ヤル気MAXなんですが?! ダメですかね?

(前回のあらすじ)

 俺と獣人部隊は奇襲をかけてきた魔人軍の側面に回り込み、一斉射撃を開始した。


◇◇


「撃てッ」


 短く号令を発すると、光の尾を引いて光の矢ライトニングが木々に隠れた魔人たちに襲い掛かる。

 奇襲していた側が奇襲されるんだ。

 さぞや浮き足立って逃げ回るだろうなんて思っていたのさ。

 

 ところが、なんてこったい?


「コウヤがいるぞっ! 大将がノコノコ出てきよったわっ」


 今まで襲っていたゴシマカス軍の本隊なんか無視して、猛烈にコチラへ向かってくるじゃないですか?


「にじり寄れっ、援軍がくる前に我らの手でっ」

「勲第1等だっ!」

「魔力が切れるまで撃ちまくれっ」

 

 コチラも獣人部隊と近衛隊合わせて百人は連れてきている。なのに十人かそこらの魔人が偉い勢いでコチラににじり寄ろうとしてる。

 

 十倍の光の矢ライトニングの中をだぜ?

 あらやだっ! なんなのあの人たち?


 そうこうしている間に、他の小隊もコチラに集まって来ているようだ。光の矢ライトニングの束が襲いかかって来た。


「薬が効きすぎたかもしんない……」

 小声で呟いたのは内緒だ。


 コチラから撃ち込む光の矢ライトニングと、向こうからの撃ち返しが交錯し、あまりの掃射密度に光の矢ライトニングどうしが空中でぶつかりパンパンッと火花を散らしてる。


 パシュン、パシュンッと盛んに俺がココにいることを知らせる信号弾が打ち上がっている。


 どこに? もちろん魔人軍の本隊でしょう?!

 これで当初の目論見どおり、釣り出せるワケだ。釣り出して殲滅するまでの経路は、何度も下見して頭の中に叩き込んである。


 戦いの狂気が歓喜へかわったのかゾクゾクッ、と身震いする。


 ん……? 俺ってこんなに戦闘狂バーサーカーだったっけ?

 

『逆風が吹いている時に前に出ると、絶対に何かが変わる』

 

 俺の尊敬するボクシングチャンピオンの言葉だ。

 今は前へ――ココで踏ん張らなきゃ、もっとたくさん死ぬ。

 それはゴシマカスの誰かの親であり、子であり友である。流されるかも知れない誰かの涙を止めるためなら、俺は前に出よう。


 俺の胸の中にある何かが、ならば前にでよ――と俺に命じる。


 俺はミスリルの剣を引き抜き、全身に闘気を巡らせるとその場でグッと腰を沈める。


「コイツら血祭りだっ」


 頭上まで振り上げたミスリルの剣をビュッと振り下ろすとドンッと俺の足元がしずむ。


「アンタらの親や友や想い人をコイツら狙ってやがんぞっ! クソ野郎どもを叩っ切れっ」


「「「ウォォォ――ッ」」」


 あたりの木々が枝を揺らした。

 獣人部隊のウォークライが空気をビリビリと揺らして。

 あるものは魔石が尽きたライトニング・ボウを背に回し軍刀を引き抜き、またあるものは素早く木によじのぼり枝から枝へ伝って魔人軍の頭上へ目にも止まらぬ速度で移動して行く。


 対する魔人軍もゾクゾクと押し寄せて来ては、人の二倍の魔力を練り上げ、頭上に光の矢ライトニングを発生させた。


 魔人軍の中隊長らしき男が吠えた。

「我らでコウヤを仕留め――」

 

 魔人が吠え終わる前に、俺は思いのありったけを篭めて叫んだ。


「一人倒しゃ十人が生き残るっ、ブチ咬ませぇぇっ」

 俺の大音声があたりに響き渡ると、全員が火だるまになって魔人どもへ襲いかかった。


「「「ウォォォ――ッ!」」」


 もうどちらの雄叫びかわからない。


 シッ、と気合いを入れると先頭の俺は走り出した。

 正面から光の矢ライトニングが襲いかかってくる。

 海亀がそれより早く透明なシールドを展開し、畳二畳分の透明な壁がただの火花へ変える。

 それが百も二百もとなれば話は別だ。

 とんでもない量の光の矢ライトニングが飛んできた。


「押し切れっ、蜂の巣にしてやれっ」と魔人軍の誰かさんが喚いている。

 豪雨にたわむトタン屋根のように圧力に耐えきれずシールドが変形を始める。


 じょ、冗談じゃねぇぞっ。


 リョウが盾兵を従えて俺の前に駆け込んでくる。

 

「なにやってんすかっ! 将軍が的になってるって馬鹿じゃないすっかッ?」

 近衛兵に俺を預けると、自分は近くの木立に飛び込み光の矢ライトニングを乱射し始める。


「早く下がってっ。近衛兵は将軍を後方へ避難させろっ」


 ぐぬぬぬぅ……。残念だが敵の密度が濃すぎる。


「さぁ、コウヤ将軍は後ろへ」


 近衛兵が翳すライオット・シールドに守られながら、射程の外まで避難する――その時だ。


「ガァァァッ」


 咆哮とともに獣人部隊の虎族が木の上から魔人軍へ踊りかかっていた。


「なっ?!」


 俺を倒すことに躍起になっていた連中は、前がかりになって隊列が伸び切っていた。視覚の外から襲いかかって来た虎族に気づかなかったのだろう。

 振り下ろされた山刀マチェットに切り裂かれる。


「くぁっ」

 悲鳴とガチャンッと鎧が崩れ落ちる音がして、魔人が倒れている。

 両者の距離が0になると、誤射を恐れた光の矢ライトニングが鳴り止み両軍入り乱れての白英戦になった。

 

 虎族の扱う山刀マチェットは刃渡り四、五十センチほど。

 刀身が軍刀に比べて短いのはその名の通り密林やサバイバルで使うことを目的としているためだ。

 大ぶりな剣を好む魔人軍と比べリーチでは劣るが、山中の木立が邪魔をして振り回せない魔人に対し、手数で圧倒する。


 俺は混戦になっている連中に声を上げた。

「一対一になるなっ、複数でしとめろっ」


「「承知っ!」」

 声を上げた狼族の兵士が、スルスルと駆け寄り三人で取り囲み斬りかかっている。


「だぁぁッ」

「このっ、ハエどもがっ」

「卑怯ものどもがっ!」


 魔人の振り回す大太刀が木立に剣が食い込み、そこを躍りかかる獣人たちに討ち取られていく。


 そろそろ俺(主役)の出番ですか?

 そうですよね?


 俺はゆっくりと歩み出ようとすると、

「なに出張ろうとしてンスか?! 将軍は引っ込んでてくださいっ」

 前線から戻ってきたリョウが俺を制し、油断なくあたりを見回す。


 あれ? なんで?


「ちょっ、ちょっと! ココで決めなきゃ(勢いを盛り返すから)まずいでしょう? 一気に殲滅しとかなきゃ」


 俺は今、海亀がバックラーを顕現させミスリルの剣に魔力を纏わせている。

 高圧の電線が発するようなブ――ンッと低い音が響いている。

 ヤル気MAXなんですがっ? ダメですかね?

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