市街戦には俺の罠

 シュッ、シュッ!


 空気を切り裂く音を立てながら、光のライトニングが敵に殺到していた。

 さっきまで乱戦で猛威を奮っていた熊の獣人たちも、ライオットシールドに身を潜めてうずくまったままだ。


 サンガ中尉の到着で戦術が変わった。

 乱戦の後ろから光の矢ライトニングを放ち、乱戦を引き剥がしにかかった。距離を取って削りに入っている。


 徐々にカノンを包む獣人の壁は薄くなっていく。

 乱戦から均衡を作り、隙を見て突破したかった獣人にとっては一番嫌な展開になってしまった。


 「怯むなッ! 街はもう目の前だ」カノン・ボリバルの必死な声が響いた。


 「金属兵ッ! 陣形、包円ほうえんから魚鱗ぎょりんへ!」

 その声に呼応するように、サンガ中尉が金属兵に声を張り上げた。

 いよいよ来るぞッ! って獣人たちにも知らしめたいわけだ。敵の心まで折りに行っている。


 狙いはカノン・ボリバルの指揮する本陣。

 金属兵が距離を取って包囲する包円ほうえんから、上から見ると矢印のような魚鱗ぎょりんの陣形に変わった。


 「敵の後続はいないッ! ここで決めるぞッ!!」

 サンガ中尉の檄が飛んだ。

 「「「ギィィィッ!」」」返事なのか雄叫びのつもりなのか、指示に呼応して金属兵が動き出す。

 

 こりゃあ、思ったより早くカノン・ボリバルを討ち取れるかも知らねぇな?!


 包囲網が解体し、矢印のような魚鱗ぎょりんの陣形になると街を走る通りにスキが生まれた。


 「今だッ! 教会寄りに斬り込めッ!」

 カノン・ボリバルの指示がこだました。

 「「「ウォォォォッ!」」」

 金属兵の薄くなった包囲網に、カノン・ボリバルの本陣が駆け込んで行く。


 笑わせるーーー。


 俺は、教会の鐘楼しょうろう(鐘を鳴らす所)にいるはずのコウにサインを送った。

 こちら側に逃げ込んで来るタイミングに合わせて、コウが狙撃を始める筈だ。


 教会の鐘楼しょうろうの対角線に、ひっそりと走り込んだ。

 背後から襲って側近どもをカノン・ボリバルから引き剥がすつもりだ。

 あとは袋小路に追い込んで、ジ・エンドだ。


 五、六人が並んで通れるくらいの街の大通り。

 それこそ、必死の形相をした一団が駆け込んで来た。

 

 シュタッ、シュタタタンッ!


 コウの狙撃が始まった。

 教会の鐘楼しょうろうから光の矢ライトニング雨霰あめあられと降り注ぐ。


 「ヌォォッ!」


 「教会だ! 鐘楼しょうろうに狙撃兵がいるぞッ!」


 「教会の壁に貼り付けッ! 鐘楼しょうろうの足元が斜線の影になってるぞッ! 足元だッ」


 獣人たちは声を掛け合って、射線から避難を始めた。

 バラバラッと散開し物影に駆け込んで行くが、一人、二人と光の矢ライトニングの餌食になっていく。


 運良く教会の壁に貼り付けた獣人たちは、壁から顔を出して狙撃兵の位置をうかがった。

 二、三度顔を出しては位置と距離を測ると、腰に吊るした手榴弾を抜きとる。

 鐘楼しょうろうごと爆破するつもりだ。


 (まずいッ!)


 『亀!ーーー縮地ッ!!』

 あっと言う間に空間が縮む。

 手榴弾を手にした獣人の目の前に躍り出た。


 「うわぁぁッ!」


 悲鳴が上がった。

 疾風を纏って俺が着地すると、まるで空間から湧き出したように見えたのだろう。手にした手榴弾を取り落として尻餅をついた。

 

 「フンッ!」シールドを展開して手榴弾を蹴飛ばす。


 ドゴォンッ! と爆音を響かせ、転がった手榴弾が爆発した。爆風に転がる獣人たち。俺に気付いて斬りかかってきた壁際の獣人を左手と、剣でいなす。


 スゥーッ、フッ、フッ、フゥーッ。

 鼻から息を吸って、口から細かく吐き出す。光陰流の息吹だ。全身に闘気を行き渡らせた。

 

 ブィーーーンと、剣が細かく振動する。

 大柄な熊の獣人が襲いかかって来た。


 「フゥンッ!」スッと剣を抜くと、クルリと回し脳天から壁ごと切り裂いた。ドォンッ! と派手な爆音と共に吹き飛ぶ。

 

 

 「こ、コウヤがいる! コウヤがッ!!」


 他の獣人が悲鳴を上げた。尻餅をついてそのまま後ずさる。

 「呼び捨てかよッ!」

 失礼な奴らだ。

 壁に張り付いている獣人を斬り倒してゆく。


 これで射線の影に隠れた獣人はいなくなった。バラバラと、尻尾を巻いて(本当に尻尾を巻いていた)逃げ去っていく。


 (雑魚は良い。雑魚はッ)


 逃げてくる獣人の一団に目を凝らす。

 

 「ウォォォッ!」雄叫びを上げながら、金属兵を薙ぎ倒して、錐揉きりもみのように一回り大きな集団がこちらに向かって来た。


 (あれだ! 恐らくあれがカノン・ボリバルの本陣。側近どもも一緒だ。あれを止めれば、後ろから来る金属兵と挟み撃ちに出来る!)


 大通りの中央に走り出た。俺の姿を見て、一瞬本陣の一団も立ち止まる。少しでも壁の役目になれば良い。

 接敵まで五十メートルってところかーーー。


 「前はコウヤ一人だッ! 揉み潰してゲリラ戦に持ち込めッ!!」

 先頭の一人が吠えると、ライオットシールドを片手に手槍をかざして突っ込んでくる。


 俺は両手を広げて、下手な魔法の詠唱を始めた。


 「ファイヤボールッ!」


 フワッと頼りない六つの火の玉が出現した。


 「?!ッ」突っ込んで来ようとした熊の獣人が、一瞬躊躇ちゅうちょする。

 

 六つの火の玉は、フラフラと正面の敵から逸れて両脇の建物の軒下に落ちて行った。


 「ハッ?! 噂通り、コウヤは魔法が下手だッ! このまま揉み潰してやるっ」

 一瞬立ち止まった熊の獣人と、狼の獣人が五、六人こちらに走り出した。


 風がフゥッと吹いた。鉄臭い匂いがする。

 カノン・ボリバルが、ハッ?! と辺りを見回して声を上げた。

 「止まれッ! 火薬の匂いがするッ! 罠だッ」


 バァンッ! 爆風と共に真っ白な粉塵が舞い上がった。

 辺り一面が真っ白な煙に覆われた。

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