた。

 獲物は目の前だ。


「みんなわかっているな? 光の矢ライトニングの用意」

 声をかけると背にからげたライトニング・ボウをセットする。


 射線を塞ぐものがなくなり、小さく魔人の小隊らしき一団が見えた。

「構え……」と声をかけると、盾兵も手にしたライオット・シールド(透明な盾)を地に下ろし、ライトニング・ボウを構える。


「撃てっ」

 俺の号令に合わせて一斉射撃が始まった。

 シュタタタッと空気を引き裂き、ライトニングが光の尾を引いて魔人軍の背に吸い込まれていく。


「ぐをっ!」

「がぁっ!」

 背を撃たれた五、六人が手にしたライトニング・ボウを取り落とし、転がっていく。

 

「敵襲っ! 散開っ」

 途端に小隊長らしき魔人の短い指示が飛び、木々の影に魔人が飛び込んで見えなくなる。

 

 ココで削れるだけ削る。


「構え」と低く声をかけ、胸いっぱいに息を吸い込む。


「俺がコウヤだっ! テメェら覚悟しやがれっ」

 大音声を張り上げると、馬鹿なのっ?! と味方からの痛い視線が集まる。


「撃てッ」

 号令を発した。

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