嗚呼、勘違い!

(前回のあらすじ)

 ついにゴシマカス王国とヒューゼン共和国の『バンパ戦線』が開かれた。敵のブラックドラゴンのシールドを担う魔道士を削りにコウヤたちは突撃する。

乱戦に陥る中、『縮地』を使って飛び込んだコウヤは敵の一団に飛び込んでしまった。


 ◇◇◇


 「なぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺は全速力で戦場を駆けていた。

 勢い余って敵の集団に突っ込んでしまったからだ。

 その数およそ二百――。多分、中隊クラスに突っ込んじまった。


 「追えっ、大将首だぁっ」後ろからイヤな声が聞こえる。


 バカっ、俺のおバカっ!


 いくら俺でも二百近い中隊を相手に大太刀まわりして生き残る自信はない。


 あ……。そういやぁ『カグラ』で囲まれた時もこんなんあったか?


 進歩してねぇよ。俺ってやつはよぉぉ!


 「ノォぉぉぉぉぉぉ!」


 立ち塞がる二、三人を斬って落とすと、仲間の待つ一団へ走り続ける。


 「足元を撃てっ、味方には当たらんっ。なおかつ、シールドは後ろ向きに張れんからなぁぁぁぁっ!」

 背中からすっげぇ人でなしが叫んでいる。

 このまま振り向いてシールドを張っても、前にいる敵が背から襲いかかってくるし。


 「なぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 索敵を後ろに広げて射線を読みながらサイドステップを切る。

 足元にタンッ、タンッ、と破裂痕が巻き上がりヒュンッ、ヒュンッ、と風切り音が聞こえる。


 ギリギリやんかぁぁ!

 み、味方はどこなのぉ?


 俺を中心に索敵を広げる。

 引っかかった味方まであと三十メートル。普通なら見える距離だが、そこまでの敵の密度がハンパない。


 タンッ、タンッ、と破裂痕が横にそれていったとき。


 「魔道士は前へっ! あやつの前にシールドの壁を作り追い込めっ」業を煮やした人でなしの声がした。

 「ハッ! 魔道士っ前へっ」


 なんだとぉぅ?!


 ギラリッ、と俺の目が光った。

 ま、魔道士……だと?!


 当初からの目的はこの魔道士を削ることだった。今一人でも削っておけば、ブラックドラゴンへのダメージは間違いなく大きくできる。


 チラリと背に目を向けるとライトニングの射手の後ろに黒いローブの影が動いた。

 ライトニングの照射が途切れると、索敵に新しい反応が引っかかって魔道士が盾兵の後ろに陣取るのがわかった。


 「左手に壁を展開し我らが槍襖やりぶすまにまでお招きしてやれぃ」例の人でなしが叫んでいる。


 「おぅっ!」


 その声を聞いた瞬間、クルリと向き直った。

 『亀――、シールド……』


 からのぉぉ――。

 『縮……』


 シールドを展開した俺に、それこそゲリラ豪雨のようなライトニングが集中した。

 ブワンッ、と音がして俺の背に敵の魔道士のシールドが展開する。


 「袋のネズミじゃぁぁっ! 穴だらけにしてしまぇぃっ!」例の人でなしくんが吠えた。


 うん、君は死刑。決定。


 足元から土埃が舞い上がり、足元の地面が絨毯じゅうたん手繰たぐり寄せるように縮んでいく。


 目標……。魔道士――。

 とロックオンした時だった。


 左手(敵から見ると右手)からシュッ、シュッ、シュンッ、と光の矢が飛び込んできた。


 げぇっ! 後ろにも射手がいやがったか?!


 肩越しに左後方を見ると例の拠点とした大岩から、味方のライトニングが降り注いでいた。その射線は盾役に守られた魔道士。


 助かったッ、拠点を確保してくれたか?!


 敵を見ると俺の背中のシールドをキャンセルし、慌てて自らの前に展開を始めている。

 かわいそうに敵の射手の皆さんはボロ切れのように穴だらけにされていた。


 薄い膜が展開を始めたその時。


 『縮地――っ』


 俺は閃光と化した。

 ターゲットは魔道士。シールドが展開しきる前に飛び込む。


 黒いローブの男。

 「シール……」


 振り上げたその手が振り下ろされた瞬間。コロリとソイツのクビが落ちる。


 「……ド……」


 「「「う、うわぁぁぁぁぁぁ――っ!」」」

 

 バサリッ、と倒れた男と周りから上がる悲鳴を置き去りに、もう一人のターゲットに駆け寄る。

 俺を追いかけるように左後方からライトニングの照射があたりを舐め回していった。


 あと一人。

 えらっそうに俺を殺せと叫んでいた人でなしくんだ。

 やたらと豪華な装飾を施した軍馬にまたがりゴツいフルプレートの鎧に身を包んでいる。その周りを騎乗した似たようなゴツいよろいを着た連中に固められていた。


 「コ、コウヤだっ! 踏み潰せぇいいぃぃぃッ」

 馬上から何やら叫んでいる。


 おそらくあれがここ一帯を任されている中隊長だ。

 

 「ははっ!」


 重装馬が光の膜で覆われて一気に加速してくる。

 多分、シールドを展開できる魔道具を積んでいるのだろう。

 まともに当たってはダンプに突っ込むようなものだ。軍馬の首がクンッ、と下がりさらに加速してくる。


 『亀――。瞬足っ!』


 横っ飛びに飛んだ。

 【縮地】にくらべて【瞬足】は移動距離が短いが、瞬時に移動できる。おそらく敵さんからすれば、俺が掻き消えたように見えるだろう。


 「「なっ?!」」


 慌てて手綱たずなをひき馬首をめぐらすが、もうそこには俺はいない。

 もう一度瞬足を使い敵の中隊長の頭上へ飛び上がっていた。


 「なぁぁぁぁぁぁっ!」


 変な気合いとともにミスリルの剣を、フルプレートのかぶとに叩きつけた。魔道具で強化されたかぶとなんだろう。パァンッ、と火花が散る。


 「シッ!」

 「ぬがぁっ!」


 瞬時に闘気を流し込む。

 中隊長の兜が弾けとびゴキリッ、と嫌な音がした。そのまま勢いですれ違い、中隊長の後ろまで飛んだところで着地した。


 「「「リヨン将軍っっ!」」」


 側近らしき脇を固めていた二人がすぐに馬を寄せて崩れ落ちるを支える。


 え? ……将軍?

 中隊長じゃなくて? ツーことはさっき飛び込んだ一団って将軍の近衛部隊なの?


 ふぅ、と息をつくと冷や汗がつぅっと流れた。

 あまりに突然の出来事に、周りにいる敵連中も固まって身動きひとつしない。


 や……ヤバくね?


 ゴクリと唾をのんだ。


 フルプレートのお二人さんがこちらに馬首を巡らせる。


 「き、貴様ぁぁっ、よくもリヨン将軍をっ! 俺は剣聖のビショップだ。弔いの一騎討ちとするっ。他のものは手を出すなぁっ」


 二人のおっさんのうち一際ゴツいおっさんが、兜を脱ぎ捨てて馬から飛び降りた。目を充血させ顔が真っ赤だ。


 ちょっと引くんですけど。

 いかんなぁ、キミ……。剣の極意は“平常心”って言うだろ? 全くなっとらんよ。


 「コウヤだ。……知ってるな?」


 「おのれっ、ひき肉にしてくれるわっ!」


 『亀――。瞬足』


 フッと残像だけ残してすれ違う。

 横に一閃。


 「ぶべらっ」

 俺の背中越しに悲鳴が上がった。


 ふっ、未熟者めが……。


 ……ってかヤバくね?

 あいつが将軍なら一万の敵の中に俺はいることになるんですけど。

 腕輪が発するアラートが俺の心臓が止まるカウントダウンのように聞こえた。

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