ご褒美は?
(前回のあらすじ)
監禁からの救出と負傷から回復したコウヤの祝いにオキナが宴を設ける。そこでウスケ陛下とガンケン・ワテルキーがゴシマカス神国を名乗り反旗をひるがえしたことを聞く。
◇◇
うわぁ……。めんどくせぇ……。
第一印象はそれ。
思わず取り落とした箸を拾い上げ、給事さんに代わりの箸を持ってきてもらう。
オキナがコウにうながすと、外の音が消えた。
「ここをまるっと遮音した。食べながらで良い、あらましを聞いてもらっても良いか?」
オキナはこちらに向き直ると顔を引き締めた。
「国王が自分の国に反旗をひるがえすって……どういう事だい? それ」
グビリと飲みかけの酒を飲み干して、オキナを見つめる。
「国を割ってでも政権を取り戻したいらしい」
オキナは一瞬、口をへの字に曲げると黙々とボア肉を切り分け口に運んだ。
ゴシマカス国民の八割がアテーナイ教の信者だ。当然
その教会のネットワークを利用して、ネガティブキャンペーンまで始めてやがるんだと。
「我らのことを、神授政権(女神アテーナイから賜った政権)を敵の王宮襲撃に乗じて奪った不届もの――と吹聴しているようだ。教育レベルの低い層はまともに受け止めてるだろうな」
バカ言ってんじゃねぇよ。
もともとはアンタらがやらかしたからなんじゃないのかい? と声を大にして言いたい。
「二人とも極秘に軟禁してただろ? それをどうやって見つけたんだい?」
「身の回りの世話をさせていた従僕が、『白い騎士団』を引き込んだらしい。身元を洗ったものに任せたんだけどな。しくじったよ」
「居場所はわかったのかい?」
「もちろん。ウスケ陛下にはお戻りいただくよう使者を送っている。あわせて“ウスケ陛下を
「なんで今なんだよ。やっとヒューゼンの侵攻を食い止めたってぇのによ」
オキナがもう少し飲めるであろう――とつぎの杯に注ぎながら、
「だからこちらは祝典を開いて、敵の侵攻を食い止めたって大々的にアピールすることにしたのさ」
トンッとデギャンタをおいた。
「サユキ上皇はなんて?」
返杯をつぐと、目の前の肉の海藻巻きを突っつきながらオキナに尋ねてみる。
それにしても美味ぇ。
海藻の旨味が肉を柔らかく包んでいる。
噛みしめると肉汁と海藻の旨味が溶け合って、ふわぁ〜っと口中に旨味が広がる。
「今はヒューゼンと魔人の動きに注視せよ、との
ふぅと息をつくと、すまんな――とナイフとフォークを器用に使い、焼き魚の身と骨を切り分けコウの取り皿に乗せた。
「話すべきかどうか迷っていたが、話せて良かった。この場で話せることは全て話してこいと仰せだったが、私が焦っているとお見通しだったのだろうな」
忙しなくナイフ動かして、取り皿に一口分の焼き魚をのせると、コウヤ殿――と言い淀んでいる。
「これからヒューゼンとの停戦交渉にはいる。教会の勢力が不穏な動きを見せている中でだ――。不安な要素は取り除いておきたい」
わかるよな――と目で問いかけてきた。
「まぁ、詳しくはあとで頼むわ。マジで美味ぇよこのボア肉? の海藻巻き」
食いねぇ、食いねぇ。
大皿からナナミの分を取り分けると、残りをオキナに押しやった。
また俺が何か騒動に巻き込まれるのではないか? とナナミが不安気な顔をしていたのを見てコウが微笑んだ。
「大丈夫よ、コウヤはね。この世界で一番強いんだから。それに今回は教会との交渉だから危険は少ないと思うのーーと、言ってもナナミちゃんは心配するでしょうね……。
お詫びにこの騒動が落ち着いたら旅行にでも連れて行ってもらえば?」
以前オキナと婚約旅行で行った観光都市『ヤバイ』の思い出話しをはじめた。
「――でね、私も落ち着いたら絶対あそこに行ってみたいのよ。あそこの空と海の色は特別なんだから」
風がシナモンの香りがするのよ、と遠くを見つめてふふふっと微笑む。
ナナミは不安な気持ちより、新婚旅行への興味が優ったのか身を乗り出して聞き入っている。
「白い浜辺でのんびりと過ごしても良いし、とてつもなく美味しいスィーツだってあるんだから」
そうだ、そういえばパンフを――とトートバッグの中から取り出した。
「なんでそんなの持って来てるんだよ?」
「この騒乱が終わったら、オキナに連れて行ってもらうことになってるのよ。それくらいご褒美もらってもバチは当たらないでしよ?」
ここまでの移動中にも二人でそのパンフを見て、盛り上がっていたそうだ。
ナナミのヤツ目にお星様が煌めいてやがる。
「うわぁ……素敵。コウヤ様、ここなんか良いと思わない?」
パンフを俺にも見せようと寄せてきた。
なになに? 『白亜リゾート』?
その名のとおり、真っ白なホテルで十四、五階建てはありそうだ。
真っ青な空をバックにココナッツの樹木に囲まれた豪華絢爛な建物が写っている。
プライベートビーチにプール、カジノ、カクテルバーetc――なんでもござれだ。
えーと宿泊費は?
スイートルーム一泊二十五万イン?!
モシャモシャと咀嚼していたボア肉の海藻巻きをゴクリッと飲み込む。
「ダメ……?」
ナナミの顔が少し曇った。
「バァカ、心配すんなって。これくらいなんとかすらぁな。いつも心配かけてんだ。罪滅ぼしにゃあもってこいだ」
カカカカッと笑いつつ、今俺の頭の中で帳簿と電卓がフル稼働している。
あかん……。足りねぇ。
圧倒的に足りねぇ……。
「オキナ、さっきの話なんだが……」
オキナを手招きすると、耳元に口を寄せた。
「ここを一週間で手を打つ。なんとかしてくれ」
頼むわ……。マジで。
と囁くと、オキナはニンマリと笑い「承った」と軽く親指を立てた。
なんだか上手く
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