乱戦

(前回のあらすじ)

 ブラック・ドラゴン三体をつれたヒューゼン軍と戦いの火蓋は切られた。ドラゴンはタフでおまけに魔道士から守られている。

 まずドラゴンの盾役、敵の魔道士をけずることが先決だ。コウヤたちと獣兵は敵の魔道士に近づくため走り出していた。


◇◇

 

 「接敵っす!」リョウが少し遅れて追いつく。


 お? おおっ。まともに着いてきてくれたか?


 気配を消して離れていこうとしていたから、消えるつもりかと思ってたぞ?!


「師匠のそばが一番安全でしょ?」繰り出されてくる槍をさばきながら笑っている。


 素直でないところなんかも相変わらずだが、これってデレてんのか?


 「後ろから砲弾っ!」

 リョウの声に弾かれるように腰を落としてバックラーをかざす。

 ヒューッ、ヒュルッヒュルッと甲高い音がして敵の中央に着弾した。

 パンッ、と破裂音がすると敵の四、五名が吹き飛ぶ。味方の陸砲が後方から掩護してくれたらしい。


 味方を巻き込まないように、十分な距離を置いてはいたがなんてことすんだっ。

 誤射したらアウトだろっ!?


 爆炎がおさまる頃合いで立ち上がって戦況を確認すると、俺らに襲いかかろうと突っ込んできた右軍のスピードが明らかに落ちた。


「後ろから陸砲を撃ってくるぞっ。魔道士をまわせっ」


 向こうの小隊長らしき指揮官が指令を発し、魔道士たちを呼び寄せている。

 魔道士が手前に出てくる? 


 ピンポイントで落ちてくる陸砲を後方からシールドで防ぐのは難しいらしい。おまけに敵の隊列が乱れた。


 「今だ! 突っ込めぇっ」


 俺は先に展開していた獣人たちに声を張り上げると、盾役のモンが敵の盾兵を二、三人引き飛ばしていく。


 拠点にする岩はどうなった? もうそろそろたどり着く頃合いだ。

 走りながら左手を見ると、ライトニング・ボウを背にからげた射手と、それを守る盾兵がよじのぼっていくのが見えた。


 正対している敵には大岩の影に隠れているから見えていないはずだが、角度によっては気づかれる。


 こちらに注意を引きつけて……っとぉ!


 「のぉぉぉっ!」


 変な掛け声とともにミスリルの剣を抜き、そのままモンのこじ開けた隙間に飛び込んで行った。


『亀――出番だっ』

 念じると左手がブワンッ、と光りバックラーに変化する。


 「なぁぁぁぁぁぁっ」


 一気に加速して、振りあげらた槍の林がモンに叩きつけられるその寸前に走りこんだ。


 「シッ」と駆け抜けながら横に一閃。

 バァンッ、と破裂したように槍が吹き飛んでいく。走り込んだスピードを落とすことなく槍兵の中に飛び込み、ミスリルの剣を振り回す。


 「「う、うわぁ!」」


 急襲され、のけぞって剣先を避けようとする敵兵がぶつかりあい、ガチャン、ガチャンと倒れていく。

 そのスキを逃さず、後ろから駆け込んできた狼族のシンが素早く手槍を突き出し止めをさしていった。

 

 「そりぁァァァ」

 右手から新手の槍兵が槍を突き出してくる。


 「シッ」

 突き出される槍にムチのように右手を突き出しながら軽くはね上げる。

 そのまま剣ですりあげ槍先をそらすとグッと腰を落とし、右足をスライドさせながら体ごと振りまわすようにスネを払った。


 「どわっ」

 槍兵はバランスを崩して倒れ込んでゆく。

 左手より新手の反応。

 「ずりゃぁぁっ」と槍先を突き出してくる。


 左手の海亀ですりあげると小手を切り落とし、返す剣先で喉もとをかき切った。


 「ゲェェッ!」

 のけぞりながら倒れ込んでいく。


 ちぃ……。気分良くねぇな。

 魔物やモンスターならなんの気後れもなく、とどめをさせた。

 魔人ならもっと躊躇ちゅうちょない。


 だが人間はーーー。

 前世からの良識タブーが、ブレーキをかける。二、三人の槍をからげ取ってたたき伏せると、振り上げた剣を止めた。


 地に這いつくばって、こちらを見る恐怖に身開かれた目。


 くそっ! 気分が悪ぃ……。


 一瞬の躊躇している間に倒れた兵士が足にしがみついてきた。

 「今だっ! 突き殺せぇぇっ――」

 執念? いやコイツは俺を殺しに来ている。

 右腕に装備した腕輪が光り、味方にしか聞こえないアラートが拡散した。

 指揮官が危険な状況に陥ると自動で作動する魔道具だ。


 「何やってるんすかっ、師匠っ!」


 リョウが飛び込んで来てソイツを背中から刺し貫いた。


 「ボォっとしてたら死にますよっ!」


 「あ? あぁ、すまねぇ」


 亡骸となった敵の兵士を振りほどいて身構える。


 そうだった――。ここは狂気の場だ。まともなヤツから死んでいく。

 そんなところに皆を引っ張ってきたんだ俺は。生きて帰さなくては、帰りを待つものたちに顔向けができない。

 ならば……。


 見回すとモンが囲まれている。

 「リョウッ、モンを助けるぞっ。着いてこいっ」声をかけながら走り出す。


 ならば……。俺は真っ先に狂うべきだ。

 コイツらの盾となり矛となって敵をほふらねば、コイツらに着いてこいなんて言えない。


 なんてな……。今さらかよ。

 薄く笑うとさらに加速して一団に飛び込んでいった。


 「コウヤが飛び込んで来たぞっ、大将首だっ。囲い込んで串刺しにしろっ」

 その一団の指揮官が吠え「「「おうっ」」」と答えた兵士がモンから俺へ向きを変えた。

 さらにもう四、五人が後ろに回り込むのがわかる。密集していた一団がバラけて俺を遠巻きに囲んだ。


 でも……遅いんだよね。


 『亀っ――シールド』


 からの――『縮地っ』


 ブワンッ、と薄い膜が展開し足元から土埃が舞い上がり、足元の地面が絨毯じゅうたん手繰たぐり寄せるように縮んでいく。


 目標は敵の指揮官だ。

 軍馬にまたがり剣を振り上げて、俺を「突き殺せ」と叫ばんとする一瞬。


 カメラがズームするようにソイツが大写しになる。さらに視点はソイツの喉元へ。


 「シッ!」


 短い気合いと共に俺は閃光に変わった。

 バンッ、バンッ、ガシャーンッ! と暴走トラックがあたりをたおすように駆け抜けていく。

 剣を振り抜き、気がつくと俺は中空に躍り上がっていた。

 勢い余って飛び上がってしまったらしい。


 「なぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」


 驚きに目を見開く別の敵の一団に降下していく。

 バカっ! 俺のおバカっ!


 「「「「うわぁぁぁぁぁっ!」」」」

 天から落っこちてきた俺にビックリしたのは敵も同じだった。構えもなにもあったもんじゃない。


 こうなりゃ二、三人巻き添えになってもらおう。華麗に着地を決め――られるわけもなく、膝を折り曲げシールドを展開したまま一団に体当たりしていた。


 ドシャン、ガシャンッと派手な音を立てて吹き飛ばしていく。即座に立ち上がるとクルリと背を向けて飛んで来た方向へ駆け出す。


 「コ、コイツ、コウヤだぁぁっ! 追えっ、大将首だぁっ」後ろからイヤな声が聞こえる。


 「なぁぁぁぁぁぁっ!」


 全速力で俺は戦場を駆けていった。

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