戦う群像

 獣人たちは包囲されていた。

 だがそんな状況でも、カノン・ボリバル率いる獣人部隊が包囲の網の薄い所を見つけては包囲網を食い破ろうとしている。

 「先回りして、キツーいのを喰らわしてやるかーー」

 俺は広場から市街地を走る通りまで駆け出した。


 ◇◇王宮の『作戦室』にてーーー

 場面はコウヤがカノン・ボリバルと接敵した時間に戻る。◇◇


 ~~オキナ目線~~

 

 作戦室の壁に次々と映写される戦況。

 ここは、コウヤ殿が戦っている『カグラ』から南西に百五十キロ離れた王宮の作戦室だ。

 「ブホンは、凌ぎ切れるとしてーーー」

 私(オキナ)は映像を見ながら呟く。

 作戦室の壁には大きく二つの映像が映写され、それぞれ敵味方の位置が表示されていた。


 一つは、王国ゴシマカスの第三都市『ブホン』。

 もう一つは、敵の主梁カノン・ボリバルと交戦中の敵の本拠地『カグラ』だ。

 『ブホン』の方は王宮から金属兵五百と指揮官を派遣し、さらに都市周辺の予備軍を投入し包囲して戦局を落ち着かせた。

 

 問題はそこまで兵力を投入できていない『カグラ』の方だ。


 「コウヤくん、張り切っているようだな」

 『カグラ』の映像を見ながら、ムラク大臣が声を掛けてきた。領主館から街まで伸びる一本道を、魔眼が上空から捉えていた。

 その一本道に、次々と狼煙石から噴き出る赤い狼煙が映る。領主館から、街へ移動している。


 「コウ評議員ーーー、いや今は大佐だったな。コウ大佐の位置は?」

 ムラク大臣の質問に「こちらですーーー」とポインターを当てて答える。


 軍票からの信号で、コウヤ殿と我が愛しのコウの伏せている位置が表示されていた。

 防衛局の立場としては最大戦力のコウヤ殿、魔導師としてのコウを投入して敵を殲滅することが責務なのだが、私(オキナ)個人としては胸が張り裂ける思いで送り出した。


 敵が段々と我が愛しのコウに近づいているーーー。

 拳が真っ白になるくらい握りしめた。

 愛しい人を戦局の打開の為とはいえ、戦場に送り出してしまった。


 「守ってやるよ。コウーーー。手持ちを全部使ってでも」誰にも聞こえないくらいの声で低く呟く。


 (この緊急事態が終われば、コウは引退してもらい安全な生活に戻ってもらう。だからーーー)


 「コウヤ殿が!」スタッフが声を上げた。

 すぐに思考を切り替える。


 領主館と街へ続く一本道で、コウヤ殿は獣人に追われては接敵し徐々に街まで誘導して行く。

 

 「これを、コウ大佐の通信石へ」そう言って、メモをスタッフに渡した。

 戦況を見ながら、コウ大佐への指示を伝えられるよう通信石を持たせている。


 「まずいなーーー。コウヤくんが孤立してるぞ。金属兵の段取りは、まだ出来ないのか?」

 ムラク大臣が『カグラ』上空からの映像を見ながら渋い顔をした。唇を人差し指で撫ぜながら尋ねてくる。


 「あと暫く。このあと、コウ大佐が動きます。それまでに特殊部隊の投入を段取りーーー」


 「間に合うか? このままコウヤ殿がすり潰されては元も子もない」ムラク大臣が少し慌てていた。

 

 見ると、コウヤ殿が小山のようなコモドドラゴンと獣人に囲まれて交戦している。


 なんとその数二百?! 

 まずい! いくらなんでもーーー?! と息を呑む。


 「し、凌いでいます! コウヤ殿が敵二百を相手に凌いでいます!!」スタッフが驚きの声を上げた。


 私もムラク大臣も瞠目した。


 「なんともーーー彼も人外だな」ムラク大臣の呟きを背に、作戦のメモを書き上げ特殊部隊へ伝令を走らせた。


◇◇『カグラ』カノン・ボリバルと交戦場面へ◇◇


 「行け! 怯むなッ!! 建物に回り込むのだッ! 我らの得意なゲリラ戦に持ち込むぞッ! 勝利は目の前だ!」盛んに檄を飛ばしている。

 声を頼りに金属兵が詰めようとするが、熊の獣人に阻まれて近寄れない。

 

 均衡が出来上がってしまった。

 こうなると、互いに消耗し合う形でしばらく膠着する。 こう言った場合、得手して守る側が流れを掴む事が多い。

 均衡を破るには将が要る。

 獣人たちが圧倒的に不利なのに、崩れないのはカノン・ボリバルと言う将がいるからだ。

 金属兵は戦況を理解して攻撃を変化させる事はできる。

 だが、先の何手かまで理解して動くプログラムはされていない。


 ーーーどうする? 俺が出て行くべきか?


 だが俺は『無力化された』とカノン・ボリバルがほざいていたから、付け込むにはもっと戦況が決定的になった方が良い。

 あくまで俺の役目は、カノン・ボリバルを討ち取る事だ。今復帰を見せるのは、詰みまでの布石を壊す事となる。


 「どうする?」


 俺が躊躇していると、「金属兵は距離をとれッ! コウヤ殿は無事保護したッ!! 乱戦に付き合う必要は無いッ!! 光の矢ライトニングで壁役を削れッ」

 聞き覚えのある声がした。


 あれはーーー?

 サンガ中尉だ。

 オキナ奪還の時、突入部隊の指揮をとっていた。戦況を見ていたオキナが、魔法陣を使って投入してくれたのだろう。


 他にも前回のオキナ奪還作戦で活躍した特殊部隊の連中がいる様だ。

 気心の知れた連中となら、連携も取りやすい。心憎いくらいの増援だ。

 敵にしたら、一番嫌な時に将を投入してきた。


 オキナの入れ知恵か?

 さっきサンガ中尉の言っていた『コウヤ殿は保護した』ってのは、俺の位置を把握した上で敵を欺くつもりのブラフだ。


 (流石オキナだ。詰みまでの絵が見えてらっしゃる)

 フフフッと笑って、カノン・ボリバルたちを迎撃するための作業に取り掛かかった。

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