ミズイ戦線 俯瞰


(前回のあらすじ)

 

 補給のマジックバックが届く三日目に、魔獣の森に侵入していたのあろう魔人軍が襲いかかってきた。


◇◇


「「敵襲〜っ!」」

 

 ガンガンガンッと警鐘アラートが鳴り響き、奇襲を伝える声が交錯した。

 信号弾がプシュッ、プシュッと白煙の尾を引いて打ち上げられ、離れている味方にも敵襲を知らせる。


 全方位に索敵を広げていた魔導官が、「南西二時ッ、南西二時方向だぁ〜っ」

 

 と叫びながら敵の方向に方位石を投げ込むと、緑色の光線が伸びていき“魔獣の森”に潜む敵のありかを示した。

 そこへ向かって光の矢ライトニングが、白銀の尾を引いて吸い込まれていく。

 

 敵からの光の矢ライトニングも雨のように降り注ぎ、水しぶきのような着弾痕があちこちに立ち上がった。

 少し焦げたカビ臭い土の香りが漂う。

 

 中隊長だか千人将だかの

「物陰に飛び込めっ、盾兵ッ、森だっ、森に向かって展開しろ。森へ壁を作れっ」

 あちこちから指示の叫び声がする。

 ガチャガチャとライオットシールドをかざした巨漢たちが森へ向かって走って行った。


「ぐはぁっ!」


 姿は見えないが、負傷した兵の悲鳴を聞くたびに俺は歯を食いしばる。


 畜生めっ、倍にして返してやる。だから。

 だから声を張り上げる。

 

「怯むなっ! テメェらッ、これから反転攻勢をかけるっ。撃ち返せぇ!」


「「「応っ」」」

 

 心強い声が上がった。

 奇襲に浮き足立っちまったんじゃねぇか? と心配したが、しっかり指示が耳に届いている。


 これからだッ、見ていやがれっ!

 

「サンガ少佐っ、サンガさんいるかい?!」

 

 俺は近衛隊の翳すライオットシールドに庇われて、半球状のシールドで覆われた天幕まで移動しながらサンガ少佐を探した。


 彼もまた五人の近衛隊のライオットシールド(透明な盾)に囲まれながらコチラへ近づいてくる。

 サンガ少佐は実質の大将様だ。大軍を動かすにはこの人は欠かせない。


 雨のように降り注ぐ光の矢ライトニングの中を、「コチラです」と走り寄ってきた。

 

 こっちへ――とシールドが展開されている天幕へ招き入れると、

「あちこちから滲み出てくるように近づいてくる」

 と、周辺地図におれの索敵に映る敵影を駒を使って視覚化する。


 まずは防御の形をそして反転攻勢の形を作りたい――要件だけ伝え、どう動かす? とサンガ少佐を見た。


 バンッ、パァンーーーッと、空気を震わせる轟音と真っ赤な閃光が、魔導官の展開したシールドに衝突し砕け散った。

 シールドで直撃は弾き飛ばすものの、爆風が天幕を捲り上げる。

 

火山弾ボルガニックだ」


 俺は肩をすくめギラギラと弧を描いて押し寄せる炎の塊を睨んだ。


「アイツら一帯を焼き尽くすつもりか?」

 

 どうする? どう動けばいい?

 

 轟音と爆風の吹き荒ぶなか、盤上に並べた駒の配置を見ながら索敵に引っ掛かる敵影に合わせて駒を動かして行った。

 

「反撃しようにも、こう(火山弾ボルガニックを打ち込んで)こられては……」

 サンガ少佐と言えど判断しづらいらしい。


「どこの、何を狙って仕掛けてくるか? 迷います。広域を制圧するだけの戦力で来ているとは思えません」

 索敵に引っかかる敵影の数に首を捻る。

 奇襲した後に大隊を繰り出すには“魔獣の森”が邪魔して時間がかかり過ぎる。

 

 それにそこまでの大軍を伏せているくらいなら、コチラの斥候も気づいたはずだ。だから今、奇襲をかけて来ている連中は小隊規模で小分けして襲っているに違いない。

 現に索敵に引っかかる敵影は小さく、そしてあちこちから散らばって湧き出てきた。


「マジックバックはどうなってる?」


「先ほどの配置で、魔導官がシールドを展開して守ってくれています。防御に三百ほど配置が終わったところです。あとの追加も動いています」


「上等っ、後の配置は?」


 地図に置かれた駒を使って説明してくれる。

 ミズイの広域地図の一番天辺に魔人軍の出入りする魔口。それから南に下ると今魔人軍が布陣しいているあたりだ。

 それに相対するようにコチラが一万。

 その南側に広がる“魔獣の森”を挟んでさらに南に、“野伏の計”のために配置した一万のゴシマカス軍がいる。

 簡単に書くとこうだ。

 

     ◯魔人軍の出入りする魔口ダンジョン

      

  

          

   ▽ 魔人軍二万  

       入り口 の塞がれた 魔口ダンジョン✖️


       入り口の塞がれた魔口ダンジョン✖️ 


 

✖️入り口の空いている魔口ダンジョン    


      ▲ ゴシマカス軍一万

||    ⚫︎←マジックバックの到着するところ

||||  ↑ ↑ ↑ 奇襲されているところ。今ココね

||||||||||||||||||||||||||||||||

 |||||||| “魔獣の森”

   ||||||||||||||||||||||||||

      ▲

     ゴシマカス軍一万

 画面右二ヶ所の 魔口ダンジョンは、敵から丸見えな上に移動距離が長いし、入り口を塞がれている。

 一番近いのは画面左手。入り口は空いているが、罠の匂いがプンプンする。

 

 ありゃ……?

 俯瞰図を見ながら奇妙なことに気づく。

 

「魔人軍が二万……? 最初は三万だったよな? この前のスタンピードで四千は片付けた……残り六千をどこへ隠しやがった?」


 おそらくそれがムスタフがいるはずの本隊なのだが。


「ココでしょうな」

 サンガ少佐の指差した先は、一番近い画面左の入り口の空いている魔口ダンジョンだった。


「我らが魔口ダンジョンへ避難する、と読まれていたとします――攻略しやすい第一層を制圧して待ち伏せすれば、我らは格好の獲物です。

 仮に他の二箇所へ行っても、入り口をこじ開けるのに時間がかかる。

 そこへ見張りでも立てておけば、ココから(入り口の空いている魔口ダンジョンと二万の魔人軍を指し)急行して背を討つのは容易いですからな」


「魔獣の森ってことはないか?」


「斥候が気づかないくらいに分散するのなら。挟撃するために二手に分かれているケースもありますな」


 と、なると――?


「「当初の予定通り“魔獣の森”へ逃げ込む」」


 待ち構えている敵は放っておく。

 そして敵が魔口ダンジョンか、魔獣の森奥深くに伏せていたとしても誘い込んでこれを叩く。

 魔口ダンジョンへの避難はそれからだ。


「反転攻勢だ。一泡吹かせてやろうぜ」


  よしっと駆け出しそうになる俺は、このあと叱られることになる。

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