裸の王様

(前回のあらすじ)

 ウスケ陛下とガンケン団長はゴシマカスを混乱させ、政権の奪取を画策する。そんな中、交渉に当たっていたコウヤとサンガ少佐はあることを思いついた。



「あれ……?」

 互いに顔を見合わせた。

「別の王様を立ててしまえば良いんじゃね? ウスケ陛下は神国の王様になったんだし」

 

 え? と、固まっている。

 

「ウスケ陛下が神国を立ち上げたんなら――」

 ちょっと状況を整理してみる。

 と、言うことはだ。


「なら、いまのゴシマカスの王様はだれよ?」

 サンガ少佐も戸惑っている。


「そうですなぁ……。サユキ上皇様が国王を兼務していると言うところでしょうか?」


「それは怪我した陛下が復帰するまで、仮にって話だったじゃんか? 本人が別の国の王様になったって言うんなら、王座は空いてるよな?」

 

 実際にはヒューゼンの侵攻を食い止め、議会を閉鎖したウスケ陛下の暴走を止めるために、押し込めたワケなんだけど。

 サンガ少佐は、ん〜っと眉間に皺を寄せている。


「つまりコウヤ殿は『降伏して早く戻らないと他の人を王様にするよ?』と脅迫……いや、注進するって言ってるのかな?」

 呆れ顔でこちらを見ている。


「それで戻れば、コッチの言い分飲ませて大人しくしてもらう。それで解決じゃね? こじれて戻らないなら当面、交渉に使う玉璽ぎょくじ(王様の決済印鑑)なんざ作っちまえば良い」


「それでは今までの条約から法律に至るまで、無効になってしまいますぞ? 不可能です」


「なんでさ? 略奪されたからコレにしますってすれば良いんじゃねぇの? ついでにウスケ陛下には、さっさと戻らないと別の王様を据えて討伐しますって言えば、あっさり神国たたんで戻るんじゃね?」


 こらえ性なさそうだし。

 

 悪い人ですなぁ――と、呆れ顔で言いつつも、なんとなくわかってきたようだ。

 あの方は天邪鬼あまのじゃくですから――と前置きを置いて、

「ヘタをすれば国を割ることになりますぞ。混乱は免れないですし」

 

 それに乗じてヒューゼン共和国だって侵攻を再開するかもしれない……か。


「だからウスケ陛下はタカを括って強気に出てるんだろ? ウカウカしてたら、迎合する連中だって出てくるかもしれないぜ?」


「わかりました。そこら辺はコウヤ殿にお任せします。オキナ宰相とよく話し合ってください。

 私は二キロ先のプロンペ川に防衛線を構築しますので、ブホンを頼みます」

 

 サンガ少佐が慌ただしく立ちあがろうとしたところへ、

「金属兵を五百、騎馬兵を二百、歩兵三千の援軍が王都をでました。およそ三日で到着します。それまで持ちこたえよ、との本営からの指令です」

 と知らせが入った。


「おおっ?! これは心強い。コウヤ殿は援軍を迎え入れたら、こちらにも振り分けてください。なにせ数が多い」


「こっちは風の民だけで十分だ。援軍はすべてそちらにまわそう。あ、獣人部隊も連れていけよ。モンに言っておく。ゲリラ戦をさせると強いぜぇ」

 そうと決まれば――俺とサンガ少佐は天幕を飛び出した。


◇◇オキナ目線です◇◇

 本営にて――。

 

「言うと思った……」

 さすがに頭を抱えた。

『ウスケ陛下が独立し王座が空席になったので、新しい国王の選出を。議会を復活させる好機だ』

 

 それはそうなんだろうが、ことはサユキ上皇様のご子息で正式な後継者たるウスケ陛下のハシゴを外せ、と言っているようなものだ。

 さすがにサユキ上皇にこのまま上奏するのも気が引けた。


 異世界からやってきたコウヤ殿には、教会とのしがらみがない。互いに利害がかち合わないから、条件交渉で済むはずだ。

 それを期待して交渉をコウヤ殿にお願いしたのだが……。

 

 あまりに突飛すぎるし、なぜ王様を替える話しになる?


 だが現実問題、この硬直した状況を打破するのにはこれほどの劇薬を投下するしかないようにも思えた。

 

「どうしたの?」

 

 我が最愛にして最強のパートナー、コウが近寄ってきた。

「またコウヤがやらかしてるんじゃない?」


 私の深く刻まれた眉間の皺を見て、手渡したくだんの内容に目を通す。


「全く――やりづらいことを……」

 

 少し茶色がかったセミロングの髪が、肩からさらりとこぼれ落ちる。

 異世界人は黒目黒髪と相場は決まっているが、ことコウ・シマザキ――いやもう、コウ・ザ・ハンで良いだろう――は、少し色素の抜けた茶色い髪と薄茶色の瞳をしている。

 側によると絵もいわれぬ芳香が辺りを包み込んで、私はその余韻に酔いしれる。私を気遣って囁くように語るその声は、天上人の神託に他ならない。


「こうできれば苦労はしないよ――。だが、これしかないような気もする」

 眉間に刻まれた皺を軽くもんで、思索の淵に沈みこむ。誰に利害が生じるのか――?

 とどのつまり貴族はそれだ。


 貴族を中心とした世界である限り、致し方ないとも言える。『種族平等』――コウヤ殿と掲げた理想はそれだけ困難な道とも言えた。

 

「あなたはどう思うの?」


「劇薬かな……?」


「じゃあやめれば?」


「だが、これしかないとも――かな?」


「ではやるべき――大丈夫よ。あなたには私と、ポンコツだけど勇者がついている」


 ポンコツ?

 

「ぷっ! それはひどいな」

 

 思い出すとなぜか笑顔になってしまう我が友コウヤ・エンノ。

 いつも私の思う“あるべき姿”を実現してくれる。もちろん、コウもだ。

 最強の二人が背を支えてくれるのに、私は何を恐れているのだ? そう思った時、肩の力が抜けた気がした。

 

「よしっ、まずはムラク伯爵へ根回しを――議会を復活させるロビー活動はコウ、頼むよ」


「そりゃあ任されるけれど、上皇様が納得されるかしら? 下手をすれば内戦に陥るし、ウスケ陛下が国王に復帰できなくなるのよ? そこまでサユキ上皇は望んでいないはずよ」


「その通りさ。だから少し加減がいる。ブラフと思えないほどの演出もね」

 

 各所から送られてくる報告書を傍に押しやると「さて我が女神さま。お茶でも召しませんか?」

 ソファに彼女をうながしながら、次の一手を考えていた。

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