ナナミとの再会②


 「もちろん、飯代はうちの師匠が払いますんでっ、大丈夫ですから!」


 リョウーーー必死だな!

 俺とナナミは顔を見合わせた。


 一年ぶりの再会。ナナミと共に現れた学友『ステラ』。ハッとする様な美貌と抜群のプロポーションに、リョウが顔が真っ赤だ。完全にのぼせあがっていた。


◇◇


 「コウヤ様。あんな必死なリョウ見たの、初めてなんですけどーーー」


 「ああ。俺も初めて見た」


 「私ちょっと勘違いしてたかも。てっきりリョウは私の事が好きで、実は今日何かが。あるんじゃないかって......」


 「何かってなんだよ?」


 「ほらっ、私コウヤ様の婚約者じゃないですか?」


 「ああ。カイが、勝手に盛り上がってるだけだけどな」


 「そんな言い方ーーー。ん、んん。そんな私に想いを寄せる二人の男性ーーー。片や『救国の英雄で領主様』片や幼馴染み。彼はまだ、地位も権力も力もないけれど私の事好きでーーー」


 うん! その通りだったよーーー

 ついさっきまで......。


 「それで、なんかあるんじゃないかと?」


 「そうなんです。ちょっと心配になって、一番仲の良いステラに相談したらーーー」


 「それで『私も(修羅場を)見てみたいって?」

 カカカっ! と笑う。


 「修羅場限定じゃないですよ! なんかあった時に、第三者がいた方が良いのじゃないかってついて来てくれたんです」


 「マジか...... 。てっきり俺のファンだから。会いたかったとばかり思ってたよ」


 「ずいぶんおモテになりますもんねーっ、コウヤ様は」

 コロコロと笑う。


 「まぁな、モテモテで困ってるんだ。相手が、どお思っているかは知らんけどなぁ」

 へッと笑う。


 予約を入れているレストランまで、ぶらぶら歩いて行った。

 (ナナミの事も中途半端だよなぁ。正式に婚約したわけじゃ無いがーーー)


 「なぁ?! ナナミ」


 「なに? コウヤ様」


 「俺は嫁を取る気はねぇぞ」


 「そっかーーーなんで?」


 「いろいろあってな。毎日戦争している様なもんだ。だからーーー」

 昨夜の事、オキナの救出の事は黙っておく。余計な心配をかけたくは無い。

 「だから、なんの保証も出来ねぇからだ」


 「大丈夫だよ。私がついててあげるっ。こう見えても私強いんだから」

 フンスッ! と二の腕に力こぶを作る。

 「なんかあったら私が守ってあげる!」

 ニヒヒヒーッ、と白い歯を綻ばして笑った。


 「ああ。お前は強い。受け取っとくよ、気持ちだけな」

 そう言ってニパッと笑った。


 ◇◇


 「ビーズ(豆)のスープにサラダ。それと、ボアのステーキかテールスープーーー

 食後のデザートは......うーん! 迷う〜」

 ナナミが、メニューを見ながら唸っている。


「すみません。良いんですか? 私までご馳走になってーーー」

 ステラが申し訳無さそうに、メニューに目を通してはこちらをチラ見して来る。


 「大丈夫ですって! 一番高いヤツ頼んじゃってくださいよ!! 遠慮しないで! 払いはコッチにドーンと任せて!」

 そのの時だけ俺を見るな!

 ヒクつく笑顔でリョウを見る。


 「リョウ! お前大丈夫なのか?」

 声が小さくなる。

 「そこんとこ師匠頼んマス」

 更に小声で返してきた。


 コイツッ、ちょっとにらむがどこ吹く風だ。ちゃっかり、ステラの隣に座り込んで一緒にメニューに見入ってやがる。


 「ああーーー構いませんとも。好きな物頼んでください。ナナミがお世話になってるお礼ですから」

 爽やかな笑顔で答えた。


 「良いのですか? ご馳走になります」

 ステラは花の様な笑顔を咲かすと、メニューを見始めた。


 うん! ーーー美女は正義だ。

 美女を肴に、食前酒をちびちび飲る。


 やがて、前菜のスープが運ばれて来た。

 カボチャポタージュだ。トロッとした食感に柔らかい甘み。一口飲むたびに、食道から胃袋まで暖かくなって行く。


 「んんーーーんまいッ、お美味しい!」

ナナミのヤツ、頬を押さえていないと落ちてしまうと、頬に手を添え身悶えしている。


 次はサラダで箸休め。口の中をリセットする。次がメインディッシュだ。


 やがて、大仰なキャリアワゴンが近づいて来る。 白いコックコートに赤いコックタイ。

 いかにもって感じの、コック長がにこやかに近づいて来る!?


 「ワイバーンのステーキでございます」


 なに? ワイバーン?! ワイバーンって飛竜だろ?

 

 「ホホホッ、当店自慢の最高級食材でございます」

 オネェの様に、手の甲で口を覆う。


 「このワイバーンは、先日Aクラス冒険者パーティーが仕留めた年に一度出回るかどうかの逸品でございます」


 胸に手を当てて、軽く目を閉じた。

 「痛ましくも一人犠牲者が出た様ですが、それでこそワイバーン!」

 カッ、と目を見開きカービングフォーとナイフをキンキンッと擦り合わせた。


 「今日は、勇者コウヤ様がご来店されているとお聞きしましてにご用意させて...... 」

 ここから音声が途切れた。

 俺の耳が聞きたく無いって!

 

 (ーーーい、いくらするんだ?)

 冷や汗が頬を伝う。


 領収書を見て、メガネを白く輝かせるサイカラの顔が浮かんだ。


 『すごぉい! ワイバーンってドラゴンなんでしょ!? 私初めてです!」


 「私も!」

 

 キャーッ!

 二人のお嬢様方は、歓声を上げた。

 

 「ど、どうぞーーー」

 

 その後も、次々と運ばれてくる『味の宝石箱』たち。上がる歓声と流れる冷や汗ーーー


 『これを経費で、落とされたいと?ーーー』

 サイカラの顔が目に浮かぶ。


 (無理ッ! 手持ちで足りるのかッ!?)


 このあと支払い明細を見て俺が固まったの

は言うまでもない。

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