あちこち痛いんだが頑張るのだ

 『遮断』の射程外からのコウの爆撃。

 加えて金属兵の追撃。

 カノン・ボリバルは市街地にある教会へ退避を始めた。完全に流れはこちらに来ている。

 「よぉし! 狩りの時間だぜ!! カノン・ボリバル。今までの貸しを返してもらーーー?!」

 俺をはそう呟くと、シールドからまだ出れない事に気づいた。

 「何やってんの?! 今でしょう? 今追い込むべきでしょうが。コウさんよって!」


 ジリジリしながら火山弾ボルガニックの収まるのを待つ。相変わらず、シールドにパンパンッ! と火山弾ボルガニックが当たり、弾けていた。


 「俺の体力が持つ間に、決着をつけたいんだってばよ!」ドンッとシールドを蹴飛ばした。

 焦っても仕方がないんだが、気を抜くと座り込みたくなるのがわかっている。


 「ふぅーーー」ため息をつくと、「焦ってんのは分かってるんだけどな......」チッと舌打ちをした。

 こんな時に、無理に動いてもろくな事が無いかーーー。

 ちょっと冷静になる時間が生まれた。

 んーーー?

 鼻血は止まった。まだ口の中は血の味がするが、ペッ、ペッっと吐き出してだいぶマシになっている。


 だがーーー体中を駆け巡っていたアドレナリンが切れると体が悲鳴を上げ始めた。


 グラグラ視界が揺れ始め、急に膝の力が抜けてストンッ! と崩れ落ちる。

 「のぉぉぉっ?」

 極限状態を続けた反動が来やがったか!?

 

 無理な加速と停止を繰り返す『さばき』を続けたせいか、足がビクビク痙攣している。

 痛みが追いかけてきた。

 背中も腹筋もそうだ。針金でも突っ込まれた様に硬直し痛みがはしる。無理な回転運動を繰り返したせいで、筋繊維があちこち切れているのだろう。


 

 (お、おお?! どした?)

 驚いて体を見回す。

 (待てよ、おい! このまま動けなくなるんじゃねぇだろうな?! まだなんだぜ! 頑張れよ、俺の体!)


 慌てて腰のポーチを探り、上級ポーションを取り出した。回復系の魔法と薬草を、錬金術師が特別に調合したものだ。

 聞いた話だと、軽く馬一頭は買える値段なんだとーーー。

 馬一頭っていくらなんだろう?  

 ともかく貴重なものらしい。今回の出征の装備品に入っていた。


 こんな時の為にもらったんだ! ケチくさい事考える場合じゃねぇ!! っと一気にあおる。


 「お、おぅうぇぇッ! く、臭い、んぷっ、不味まずい」


 胃袋が受け取りを拒否してきやがった。

 ドブの匂いと、ゴーヤを丸齧まるかじりした様な苦さ。

 ドロリッとした粘度に、絶妙な酸味も加わって油断するとリバースしたくなる。

 口と言わず鼻と言わず、吹き出しそうになるそれを無理やり飲み込んだ。

 

 「さ、さすがに良薬口に苦しってヤツだな。へへッ」

 おかげで意識はハッキリした。

 残してないか、ポーションの瓶を透かして見る。


 高級品だ。残すともったいねぇしな。

 ん? なんか書いてる??


 『塗り薬』

 遠慮なくリバースした。

 ーーーこの件は、黙っていよう。


 水魔法を刻んだ魔石を取り出すと、口に近づけて水を絞り出し口をすすぐ。

 「ボェッ、ゲホッ、ボェッ!」

 気管に吸い込んで、咳き込んでるのか吐いているのかわからない。ふぅっと一息つくと、ポーションの容器を透かしてみた。


 「あー。用法と、容量をキチンと守ってご利用くださいってかいてあるわ」

 それでも体の痛みが少し和らいだから不思議だ。


 火山弾ボルガニックが収まり、日差しが戻ってきた。

 遠くから爆音と「ウォォォォッ」と獣人の雄叫びが聞こえる。生まれたての子鹿の様にプルプルしながら立ち上がり、遠目に見ると教会の辺りだ。


 コウと一緒に行った金属兵が獣人どもと交戦している様だ。背後から、新たに送り込まれた金属兵が襲いかかっている。


 もう、袋のネズミだなーーー。ならここからが肝心だ。

 「ここで仕留め切らなけりゃ、シャレになんねぇ」


 そう呟くと、今度はしっかり服用する方の上級ポーションを煽った。ズボンを捲ると予備の『塗り薬』の方のポーションも丁寧に刷り込んで行く。


 めまいが収まり、膝の力も戻ってきた。

 「よっこらしょっとぉ」

 掛け声と一緒に立ち上がる。


 (おいおい、ついに俺もよっこらしょ世代かよ?!) 

 苦笑いをすると首、肩、腰、足首、と上から順番に回し、関節の損傷がないか? を確かめる。

 軽くストレッチを終えると、大きく伸びをした。


 「コウに感謝しねぇと行けねぇなーーー」

 あのまま焦って飛び出していたら、戦闘の途中でガス切れが起こっていた筈だ。

 火山弾ボルガニックが収まっていたので、シールドの外に出る。一気に熱波が襲ってきた。長居する必要は無い。

 

 『亀!ーー縮地!!』

 見る見る空間が撓んだ。視界に映る一番奥の風景が、手繰り寄せられる。

 「よっとぉ!」そのまま空間に踊り込み何回か繰り返すと、味方の金属兵と敵の後続が交戦しているのが見えた。


 狙い通り、教会前の広場だ。

 だいぶ数を減らしたとはいえ、獣人も五、六十はいる。

 乱戦になっていた。

 

 俺がカノン・ボリバルならどうするーーー?

 カノンは乱戦の中央に立って、何やら周囲に指示を飛ばしていた。流石に精鋭で周りを固めているためか、金属兵が寄せようとしても陣形は崩れない。

 遠射で光の矢ライトニングを放っているが、周囲の精鋭部隊がライオットシールドで弾き返している。

 

 逆に金属兵の包囲が甘いところを狙っては、熊の獣人(恐らくヘビー級)の部隊をぶつけて包囲網を崩そうとしていた。

 穴が開きそうになるたびに、金属兵が間隔を寄せて包囲の網を厚くしているが、その分他の間隔が開き突破されそうになっている。


 んーーー。あの熊どもは、おとりだな。

 もう一度寄せて、薄くなった所に斬り込むつもりだ。


 薄くなったらーーー。あそこだ。


 市街地に抜ける通りが目についた。人が横に五、六人は並んで抜けていけるくらいの道幅だ。取り巻きと一緒に抜けて行くならあそこしか無い。

 

 ここで抜けられると、市街地に火を放ち撤退する事も考えられる。消火活動に裂ける人員も装備もないから面倒な事になるーーー。


 「先回りして、キツーいのを喰らわしてやるかーー」

 接敵する場所の当たりをつけると、広場から市街地を走る通りまで駆け出した。

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