獣人部隊

◇◇コウヤ目線◇◇


 魔窟ダンジョンの調査に向かう途中、俺とリョウは黒装束の集団に襲われた。

 なんとか撃退できたものの、このまま調査を継続するのは危険だ。襲撃に備えた装備がない。


 「金臭くなりやがった。調査は打ち切る。魔眼を森の周り二キロ各所設置して、暫く観察する。再開は安全確認後だ! 戻るぞ」


 「いいんすか? サイカラ宰相怖いっすよ?」

 (うっ! むむむ......)


 「......アイツ俺には厳しいもんなぁ」

 俺は遠い目になった。

 なんでだろうなぁ......?


◇◇コウヤの拠点 領主館◇◇


 調査の途中急襲された俺は、領主館に戻っていた。執務室で俺は両手を広げて、大袈裟にまくし立てる。

 「なぁ、サイカラ。不思議と思わないか? ただの一度もだッ。シールドが展開できなかった事は今まで無かったんだぜ?! それがだ」

 俺は両手を広げて力説する。


 「それで?」

 あくまで冷たいサイカラの口調。


 「それなんだよ!」

 こんな時は声が大きいほうが勝つ(に決まってると思っていたよ。この時までは......)


 「そうなんですか?」

 ひたすら冷たいサイカラの声で、続ける俺の声なんかやまびこの『ヤッホーッ』と同じくらい意味がなくなる。


 「......そ、そうなんだよ」

 ちょっとビビりがはいる俺。


 「そうなんですね?」


 ぐ、ぐぐっ! マイナス三十度まで下がったサイカラの声に、俺のちっぽけな矜持は崩れ落ちた。


 「そうです......すみません......」


 「それで調査もせず、引き返して帰って来たって訳ですね。ホウ...... 。ご領主様ともあろうお方が、なんの成果も持ち帰らず?」

 俺は目を逸らした。


 (イカンッ、これではどちらが領主かワカラン!)


 ガシガシ頭を掻きながら反撃を試みる。

 「いきなり襲われるなんて想定しないだろ? 怪我人出す前に引き上げるのは当然だろ?」

 サイカラの銀縁のメガネが光った。


 「魔窟ダンジョンに? 危険も想定しないで出かけたって事ですか?」


 う、ううっ!


 「まさか行ってみてナンボやってノリで、無計画に出かけたのですか?」


 こ、コヤツはっ、むぅーーーむ、無理だ。これ以上メンタル削られるのは無理!!


 「ごめんなさい...... 」


 サヨナラ。俺のプライド......。


 ふぅーってため息を吐いて、サイカラは引き出しを開けた。

 「やり繰りして調査予算を割きました。『風の民』のカイさんに、警護依頼を出してあります。ーーー明日には到着するかと。

 あと設置頂いた魔眼の映像を分析して、周辺地図に危険エリアをチェックし、マーキングしております」

 書類を受け取り簡単な説明を受ける。


 サイカラはメガネを外し顔を擦った。

 「申し訳ございません。焦るあまり、私も言葉が過ぎました。早くこのミズイを立て直したい気持ちゆえです。そのために私は呼ばれたのですから」


 コイツ......。やっぱり良い奴なんだな。

 真剣にやってくれてる。


 ここ『ミズイ』は辺境国と言われるくらいのど田舎だ。大きさは四国くらい。

 魔石が取れるくらいで産業といえば、放牧で育てている馬、牛、羊の畜産業。

 おまけに魔口があるおかげで魔獣は出るわ、魔人は攻めてくるわ。その都度、軍費がかさみ財政は火の車。税収なんて今までいた王都の百分の一。


 そんなところだから誰も領主の成り手はなく、今まで直轄地だったのを俺が拝領したってわけだ。


 「すまんな。俺の方こそボンクラで......。だが必ず良くなるっ。ここは魔石の産出国だ。やり方次第で皆の羨む国になる」


 ドッパン、と扉が開いてサラが飛び込んできた。


 「そうですともッ。面白くて立ち聞きしてましたけど、三人で頑張りましょうっ」


 「ーーー何故? おまえが混ざってくる? しかも面白くてとはなんだ?」


 「......ちっ!」


 「まさかお前俺が怒られているのを......」


 サラが慌てて話題を変える。

 「あ?! 報告が、報告っ。例の襲撃者から回収して頂いた軍票をもとに調査したところ、身元が判明しました」


 この世界では一度軍隊に所属すると、生涯外せないドッグタグ(軍の認識票)を取り付けられる。

 退役軍人の犯罪予防だ。


 「獣人部隊の元三等兵士、ギャノンだと。ゴシマカス退役軍人会と照会が取れました」


 (ーーーん? 獣人部隊って味方じゃなかったか?)


 「前線に投入された部隊です。魔法こそ魔人に及びませんが、フィジカルは魔人以上です。魔王討伐の時活躍した部隊なんですが...... 」

 サイカラは考えこんだ。


 「じゃあ味方じゃねぇかよ?! なんで味方が俺を襲うんだよ? 」


 「さぁ......個人的恨みを買ったとか、覚えはありませんか?」


 「ねぇよ!」


 「ーー手がかりが少な過ぎる。ゴシマカスの伝手で調べてもらうようお願い出来ませんか? あわせて明日、カイの護衛隊と再調査に行くついでに、現場で他に手がかりがないか見てきてください」


 サイカラが名探偵の顔になる。

 「私は『ゴシマカス魔道具研究所』から、先の討伐戦の分析記録を洗って見ます」


 その前に......とファイルを手にして立ち上がる。

 「魔眼の映像も事前にチェックしてみましょう」

 魔眼の映像が見れる会議室へ移動した。


 「まず襲撃者が襲ってきた方角周辺を、映像で洗って見ます。コウヤ様こちらへ」

 サイカラに促され、魔眼の座標石版に襲われた現場の座標を示す。


 「サラ、ちょっとつまめる物と飲み物を」

 小腹が空いていた。


 「あっ、ああーーー?! これは失礼しました ♪ お二人の時間を邪魔してすみません〜」

 ふふふっ

 「ごゆっくりぃ♪ 」


 (なんなんだ? この腐女子? またなんか勘違いしてないだろうな?!)


 ニヤニヤして出ていきやがった!


 「全くっ、ろくでもない事ばかりーー」

 ブツブツ言いながら魔眼の水晶を触ると、真っ赤になった映像が映し出された。


 『ブッ、ブブッ、ブブワッ!』

 映像が乱れながら展開する。辺り一面火の海だ。


 ゴォッ、と爆音が体を揺らす。


 「な、なんだ?! どうなってる?」


次回 暗 殺

ゴシマカスに嵐が吹き荒れる

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