なんでかなぁ……?

(前回のあらすじ)

 心配をかけたナナミへのお詫びに、観光都市『ヤバイへの旅行を約束してしまうコウヤ。オキナから出された教会との交渉依頼を、ホテル代と引き換えに請け負うことになった。


◇◇


「なんでかなぁ……」

 ウスケ陛下がゴシマカス神国を立ち上げた。

 それだけではなく後ろ盾の教会がなにか画策しているーー。


 オキナから受けた依頼は、平たくいうと教会へ『停戦交渉の時に変なことしないでね』と協力を取り付けるだけの話と思っていましたよ。

 この↑ 時までは。

 

 ところがブホンにいるアテーナイ教会の教皇へ会談を持ちかけた途端。


『アテーナイ教を迫害から守り、女神の託した政権へ戻す』

 と、ウスケ陛下とガンケンが主催するゴシマカス神国が大挙して押しよせ、第三都市『ブホン』に立てこもってしまった。


 はいっ! どうも〜っ。

 国体の事案をバイト感覚で請け負ったら、とんでもなく面倒くさいことになってるコウヤくんだよっ。


 このタイミングで国を割る?

 ってムカついてたし強硬に出てきたから、義勇軍でブホンごとぐるっと囲んで動けないようにしてやった。

 だって依頼は教会が妙な動きをしないようにしてくれって言うことだし……。


 義勇軍の本陣で四階建てのビルくらいはある城壁を俺は眺めている。


「なんでかなぁ……」

 またまた面倒くさいことになった展開に、ため息をついた。


◇ガンケン・ワテルキー目線です◇


「なにをモタモタしておるっ。ちんの威容をもって、不届者ふとどきものどもを退けると申したであろうがっ? で、あろうがっ?!」

 ウスケ陛下の叱責の声が、第三都市ブホンの領主館に響いていた。

 

 城壁のまわりは二千を超える軍がグルリと包囲している。対してこちらはワテルキー家の領兵を含む『白い騎士団』、教会の僧兵、志願兵や傭兵を合わせて八百に満たない。

 まったくもって太刀打ちできる兵力差ではない。

 先ほどから苛立ちを隠そうともせずに、当たり散らしているウスケ陛下の癇癪かんしゃくもそこにあった。


「包囲は必ず……。何とぞしばしのご辛抱を」

 私(ガンケン・ワテルキー)は陛下の前に跪きこのバカをなだめていた。


「おのれっ、見えすいたウソを申すなっ」手にした扇を投げつけてくる。

 首だけ動かしてそれを避けると、床に転がったそれを額に押し戴くようにして懐にしまった。


「包囲など二、三日で解いてご覧に入れましょう」


「ほほぅ? 手立てがあると申すか?」


「教会の集めました三万もの援軍がこちらに向かっております。

 包囲はこれにて。

 ほかに教会をつうじて各地で暴動を煽動しております。つまり揺さぶりに揺さぶってほころびを広げるよう動いております」


「ふむ……。

 ヒューゼンとて好機とみて攻め込んでこぬか? ゴシマカス神国ここはあくまでもゴシマカス本国を取り戻すまでの仮り住いじゃ。

 本元が危うくなれば元も子もなくなるで、あろうが? あろうが?」

 落ち着きなく貧乏ゆすりが始まる。


杞憂きゆうにございます。

 さきに痛撃を受けたヒューゼンは停戦にむけて舵を切った、と情報がございます。

 仮に仕かけてきたにしても、そちらには軍が当たりましょう。我らはその間に政権を取り戻す手筈を整えれば良いだけ」


 バカなのか?

 なにも考えないコイツはそろそろ――いや、事後処理を考えればまだ利用価値はあるか? と思い直す。

 

「それに玉璽ぎょくじ(王様の決済印)がなければ正式な条約は結べません。どうあっても政権はウスケ陛下にお戻りいただくしかないのです――」

 かくてヒューゼンへの対応に追われる政権は、我らを無視できなくなる。


 裏切りものあやつらどもも一枚岩ではないはず――裏切りものの非を打ち鳴らし、各地に檄を飛ばし離反をさそっていく絵図を示す。

 

「“停戦は弱腰”と喧伝し、陛下なら切り取って貴族どもへの報償へするであろうと吹聴します。

 侵攻で出費ばかりの貴族どもは、見返りを欲しがっております。おおかたの貴族が耳を傾けるでしょう」


 そうーーすべては利に転ぶのが貴族だ。


玉璽ぎょくじを用いて“ ヒューゼンを討つために政権を取り戻す”と勅命を発し、今の“ニセモノ政権”を打倒するのです」


 政権を取り戻し挙国一致でのぞめばーー。

「ヒューゼンなぞ恐るるに足りません。打ち払い併呑して見せましょう。

 かくて『救国の英雄』と陛下の名がーー」


 ひざまずいた姿勢からゆっくりと立ち上がると、胸に手を当てウスケ陛下と向かいたった。


「うむっ、それで行け。ただしくれぐれも仕損じるなよ。わかったであろうな? あろうな?」

 忙しなく貧乏ゆすりを繰り返していた足を組み替えて、満足げにうなずいた。


◇◇◇コウヤ目線です◇◇◇


「正気なのか?」

 

 交渉の使者が持ち帰った返信を見て、サンガ少佐が頭を抱えた。


「国体をすぐに元に戻せ? できるワケがない」

 突っぱねたいのは山々だが、停戦条約を結ぼうにも玉璽ぎょくじはウスケ陛下が持っている。

 玉璽を押した書類がなければ条約にならない。


「おまけに後ろから三万の軍勢って?」と、いうワケで冒頭に戻るってワケ。

 援軍を要請したが、返事はまだだ。

 

「サンガ少佐、軍を分けよう。まずは後ろからくる連中だ。風の民と叩いてくるぜ」


「いえ、後ろには私があたりましょう。交渉に大将がいなければ話になりませんから」

 サンガ少佐が近習を呼び寄せ、編成を指示しはじめた。


「ちょっ、ちょっとって」

 

 サンガ少佐の肩を抱き、天幕の中にいるほかの連中を退けると小声で頼みこむ。

「こんな交渉なんてやったことないんだよ。サンガさんよ、頼まれてくれねぇかな?」


「面倒くさくなったんでしょ?」呆れた目で見てやがる。

 

 ――くそぅっ、図星だよぉッ。


「ことは国体に関わるんだ。俺がどうこうできるレベルじゃ――」

 ふと、待てよ? と思い返す。


「あれ……? 別の王様を立ててしまえば良いんじゃね? ウスケ陛下は神国の王様になったんだし」

 え? と、互いに顔を見合わせた。

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