やっぱりコウヤだった件

 ーーーあ!? と額に手を当て私に顔を向け、言いづらそうに切り出した。

 「出来たら金貸してくんない? 」


 なにをーーー?!


◇◇


 「いきなり何を言い出す? 向こうで、話をしよう。事情をまず聞こうじゃないか?」

 私は慌てた。


 救国の英雄が、金に困って昔の友人を尋ねるなんてーーー十分美味おいしいネタだ。

 ここ王宮では。

 たちまち揚げ足を絡め取るネタにされかねない。おおかた『救国の英雄は今!』なんて、タイトルで怪しげな噂が捏造ねつぞうされる。


 そこら辺がコイツはうとい。やっぱり残念なヤツだ。今回頼りにしてるから、余計に残念なんだけど。

 

 「とりあえず話を聞こう。いくら必要なんだ?」


 「百五十億インかな?」


 「ひゃ、百五十億!?」

 口がアングリと開いたまま塞がらない。

 一インは日本の一円にあたる。だから、前世で言うところの百五十億円だ。


 「百五十万インじゃないのか?」


 「百五十億インだ。ビタ一文まからん!」


 「なんで......なんでそんな大金? ーーーって、ちゃんと事情を話せ! 何をやらかした!?」

 金を貸せって限度もあるだろ? なんで百五十円くらいの小銭感覚で私に頼む?


 「ーーーん? ダメなのか?」


 「ダメも何も、何の為に、何故そんな大金必要なんだ? ちょっとした国家予算じゃーーー?! 『ミズイ』の予算の事なのかな?」

 そこまで言うと、コクコクと肯首する。


 「そうなんだ。赤字財政の立て直しに新しい国家事業プロジェクトを始める。だが、予算が足りない。

 で、予算の賃借をしないといけなくなったんだが、この世界の予算の借り入れ方がわからない」


 「ーーーで? 私に何をしろと言うのだ」

 コウヤは急にモジモジと身を縮め、こちらの顔色を伺っている。

 「ーーーなんとかならんか?」


 呆れてコウヤの顔を見る。

 「頼むよ。コウに借り入れしたいんじゃ無いんだ。借り方を教えてもらいたい」


 ふぅーーー。やっぱりか?!

 珍しく王都ド・シマカスに来たと思えば厄介事を抱えてたか?


 「わかった。なんとかしようーーーって、なんで先に文書で送らない?! いきなり国家予算持ち込まれても困るぞ」

 コウヤの顔をじっと見る。

 怒っているわけじゃ無い。コイツらしいと呆れるのが半分、何を考えているのかと思うのが半分。


 右手で拝んでる。

「すまん! いろいろ頼む!」コウヤは

 そう言ってニパッと笑った。


 ◇◇


 結局、『ミズイ』の国債を私とブロウサ伯爵、ブロウサ伯爵主催の『救国財団』で国債を買い取る形で百五十億インは決着した。


 もちろん、コウヤも国債は買ってもらうが既に前回の報奨金の前借り分、二百億も買っていて足りなかったらしい。


 「あー、スマン。コウ、助かったよ。ありがとうな。まぁあれだな! 必ず事業を成功させて倍にして返すから」

 コウヤのクセに威勢の良い事を言う。


 「おまえな。よくあるプロジェクト詐欺に似てるぞ。採算計画を立てたのがサイカラじゃなきゃ、信用してないからな」

 一応釘を刺しておく。全くいつもこうだ。

 コイツの困り顔と、ニコニコ笑う笑顔に釣られて怒る気になれない。


 「さてっとお。俺達は俺達で準備に入ろうぜ。 『時の間』の救出のシュミレーションが出来上がったら声をかけてくれよ。

 連絡先はここな。それとーーーまぁ、なんだ。

 今夜空いてるか? お礼に一杯奢おごらせてくれ」

 なんだかお安いお礼だな?!


 「悪いが気分じゃないよ。オキナを救出できるまで、出来る事は全部やっときたい」

 おやおや、って顔をする。


 「おまえ人はな。心にガスの溜まる生き物なんだゾ。良いから来いっ。ガスを抜かねば、あー抜かねばっ」

 なんなんだ!? この身勝手理論は?


 「バカッ、待てっっ、勝手な事言うな。離せバカッ、離せってばっ」

 私の腕を引っ張って、ズンズン行こうとするコウヤの背をバンバン叩く。

 

 こんな拘束くらい、簡単に引き剥がせる筈なのに。何故か引きられて行く。


 「な!? だろう? いつものおまえなら、簡単に俺くらいブッ飛ばせる筈さ。それが出来ないのは、おまえの心が行きたいって言ってるのさ。

 オキナを助ける前に、おまえが参ってちゃダメだよってね」

 

 なんだ? 心配してるのか?


 「悪いが俺は、これくらいしか知らない。飲んで吐き出して泣き言を言え。おまえ我慢してるの見てらんないから」

 ーーーこのバカ。このバカ迷惑かけまくってるクセに。なんでバカの優しさは、心地良いのだろ?


 「い、一杯だけだゾ。おまえのおごり」

 「ああ。一杯と言わず何杯でも奢るよ。救出成功の前祝いと行こうじゃないか。大丈夫だって! 俺達は無敵なんだから」


 カランッ、と音を立てて入る酒場には、何故か見覚えがあった。

 「ここなら誰も気遣いはいらねぇ。王宮の連中もいねぇし、みんな顔見知りだ。情報屋も締め出したから安心して飲めるぜ」

 

 「かぁちゃん! 座敷借りるよ」

そう声をかけて上がる先には、所々歯の抜けたおばちゃんがリュールを注いで待っていた。

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