ごめんて……
(前回のあらすじ)
拠点を構築したコウヤと獣人部隊は、魔道士を削ることに成功する。
そこで飛び込んだ一団の首級は中隊長クラスと思いきや右軍のリヨン将軍だった。
一騎討ちをしかけてきた剣聖ビショップまで倒すも、コウヤは一万の敵の中に取り残されていることに気がついた。
◇◇
「ビ、ビショップ様ぁぁっ!」
ドサリッ、とくずれ落ちるフルプレートの巨漢くん。馬首をめぐらせたもう一人のフルプレートの男が悲痛な声を上げた。
「き、貴様ぁぁっ、リヨン将軍とビショップ様の
おかしなこと言うんじゃないわよっ。
さっきビショップくんは手出しをするなって言ったじゃないのさっ。
いかん。パニックって思考がオカマ言葉になってる。
ん……? 索敵に引っかかる気配がある。
これは――?! いけるかもしんない。右腕に装備した魔道具をそっと触れた。
いまは“時間”だけが味方だ。
味方が来るまで時間をかせぐしかない。
「故人の約束をなしにする気かい? あんたら誇り高いヒューゼン共和国の戦士なんだろう? 戦士が故人の意志を無視するってのは、よくないんじゃねぇのかい?」
「バカめっ! お前を倒せばまだまだ盛り返せるわっ。第一級の攻略目標だからなっ」
「お仕事ってワケかい? なら
えらっそうに吠えているこの男。
なかなか用心深い。盾兵を自分の前に展開させて魔道士二号くんまで呼び寄せている。
普段なら軍の奥深くに陣取る魔道士が、ここまで出てきたのはラッキーなんだが、いま追い詰められているのは俺の方だ。
「皆聞けぃぃっ。リヨン将軍、ビショップ剣聖様が我らにコウヤを呼び寄せてくだされたっ。総員っ
取り囲んだ盾兵がジャキンッ、と音を立てて盾のスパイクを地面に突き立て、グッと腰を
金属製の重っそうな長方盾を、軽々とあつかっている。こうなると【縮地】の強行突破も止められるかもしれない。
その上魔道士二号くん。
「オールシールドっ」と俺を取り囲んだ一団ごと半球のシールドで
「フッフッフ……。もはや袋のネズミだぁ。コウヤのシールドが魔力切れになるまでライトニングを叩き込んでやれぃっ!」
あ、バカッ、それ言っちゃダメ――!
嫌なことを大声で
これからキミのことは“吠えのスケ”くんと呼ぼう。
頼みの左後方からの掩護も、魔道士二号くんのシールドに弾かれてバチッ、バチッ、とただの花火と化している。
ないわー。
なぶり殺しじゃん……。
だが断固として突っぱる。ナメられた瞬間に蜂の巣にされるだけだ。
「ほぅ……? 勇者相手に強気だなぁ。だがよ、将軍も討ち取られ剣聖も討たれたんだ。ここは大人しく撤退しとかないか?」
「ぶぁっはははぁっ! ついに狂ったか? どぅーみてもお前は詰みだっ」
鋼鉄の長方盾の上からライトニング・ボウが突き出された。
あれ……? おかしいな。
ボチボチなハズなんだが。
「撃てぃっ」っと“吠えのスケ”が吠えたその時、バンッ、バリバリッ、という轟音とともに一帯を半球で覆ったオールシールドが揺れ始めた。
「なっ、何事だっ?!」
“吠えのスケ”くんとその一味があたりを見回している。
オールシールドが大きくたわみ、ゲリラ豪雨にさらされる雨傘の様に縦に横に揺れはじめた。
先ほどから目もくらむ閃光が絶え間なくオールシールドに襲いかかっている。
「む……婿殿おぉっ! 忍の一字っ、に……い……でっ! シー……崩壊……させるッ」轟音の切間に嬉しいこえがする。カイ(俺のフィアンセのナナミの父ちゃん)だ。
『シールドを崩壊させるからしばらく頑張れ』と言っているらしい。
見ると右手から金属兵らしき影がライトニングをガトリングガンのようなボウで乱射しながら突っ込んできている。
俺の索敵に引っかかっていたのは、この金属兵を含む一団だった。「撃ち……まくれぇ……ええええっ!」
金属兵を先頭に、カイが騎馬にまたがり鬼の形相で突っ込んでくる。
“吠えのスケ”くんとその仲間たちを見ると明らかに動揺していた。
今だ!
俺は全身に闘気をめぐらせミスリルの剣にまとわせた。ビィーーンッと剣が細かく振動を始める。
“吠えのスケ”くんが声を張りあげた。
「敵の援軍が到着するまえにコウヤをやってしまえぇぇっ」
「「おうっ」」
俺と襲撃組とに挟撃されるのを嫌ったらしい。まことに適切な判断というしかない。
盾兵の上から突き出されたライトニング・ボウから光の矢が放たれようとしたその時、タ、タンッ、と地を蹴り俺は中空へ躍り上がっていた。
盾兵の盾を踏み台にさらに飛び上がる。
目指す先は魔道士。
「なぁっ?!」
シールドを展開し逃げ回ると思っていた俺が飛びかかってきたのだから、驚くのもわかる。
魔道士二号くんの顔がゆがんだ。オールシールドをもたせるのに全魔力を使っているのだから、俺に振り向ける余裕はない。
「シッ!」
手にしたミスリルの剣を突き出すように投擲した。
「グッ」
あらゆる攻撃から身を守る魔法がエンチャントされたローブを軽々と突き破り、ミスリルの剣は魔道士二号くんを差し貫いていた。
「ま、魔道士がぁぁ?!」
“吠えのスケ”くんが目をまんまるに見開いている。オールシールドが霧散し、金属兵を先頭に“風の民”を率いたカイが乱入してきた。
俺は素早く魔道士からミスリルの剣をひきぬくと、“吠えのスケ”くんに駆け寄る。
「なっ?!」
引き抜きかけた剣をタタキ落とし、脇腹に剣を突きつけた。
「投降しろ。無駄に死にたいか?」
唇を
素早くあたりを見回すと盾兵も迎撃の体制を取る前に金属兵に弾き飛ばされ、ライトニングの射手たちも武器を捨て両手を上げて降参していた。
その場に“吠えのスケ”を
「む、
カイが例の暑苦しい大声で叫びながら駆け寄ってきた。目がつりあがり必死の
「助かったよ」俺はえへらっと笑うと「間に合ったからよかったものの突出しすぎですぞっ」
と顔も目も真っ赤にしたカイに雷を落とされた。
ごめんて……。
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