コウヤがまともに見える件

 ◇◇コウ目線◇◇


 「さあ、役者は揃ったぜ。おっぱじめよう!」

 わざわざ訪ねてくれた、コウヤが胸を張る。


 嗚呼ーーー。

 つい泣きそうになる。ヘロヘロになって、到着したくせに私の事を心配して口をへの字にしてりきんでる。


 単純で人に惚れては首を突っ込んで、辺り一面迷惑をばらく変なヤツだけど、 誰かの為に命懸けで突っ込んで行く。王宮なら間違いなく喰い物にされる。


 「すぐにでも救出に向かいたいんだーーでも場所は山岳地帯の『カナン』だ。詳細な座標を特定するまであと数日かかる。犯人達に、気付かれないようにってーーー」


 「んな事はわかってる。今俺たちに出来る事が、あるんだろう?」コウヤがドンッ、と胸を叩く。

 「相手がどんな手を使ってきても、跳ね返す力をつけとくんだよ。どんなヤツらだ? どうやったら倒せる?」


 あ......そっか。まだ出来る事があるんだ。

 初めて私は気付いた。もうやれる事は、全部やったつもりでいた。まだやれるんだ。


 「コウヤ、敵の情報はある。『異能』を使う厄介な連中だ。意見を聞かせて欲しい」

 言葉が転がり出てくる。

 「このまま救出作戦本部きゅうしゅつさくせんほんぶまで来てくれないか? スタッフを紹介する」


 コウヤとリョウ君(何故かついて来た)を、本部まで案内するとスタッフを紹介する。

 二人とも選りすぐりのエージェントだ。

 「レモン・ウォッカ大尉 情報官です」

 ピンッと背筋を伸ばし敬礼する。

 レモンはショートカットでメガネをかけている。 身長は百六十センチくらい。長い睫毛を、瞬かせてコウヤを興味深々に見ている。


 「カミン・デュース中尉 諜報官です」

 カミンは小柄だがグラマラスな体型をしている。 私が細身なだけに、ちょっぴり羨ましい。

 唇がプルンとしているし、小鼻が通った小顔でちょっと鼻にかかった話し方をする。


 コウヤの大好きなタイプだ。また鼻息が荒くなるんだろうな?!


 「コウヤだ。辺境卿の田舎モンだ。宜しく頼む。こっちは付き人のリョウだ。俺の弟子でもある」

 ーーー以外とまともに挨拶してる。

 おかしいっ、何かの鐘が鳴り響いているに違いないんだがーーー?

 「ん? 俺の顔に何か付いているか?」

 コウヤが怪訝な顔をしている。「イヤ! なんでもない。早速資料を出すよ」

 私は慌てて分析資料を持って来てもらう様

お願いした。


 「うーむぅーーー。厄介だな」資料を見たコウヤの第一声がこれだった。


 「何か気になるところがーーー?」

 レモン情報官が尋ねた。やはり、実戦経験者の意見が気になるらしい。

 「ーーーん? このカノン・ボリバルって男、元軍人だろ? ただの思想家じゃない。この異能『遮断』の使い所を知ってる。

 それに一連のテロ行為だ。無作為に行っている様に見えて、狙いがある気がするんだ。大砲を打つ前の準備に見える」


 ほほう? 

 コウヤにしてはまともじゃないか?! 初見で敵の狙いを見抜いてる。


 「私も同じ意見だ。ヤツらの狙いはオキナを《さら》って分析、作戦の要を潰し、魔力送信装置まそうを壊して兵站を断ちに来ている。

 分からないのは何故要かなめがオキナだと踏んだか? って事だ」


 ん? って顔をコウヤがしている。

 「ん? なんか私が変な事いったか?」


 「そりゃお前。コウの婚約者フィアンセだからに決まってるだろう? 婚約パーティーまでしたんだ。

 二人の人となりとか、経歴くらい出回るって。

 その中に、実はオモダル討伐の中心メンバーだったって、情報が混ざっててもおかしくないだろ?」

 ーーーあ。

 あれが原因だったのか?


 「もちろん裏は取ったんだろうけどなーー。

 この異能『隠密』を使うヒューガってヤツ。もともと諜報機関にいたんだろ? やろうと思えばどうにでも出来るんじゃないか?」

 

 おかしい。

 今日はコウヤがまともに見える。

 狼狽うろたえる私を尻目に、カミンの資料に目を通し始めた。

 「このコンガの異能『毒霧』って? この三人の中じゃ異色だよね。

 幻覚作用以外の作用は? 混乱、酩酊ーーー異常状態の中身、分かんないかな? それに有効な対応策も。詳細な資料が欲しい」

 

 「お言葉ですが、最も警戒すべきなのはライガです。戦闘力も群を抜いてる。

 何故、コンガが気にかかるのでしょう?」

 レモン情報官としては自分の予想と異なり、コンガにスポットを当てた解析を始めたコウヤの発言に興味が湧いた様だ。


 「そりゃ戦った跡が無いからさ。ライガとは『ミズイ』の魔窟ダンジョンで一度当たった。

 このヒューガってのも、暗殺に関わる容疑者と記録がある。カノンは第四防衛ラインの記録があるからな。だがーーーコイツだけは何も無い。

 主に後衛専門なのかな? 」


 資料に目を通しながら、ブツブツ呟いている。

 「レモンさん。コイツの資料もっと無い?

 魔力送信装置まそうの事件コイツ絡んでる

と思うんだよね。『毒霧』による幻覚作用を使ったテロだったって、書いてある」

 

 「ーーーでコウ。『時の間』押さえてくれよ。敵のアジトも再現させてさ。突入のシュミレーションしとかないか?」


 ーーーあ!? と額に手を当て私に顔を向け

 言いづらそうに切り出した。

 「出来たら金貸してくんない?」


 なにをーーー?!

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