暗 殺

 「これが、カノン・ボリバル...... 」

私は冷たい汗が流れるのを感じた。


◇◇魔道士暗殺 現場証言◆◆

 防衛局は、軍の避難施設に魔導師を避難させていた。私はガランと言う王国陸軍の魔導師だ。『暗殺の恐れがある』とかで退避所に無理矢理避難させられていた。


 「なんで私が、この私がだよ? こんなムサイ連中と一緒に、押し込められてなきゃならんのかね?」今日で何度目かの愚痴を吐く。


 「そうよっ、この人はともかく私は外して欲しいわ。私は火力専門の魔導師よ。警護は必要ないの。なんならあなた達五、六人燃やしてさしあげましょうか?」

 生意気そうな小娘の魔導師が、キャンキャンうるさい。


 「申し訳ございません。ムラク防衛大臣閣下の厳命です」今日で何度目かの同じ回答を聞く。


 「私は魔道剣士ガランだよ?! 先の魔王討伐で第四防衛ラインの崩壊を食い止めたし、魔人の一個小隊だって撃破したんだ。警備するなら他の連中に回したほうが......」


 「申し訳ございません。ムラク防衛大臣閣下の厳命です」


 「はぁ〜っ。いや、いいよ。君たちも仕事だ」


 もう三日も缶詰めにされては、ため息も出ようってもんだ。

 「なによっ、すぐお偉い方の名前を出して。せめてホテルに移してよ!」

 魔導師の小娘が、相変わらずうるさい。


 三日前ほぼ拉致されるぐらいの勢いで田舎街

の軍施設に移された。魔導師が襲撃される情報が入ったらしい。

 防衛局の連中が二、三人拉致された事は聞いた。防衛局としては、希少な魔導師を失う恐れがあると保護に動いた様だ。


 「あぁ〜っ。シャワーだけじゃ落ち着かない!

 ゆったりお風呂に入りたいーーっ、それと軍食飽きたわー。ボアのステーキ食べたいっ」


 やかましいッ、俺も飲みに行きたいんだよ。第三街のあの飲み屋のボアテール焼きをだなぁ、リュールでグィーっと流し込みたいっ。

 いくら政府関係者がさらわれたって言っても......って攫われたのは文官じゃないか?

 こっちはバリバリの現役だぞ!


 前線みたいに枯草色の戦闘服を着た連中に、囲まれながら緊張を強いられるのも疲れる。

 「なぁ、こう張り詰めてちゃあ肝心の時に疲れて働けない。君たちーーー。ちょっとだけリュールでも飲まないか? なに、金は出すから。な? 諸君も大変だろ? 少しだけだ」


 (酒でも飲まなくちゃやってられるか)


 「勤務中の飲酒は軍規に触れます。ご勘弁下さい」なべもなく断られた。

 良く鍛えられた連中だよっ、全く!


 突然、照明が落ちた。あたりが真っ暗になる。

 「警戒ッ、異常発生! 魔導師殿をシェルターへ避難させろッ」警護班の班長が声を上げた。


 やっと来やがったか? 体も鈍ってきた所だ。意趣返しに返り討ちにしてやろう。


 「なぁ、お嬢さん。索敵してくれないか? 敵の五、六人ぶった斬ってやるからよッ」

 小娘の魔導師に声をかける。


 「めないで。私も前線にいたのよ!」

 ニヤリと笑って立ち上がった。

 「それに、あなたも前線にいたなら索敵くらい自分でやったら?」

 ーーーふん、生意気なガキだ。


 集中して魔力を編む。網のように展開していった。


 「早くこちらに!」警護班の兵士が避難を急がせる。


 「慌てなさんなって」


 ーーー居た。索敵に引っかかったッ。バンバン反応がありやがる。ソイツの場所はっと......。

 お?! お? お、俺の真後ろだと?

 な、なにも見えなかったぞ!?



 振り返るとヒョウの獣人が立っていた。足下にはさっきの小娘と兵士が血溜まりに倒れている。


 「やあ、久しぶりだなーー」

 低く、くぐもった声がした。


 「お、お前は獣人部隊のヒューガ?!」暗い目に射竦められて声が掠れた。


 「良くいじめてくれたから覚えてたか? 

 お前には世話になったから、顔くらい見せなきゃなッ!」

 ヤツは俺の口を塞ぎ、クナイを喉に突き立てた。


 「ザマァねぇな! 英雄さん!」

 激痛が走る。俺は喉を切裂かれ崩れ落ちた。最期に見たのは冷笑するヒューガの顔だった。


◇◇ムラク防衛大臣の応接室◇◇


 「ーーー以上が魔眼が捕らえた暗殺現場の映像だ。コウ君、どう見る?」

 ムラク大臣が憔悴した顔で尋ねる。


 「ムラク大臣。これがオキナの身に何か関係するのでしょうか? まずは早急に居場所の特定を。お願いですーーーこうしているうちにも、オキナがどんな目に合わされているかと思うと......」


 ムラクのシワが深くなる。

 「落ち着きたまえ。手は尽くしている。それなりのリスクがあるのに攫ったのは、人質に利用する価値があるからだ」


 映像を映し出す水晶のボードを、トントンと指先で弾く。

 「リスクを取ってでも、交渉の手札に使いたいんだ。それまでは生かしているよ。

 ーーーでなけりゃ、その場で殺されている。まずは敵を知る事だ。突入するだけが、救出では無い」


 唇を指先で擦りながら私を上目遣いに見る。

 「ーーで君はこの敵をどう見る?」


 「警護班も魔道剣士ガランも油断していたとは思えません。索敵をすり抜けてきたとしかーー」


 そう、そこだーーー。あの時私もオキナも油断してはいなかった。なのに、アッサリ抜かれた。

 何故だ? 何故索敵に掛からず接近出来た?


 「第二の異能者がいる。『隠密』を使う異能者が敵側にいるって事だ」

 そこまで言って封筒から書類を取り出す。ゆっくりと机に乗せて私に押しやった。


 「第二の異能者は『ヒューガ』。先の魔王討伐戦で獣人部隊に所属していた。繋がっているなら、手掛かりになるやも知れん。他の獣人部隊、OBも全員拘束した」


 軽く笑う。身内から反乱者が出た。何の為の軍人教育だったかーーー自嘲したくもなるのだろう。


 「これではっきりしたよ。テロリストどもは、元身内ぐんかんけいしゃで獣人部隊出身だ。

 対応を検討したい。明日十時に軍議を開く。君も出席して欲しい」


 黙って頷いた。軍が動く。私も評議員達を動かす。糸口で良いーーー確かな情報が欲しい。


 (オキナ、無事でいて。必ず助けるから)


次回 その頃火災現場では......?

その頃俺は手掛かりを探していた!

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