戦闘訓練

 「シュミレーターが出来上がった。十時に『時の間』に来て欲しい」コウから連絡が入った。


 『時の間』は兵士と魔導師の訓練所。

 『時の間』での一週間はゴシマカスの一ヶ月にあたる。

 訓練時間の短縮のために、女神アテーナイが王宮の離れに建設した施設だ。


 「待ったか?」

 コウが先に来て待っていた。

 「ずいぶんだな。その態度。遅れてすまないとか無いのか?」ちょっと呆れ顔だ。


 「すまん。野暮用でな」


 先日の食事会の後、結局ナナミと夕飯まで一緒にした。リョウが未練タラタラで遅くなりナナミとステラを送り届けーーーそこまでは覚えている。


 なんやかんやの疲れが出たのかベッドに入るなり意識がなくなっていた。


 集合は十時。目が覚めたのも十時。

 なんで?!ーーーヤバい。

 「ダァァァ!」

 と飛び起きたものの後の祭りだ。


 「リョウなんでおこさねぇ? 先に起きたんだろ?」

 

 「なんで毎回寝坊して、八つ当たりするんすか?!」

 

 宿は王宮から二十分も歩けば到着するが、さすがにバツが悪い。

 「起こしたっすよ! 『大丈夫だからあと十分』とか言って二度寝してたじゃないですか?!」


 むむむっ! なんか言ってた気がするーー


 ーーーここはリョウに道連みちずれになってもらうしかないっ。


 「リョウお前も付き合え」


 「何言ってるんすかーーーコウさん怒ってたら消し炭にされるじゃないですか?!」


 「大丈夫だ。コウは年下には優しい!」

 

 (ーーーうん! 多分そうだと思う)


 「嫌ですね。怒られるなら一人でお願いします」

 ツレナイ奴め。飯の恩を忘れたか!


 「タダ飯食らった分働け。遅刻の言い訳にお前の協力がいる」

 

 「なに堂々と情け無い事言ってるんすか? これからは『残念勇者』って呼びますよ?!」


 「バァカ。これからは俺たちは仲間になるんだ。お前は強くなった。

 今回の救出メンバーに加わってもらうつもりだから言ってるんだ。

 辛い事も悲しい事も、一緒に乗り越えてこその仲間だろ? 冒険には仲間が付き物だろ?」


 「ーーーさっき言い訳の協力ってーーー」

 ブツブツ言ってやがる。


 「なんの手柄も実績も無い男にれると思うのか? 救出に成功すればお前もの仲間入りだぞ?!」


 「ーーーオキナさんの救出ですよね。

わかりましたよ、きっちり働きますよっ。ステラさんとの飯代で手を打ちましょう。二食分でーーー」

 二食分。Vサインを突き出しキリリッ! と男前の顔になる。


 「わかった、手を打とうっ。それでこそ仲間だ!」

 ずいぶん都合の良い仲間もあったもんだ。


 ーーーそんなヘタレな会話から一時間後、俺はコウの呆れ顔を見て小さくなっていた。


 ◇◇


 「このガスマスクをつけてくれ」

 訓練用の魔道具だーーーとコウが差し出してきたのはガスマスクだった。

 前回のマオ討伐戦で大活躍してくれた。

 だがーーー?


 「着けるのは構わないんだがーーーなんでガスマスクなの?」

 魔力の加圧トレーニングみたいな?


 「ここからは私が説明します」

 レモン・ウォッカ情報官が引き継いだ。

 コウの直属の部下で敵の情報の収集や分析を担当している。


 「このガスマスクは少々手を加えています」

ポーチを開けて金具を引き出す。

 魔石が収まっているのは通常通りだ。

 通常ならここからホースを伝い、ガスマスクに魔力が基礎詠唱の効果を付加して供給される。

 マオ討伐戦の際の半魔人や魔人達が装着していた物だ。


 「手を加えている部分はこちらです」

 ガスマスクの根元に出っ張りがある。何かの装置らしい。

 「この装置は魔力を感知すると、反転して吸収してしまう反転機です」


 つまりーーー?


 「魔法を使おうとすると『遮断』してしまいます。にーーー。つまり疑似異能『遮断』状態を発生させます」


 「獣人カノン・ボリバル対策ってわけね」

 コウが先にマスクを被り、ポーチのスイッチを入れる。


 ブィーーーンッ、とファンの回る音がした。

 俺とリョウもそれにならってマスクを被る。


 「お相手は我々がします」

 カミン・デュース諜報官が筋骨隆々とした部隊を引き連れて入ってきた。

 恐らく軍の特殊部隊だろう。


 「彼らは制圧専門の特殊部隊です。獣人部隊とも行動を共にしていたので、戦闘力は見劣りしないはずです」

 「よろしく」と軽く手を上げる。


 「演習には事故防止の為、訓練用シールドを使用します。赤く光ったら負傷、白く光れば死亡のダメージを負ったとします。

 赤く光った時点で退場してください。退場者への追撃は厳禁でお願いします」


 ルールの説明が続く。

 「武器は通常威力より落とした武器を使用して頂きます。ともにスペシャリストですので代わりはいません。あくまで訓練と心得、事故、遺恨の無きよう願います」



 「そして獣人ライガの想定としてーーー」


 ギィィィッーーーバッシャンッ!

 ギィィィッーーーバッシャンッ!


 物々しい重低音を響かせてヤツが近づいて来た。 体長二メートル・五十。体重三トン。

 目に当たる部分はブーメラン型に広がり、視界は二百七十度まで捉える事ができる。

 黒く光ボディの背中からブォッン! と排気音を響かせて停止した。


 「金属兵の最新型『マジ・ロスコ八型』が、お相手します」


 はぁぁぁぁぁぁぁ?! 


 (今ーーー事故が無いようにって言ったよね)


 俺とリョウはアングリと口を開けて固まっ

た。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る