ナナミとの再会①

 「ーーーコウヤさんよ、アンタが、バケモノってのは良くわかった。アンタの弱点もな。今日はコレで終わりだ。


 不気味なセリフを残して、ヒューガは去って行った。現れた時と同じく、霞の様に影の中へ溶け込んで消えたーーー。


 コウと飲んで、宿への帰り道の話だ。

 俺は元獣人部隊のニンジャ野郎どもに襲われ激闘の末、十二、三人は倒したが最後に現れた異能『隠密』を使うヒューガには逃げられた。


 「ふぅーーー」長く細い息を吐き出す。


 俺の弱点って......なんだ? 思い当たる節が多すぎて、分からん。だが課題はわかった。魔法の使い方だ。


 さっきのヒューガは、『隠密』で挑んできた。とはいえまだ底を見せていない気がする。

 他にも魔法を封じる異能『遮断』、そして状態異常を引き起こす『毒霧』。


 恐らくこれらを組み合わせて、コウの魔法と俺の攻撃の連携コンボを封じに来るのだろう。 

 連携コンボを封じられままあの獣人ライガ

と戦うとなるとーーー恐らくかなわないだろう。こちらもの戦術を作らねばなるまい。


 「ウーーン。とりあえず、明日考えよう」

 ブツクサ言いながら走りだした。

 まずは事の始末を頼むため、衛兵詰所まで一ーー走りながら考える。

 後始末も頼んでおくか。


 戦術は明日の朝にでもコウに相談だ。

 頭の中で、ザッと予定を立て、俺はこの場を走り去った。


◇◇


 『ゴシマカス魔道士学園創設百周年』


 視界の右から左に、はみ出すくらいの石造りの二階校舎。ゴシマカス魔道士学園は、王宮のほぼ目と鼻の先にあった。


 なにやら横断幕が掲げられ、開校百年を祝う華やかな雰囲気の中、待合室に案内された。


 ナナミと久しぶりの再会。留学先の『魔道士学園』で、待ち合わせしている。


 「師匠ーーーき、緊張して来たッス!」

 リョウのヤツ、貧乏揺すりが始まった。

 

 「なんで?」


 「だ、だってほら、久しぶりだし。ーーーなんて呼んだら良いかわからないし」

 久しぶりって一年ぶりだろうよ。

 と怪訝な顔になる。

 「ナナミは、ナナミだろうよ?」

 

 「いや、そんなんじゃ無くて『様』つけとか『ナナミお嬢様』とか、呼びかたあるでしょう?」

 ん? 立ち位置に迷ってるって事か?


「バァカ、ナナミはナナミだ。今まで通り接してやれば良いんだよ。かえってやりにくいぞナナミも」

 パンっと肩を叩いてやった。


 「そおっすかねーーー」

 どうやら自分の付き人って立場と、ナナミが俺の婚約者って立ち位置に、引け目に感じているらしい。


 「そうよ。どんな言葉を使ってもリョウはリョウで、私はナナミなのよ」

 いきなりソファの後ろから声がした。思わずソファから飛び退く。

 

 「「ナナミ?」」俺とリョウの視線の先には、見違えるほど綺麗になったナナミが立っていた。


 胸元の空いたワンピース。紺色のベースに、赤い裏地の見えるスリットが入っている。

 程よく引き締まった体型にフィットして、少し垢抜けた感じだ。


 母親のキタエに似てきたか?

 愁いを帯びた大きな瞳に長い睫毛。鼻筋の通った小鼻の下に形の良い唇が、ニッコリと微笑んでいた。それとあともう一人。見知らぬ女の子も。


 「「ーーー誰?」」

 つい上ずったリョウと俺の声が、被った。


 カラン〜♬ カラン カラン〜♩

 謎のベルが響き渡った。


 年の頃はナナミと同じくらい。十九か二十歳?  腰まで伸びた長い髪の色は、少し赤身がかっている。

 何より大きく張り出した胸元と、引き締まったウエストから流れる様な腰のライン。

 長い脚が足首でスッと収まって、見事なプロポーションだ。


 黄色ベースのワンピースに、サイドに赤い裏地が透けて見えるスリット。

 ナナミと同じく胸元はVの字にカットされ、キラリと輝くネックレスが、全体の印象を上品にまとめていた。


 「二人ともガン見し過ぎ! 鼻の下伸ばしちゃって、久しぶりに会ったのになんなの?! 全くもう」

 ナナミが、ちょっとおかんむりだ。


 「こっちは、私の同じクラスのステラさん」


 「ステラ=ウィンドルスです」


 何がおかしいのか、クスクスと笑っている。


 「あ? ーーーああ悪いな。ちょっと驚いた。ナナミ綺麗になってたからな。

 そちらのお友達も綺麗だもんだから、つい見惚れてしまったよ。お嬢さんも、気を悪くしないでくれよ」


 俺はガシガシ頭を掻きながら詫びる。リョウのヤツ。ポーッとしたままだ。


 「褒められて気を悪くするなんてーーー。今日は『救国の英雄 勇者コウヤ』様が、いらっしゃるとお聞きして『お会いしたい』って、ナナミ様におねだりしたんです」


 そう言って、チラリと俺に視線を投げ

 「ご迷惑だったでしょうかーーー?」

 と不安気に尋ねてきた。


 ほほう? そうかね? つまり、この私のファンと言うわけかね?


 「ご迷惑だなんてーー「いやぁ! 迷惑だなんて全然ないっすよ!! むしろ大歓迎!」」

 リョウが、食い気味にかぶってきた。


 「なんでお前が、しゃしゃるんだよ!」


 「師匠だけズルいっすよ!」


 「何がズルいんだよ?!」


 「ここは平等に行きましょうよ。師匠はナナミを。俺はあのお友達を、エスコートしますんで」


 「平等ってお前ーーー」


 「久しぶりに会ったんですから、二人の時間を大事にして下さいよ」


 「お前ナナミの事ーーーえっ? 何? お前もうーーーいいのか?」


 「これだから『ダメ英雄』なんて、言われるんすよ。ここは将来を嘱望される若者を立ててですでね」

 

 「ーーーある意味お前最強だな」


 「ちょっと、何二人でステラ取り合ってるのよ?! 今日は、私に会いに来たんじゃないわけ?」

 ナナミが、プリプリして割り込んできた。


 「すまん、リョウのヤツが妙に浮かれてんだ。もちろん、今日はナナミの顔を見にきたんだ。早速飯でも食いに行こうぜ」


 「ステラさーー「ステラさんもご一緒にいかがですか?」」


 「なんで、リョウが被って来るんだよ?」


 「細かい事言ってちゃダメでしょう! ね? ステラさん?」


 「仲が良いんですね」

 ステラはコロコロと笑っている。


 「もちろん飯代は、うちの師匠が払いますんで。大丈夫ですから!」


 リョウーーー必死だな!?

 俺とナナミは顔を見合わせた。

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