第65話 き ゅ う し ゅ つ

 閃光と爆音とそして熱波が収まると、そこにはキシボシンの成れの果て。

 長い黒髪が数本落ちているだけだった。


◇◇◇


 ふぅーッ!

 ガスマスクをめくり大きく息を吐く。

 終わったか‥‥‥。

 辺りを見渡すとコウ、サイカラ、ハン、コビンが集まって来ていた。


 へたり込んでいる俺を、コウが俺を引き起こしてくれた。

 「お疲れ様。無事で良かった」

 ほっとした笑顔が滲みる。サイカラは親指を突き出してニッと微笑んだ。


 「ありがとう。みんなおかげだ。ありがとなっ」

 手を振って無事と知らせた。

 よっこらせっと歩き出そうとするんだが、黒い霧の残りカスでも吸い込んだか足腰がふにゃふにゃしてる。仕方ないからコウに抱えられたまま頭を下げた。

 「「「ぷっ、ふはっ! ははははっーーっ」」」

 俺のお礼がグニャグニャだったせいか、みんな吹き出した。


 「コウヤ様っ、そりゃタコ踊りだ!」コビンがはやしだす。

 「いやクラゲ踊りだろ?」ハンが乗っかって来る。コウが「昆布だな」と言うもんだから、みんなワッ! と笑い転げた。


 「なんだよ!? 笑いたきゃ笑え。どんどん笑えッ。みんな、ありがとな」苦笑いをしながら殴る真似をする。


 「ハン、コビンッ、リョウとナナミは大丈夫なのか?」一番気がかりな事を聞いた。


 「二人とも大丈夫だよ。向こうで休んでる。あの......あと、もう一人いるけど」


 あと一人? 誰?

 コウと顔を見合わせて、ハンが指差す辺りに歩いて行く。ハンとコビンの肩を借りて、ふにゃふにゃと近ずいて行った。


 リョウとナナミがへたり込みながら、笑顔で手を振っている。その奥にぐたーっと横たわる人影が見えた。


 だれ? 人影はモソモソと動いて、目が合った。


 おまえも無事だったか‥‥‥?!

 俺の視線の先には、ヘタばっているサラがいた。


 てっきり死なせちまったと ‥‥‥。

 鼻の奥がツンとした。

 目の前が潤んでくるのが嫌で、鼻をつまみ空を見上げる。


 「コウヤ様、その、あの、えーと、私なにがなんだか分かってなくて‥‥‥。なんか私ご迷惑を?

 魔窟ダンジョンで電気ビリビリもらって、あとは何もかも曖昧にしか覚えて無いんですが」

 サラは困り顔で訴えてくる。

 つっかえながら、記憶を辿り思い出そうと言葉を紡いで話し続けた。


 「あの、マオと言う女がコウヤ様を籠絡ろうらくしてとか、”生贄”がどうとか、つまり、その、よくわからないんです」眉間に皺を寄せ黙り込んだ。よくわからないなりに、自責の念に駆られているようだ。


 俺は黙って最後まで聞いてやると「なぁに言ってやがる。帰って来てくれた。それで十分なんだよ」

 と肩を叩いた。

 サラの話しを要約すると、ガント・レットとの対戦で電気ショックを受け岩場まで避難した際、俺が戦っている間にマオと入れ替わっていたらしい。


 サラはその後傀儡化され、スパイとなり最後はキシボシンの”生贄”として取り込まれていたようだ。


 「あの、それで、私、ごめんなさい!」

 へたり込みながら、必死に謝るサラを見て俺は二ヘラっと笑った。


 「なぁんにもお前は悪くねぇ。悪いヤツはやっつけた。たからお前は、もう謝る事なんか何にもねぇんだよ。まぁっーーー俺もお前のおかげで、傀儡化されずに済んだからな。お前のお色気不足のおかげで!?」

 サラが茹でダコの様に真っ赤になった。

 そのくだりは覚えている様で見る見る

小さくなっていく。


 「ぷはっ、あははははーーっ」リョウとナナミが大笑いしている。つられてハンとコビンも笑った。

 コウとサイカラは、顔を見合わせてキョトンとしていたがまぁいいだろ。


 コウが配ったポーションと、サイカラが新しい魔石を追加してくれたお陰で俺と取り込まれていた面々も歩けるまでに回復した。


 マオを追いかけた道を後戻りして、カイたちの救出に向かう。


 コウと肩を並べて歩く。久しぶりだ。

 身長は俺の方が高いはずなのに、コウは背筋をピンッと伸ばし、スタスタと歩くもんだから遅れがちになる。

 ちょっと早足で追いついて並んだ。

 「コウ。ありがとうなっ、俺のために走り回ってくれて。おまけに一緒に戦ってくれて」

 コウはこちらを見る事もなく「全くだ。人遣いの荒い奴だ」

 フンッ! とぶっきらぼうに答える。


 「そう言われると辛いんだが、カイたちお前の回復ヒールでなんとかならないか?」

 こればっかりは俺では無理だ。


 「カイの回復にも、手を貸して欲しいんだ。あそこまで衰弱しているんだ。回復魔法をでなんとかならないか?」


 「‥‥‥‥」

 コウは黙ったまま歩き続ける。

 流石にダメか......。


 「考えてみる」ボソリと言った。

 ダメなのか? やってもいいって事? まぁNOではない。

 「何から何まですまん!」

 パァンと手と亀を合わせて拝んだ。

◇◇


 サイカラは、金属兵を回収してから合流する事となった。ハンとコビンは、中継地まで戻ってもらい馬車を回してもらう様手配した。


 石牢屋に到着する。横たわっているはずのカイたちがいない。


 まさかーーーまさか口封じで始末されたんじゃないだろうな!?

 くっと口から飛び出しそうになる言葉を飲み込んだ。

 「リョウッ、ナナミッ、おまえたちは裏を探せ。ハンとコビンは脱出口のあたりをっ、俺とコウは神殿のあたりを探す! 手分けして見つけよう。

 見つかったら狼煙を上げてくれ」

 焦る気持ちを抑え、手配を取るがどうしても早口になる。


 「その必要はないですよ」

 石牢の見張り小屋から野太い声がした。

 「おと、おと、父上!」

 ナナミが駆け寄って行く。

 ガバッと抱きついた相手は、太い眉毛の下の瞳を潤ませた偉丈夫だった。

 「ナナミ。おとうちゃんで良いって。父上なんて柄じゃないだろ?」

 顔を綻ばせ、ナナミをワシワシなぜている。


 カイ?

 いや、あんなに痩せ細っていたはずだ。

 ーーー誰?

 ぐすん、ぐすんっ、と鼻を啜りながら、ナナミが照れ臭そうにこちらに振り返った。


 「コウヤ様っ、ちちう、お父ちゃんです!

 お父ちゃんのカイです」

 眩しいほどの笑顔が咲いた。

 「お父ちゃんっ、新しい領主さまだよ。コウヤ様だよ。お父ちゃんを助ける為に、いっぱい、いっぱい戦ってくれたんだっ。世界一の領主さまだよ」


 ぅお! やめろぉっ、涙腺が崩壊しそうだ。

 ......っとぉ! その前になんでそんなに健康的?

 骨と皮で死にそうだったんじゃ......?


 コウが笑った。

「王宮呪術士と、魔導師の力を借りて解呪した」


 なんですと?


 俺をみてふふふっと笑う。


 「呪術でやられてたんだ。なら、呪いを解けば治る」


 どうやって? と顔に出ている俺を見て、やれやれと言うように肩をすくめた。


 「呪術士絡みの事案で、紛争事案だ。呪い障害なら呪術士、魔法障害なら魔導師。ケガ人や呪い障害の対策を準備しない方が、おかしいだろう? 

 おまえと話した時には、段取りは済んでいたさ。後は魔法陣をゴシマカスの王宮総合病院まで繋いで、処置してもらった。専門に直接診てもらった方が早いからな」


 そ、そなの? コウ、神やな? もはや神!


 いつまでもアホ面下げているわけにもいかず

 「元気になってなりよりです。体は大丈夫ですか? 集落までの馬車は、準備してありますのでゆっくりいきましょう」

 そう言って笑顔で握手を交わす。

 もっともカイは恐縮しまくっていたが。


 「コウヤ様。この度は私どものために、ずいぶんお骨折り頂きましたようでーーー」


 「いや。カイさん! 俺だけじゃないよ」

 にこやかに答え皆を指し示す。


 「ここにいるコウ評議員がいなかったらあなたを治せなかったし、マオも倒せなかった。

 サイカラ......、ここにはいないが助けてくれた。

 みんなが助けてくれたんだ。ここにいる人だけじゃない。あなたの奥さんも、部族の人たちも。

 何より、このナナミ殿の必死の願いがなければ、ハナから事は動かなかった」

 そう言って優しく肩を抱いた。


 カイは、もう男泣きに泣いていた。

 「本当に何と申し上げて良いやら......。ありがとうーーーありがとうございました」

 あたりを見渡すとみんな笑顔だ。


 ふぅーーっと深く息を吐くと、俺は二ヘラっと笑った。


 「これにて一件落着!」


次回 え ぴ ろーぐ

次回俺は涙目になる!

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