その時、コウは?

 足元に落ちていたコウのドッグタグ(認識証)。

 それが何を意味するのかを悟った時、全身を貫く激情が口から迸った。


 「ぬがぁぁぁッ!」


 「「「ギョェェッ!」」」

 捕獲されたコモドドラゴンが、怯えた鳴き声を上げ、冷え冷えとした闘気に当てられた獣人どもが、毛皮を逆立たせて縮こまった。


 索敵を全方位に展開する。この日この『カグラ』に一匹の鬼が誕生した。


 ◇◇コウ目線◇◇

 

 ~~~~時を少し巻き戻す。


 コウは火山弾ボルガニックでコウヤを囲んでいた獣人を蹴散らし、獣人どもが教会まで退避してきました。

 金属兵と教会前の広場で乱戦になったシーンからです。


 その時コウはーーー。


 広場を見下ろす教会の鐘楼しょうろう

 眼下には火山弾ボルガニックを避けて退避して来た獣人と、金属兵の乱戦になっていた。

 膠着状態だ。

 ブッ! と音を立てて通信石からメッセージが吐き出された。


 『コウヤ、ブジ・ テキ、ヒロバ ヨリ セッキン・ ソゲキ サレタシ』


 「そっか、アイツも無事かぁ」


 胸を撫で下ろす。

 遠くから見ても、砂塵が巻き起こり、魔獣の咆哮と獣人の叫び声が地鳴りの様に響いていた。

 あれだけの軍勢に囲まれたんだ。普通なら取り込まれてなます斬りにされている。


 短い文面でわかった敵の動きから、次の行動を考える。


 (追撃に気を取られているうちに、上から狙うのは予定通り。光のライトニングも良いけど、ダブステップの雷撃で足止めして、光弾ライトニング・ブレットで散弾すれば大方の側近は引き剥がせるかーーー。)


 ブツブツ算段をなぞりながら、魔力の錬成に入る。

 天中(頭のつむじのところ)から丹田を糸で結んだようにピンッと伸ばし、天から金箔が落ちてくるイメージをする。ヒラヒラと舞い落ちるそれを息を吸いながら、天中に集め丹田(おへその下あたり)に流し込むイメージ。


 ボウっと暖かくなってくる。

 これを二、三回繰り返し、ゆっくり息を吐いて体の隅々まで魔力を流し込みながらグルグルと循環させると、パチパチッと音を立てて、体がボウっと金色の光を放った。

 ヨシッ! 準備は万端だ。


 ブッ! と音がして通信石からもう一枚メッセージが吐き出されて来た。

 「なるほど.......。さすがオキナ! そこまで読むワケーーー」ちょっとテンションが上がる。

 「きっちり収めて、早く終わらせたいな。貴方に手を出したら、ただで済まないって世界中がわかってもらうくらいに仕返しをして上げるけどね」

 そう言って、ニヤリと笑う。

 

 「雷撃、光弾ライトニング・ブレットの掃射、その後はーーー」とおさらいを口にしながら、装備を確かめて行く。

 「脱出経路よし」

 狙撃した後は狙われやすい。まして、敵の射程内での狙撃だ。一撃したら、『遮断』の有効範囲の外へ移動する。

 そのためのワイヤーを隣の建物の屋根まで張っていた。高低差があるから、滑車を引っ掛けて滑り降りれば良い。あとは屋根伝いに移動するつもりだ。

 

 早速、本陣の前捌さばきに五、六人の獣人が広場に流れ込んでくる。

 「光の矢ライトニング!

 手をかざし、雨霰あめあられ光の矢ライトニングを掃射した。

 「狙撃兵がいるぞッ! 教会の鐘楼しょうろうだ!」早速感づかれたらしい。


 ボンッ! と手榴弾が爆発した音がした。

 獣人が二、三人吹き飛んでいる。鐘楼の中まで爆風が押し寄せた。反射的にその場に伏せる。

 チャリンッ、と音がした。「?!」ドッグタグ(軍の認識票)だ。

 「危なかったぁ。金属をつけたままだよ。ダブステップ(雷撃)で自分も感電するところだった」

 ドッグタグを首から外し、右の太腿にあるポケットに仕舞い込んだ。雷撃を使う魔導師のために、弾薬を仕舞うところだから絶縁もしてある。


 ツンッとした匂いがした。鐘楼の開口から覗きみると、白い煙に獣人の本陣が巻かれていた。

 コウヤだ! コウヤが敵の本陣を混乱させている。

 「コウヤッ! 良くやったッ、今すぐ地面から離れろッ」声を張り上げた。


 「ダブステップ!」


 パチーーンッと弾ける音がして、地面に青白く光る稲妻が這い回る。

 「光弾ライトニング・ブレット

 パンッ、パンッ、と光のつぶてが弾け飛んで獣人の骸がゴロゴロ転がった。


 「さあ、場所を変えなきゃ!」

 反撃を喰らう前に敵の死角へ移動する。ワイヤーに滑車を取り付け、シャーッと滑り落ちた。


 その直後、「遮断!」嗄れた声が響くと、背後からボンッ、ボンッ、ボンッ! と爆裂音が続いた。

 バーーーンッ! と着弾した爆音と巻き起る爆風に吹き飛ばされ、屋根に叩きつけられる。


 「く、クゥッ」


 悲鳴を咬み殺す。シールドを張る間もなかった。みると右の腿のあたりが、さっきの爆発の破片で切り裂かれている。


 「痛ぅぅッ」


 腰からミリタリーナイフを取り出すと、裂けたズボンの布をポケットごと切り裂き、ナイフの先で傷の破片を取り除く。腰のポーチから外傷ポーションを取り出して振りかけた。

 「ヒール」

 ポーションと、回復魔法で傷は見る見る塞がっていく。出血は収まったけど、紫色になっていた。戦闘服のズボンは破れたままだ。


 痛ったぁーーーー。うむ。やむなし。

 「あっ?! ドッグ・タグ.....これもやむなし、か。次のポイントはっと」

 事前にセットして回った方位石の魔力に沿って光の魔法を照射する。細い光の線が、次のステージを指していた。


 「行くぞッ」


 グルグルと魔法陣を描くと、光の滝が逆さまに吹き出した。「よっとぉ!」一気にその光の滝に身を躍らせた。


 このあと獣人に降りかかる災難も知らずにーーー。

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