第64話 け っ ち ゃ く
「大丈夫だって! 心配すんな。‥‥‥それに二人を連れて帰らなきゃ、キタエにあわす顔がないしな!」
俺はガスマスクを被り直し、キシボシンへ走り出した。
行くぞ!
◇◇
ミスリルの剣を引き抜くと走り出す。
待ってろ! 今助けてやる!!
金属兵に、噛み付いていたキシボシンの半開きの目がジロリと俺を睨んだ。
大きく口を開けて黒い霧を吐き出す!
(
左手の亀を翳すと、そのまま頭から飛び込んで行った。
ズボゥッ!
黒い霧に覆われた口内は真っ暗で、手元さえ見えない。
手探りでウエストポーチから、魔光石を取り出す。指先に魔力を集中すると、魔光石が光り出した。
ゴクンッ!
奴に飲み込まれるまま、喉奥にたどり着く。
まだ食道や胃袋までは、再生出来ていない様だ。
喉奥はびっしりと繊毛が生えていて、絡みついてくる!
(うわっ! 気色わるっ!!)
魔光石に魔力を流し込む。
三つ取り出して同じように点火し、ばら撒いた。
辺りが明るくなって、繭玉のような塊りを見つけた。
あれがリョウか? ナナミ?
待ってろ! 今助けてやる。
絡みつく繊毛を、ザリザリと切り裂きながら近づいて行く。
人一人入るくらいの繭玉をくりぬき、もう一つを探す。
すぐ近くに、似たような繭玉が二つ。
深く考えている暇などない。
絡みつく繊毛を薙ぎ払いながら、刈り取った。
(フンッ!)
肉壁にミスリルの剣を突き立てる!
「#%^*€$£€#%€£!!」
キシボシンが激痛を感じたのか、激しく振動した。
ブシュブシュ! っと赤い体液が飛び散る。
「んんッ!」
さらに肉壁に穴を
痙攣するような振動と、赤い色の液体が手を滑らせて剣を取り落としそうになる。
フシューッ! フシュー!!
フッ、フッ、フシュー!
息が続かない! ガスマスクから供給される魔力も薄くなってきた。
「#%^*€$£€#%€£!!」
穿つ度に振動は痙攣に変わり、剣先が鈍くなる
ぬるりっ! ぬるりっ。
くそ! 手が滑る!?
◇◇コウside◇◇
気配が変わった。様子がおかしい!?
「サイカラさん! もう一回ガスマスク貸して。
様子を見てくる」
待機の
ウエストポーチを腰に装着すると、ガスマスクを被る。予備の魔石も詰め込んだ。
ブシュ! と軽く音を立てて魔力が供給され始めた。足に魔力を循環させる。
コウヤのように縮地はできないが、常人離れした速度で走る事ができる。
目に飛び込んできたのは、キシボシンの髪の毛でグルグル巻きにされた金属兵と、鼻と口から血を滴らせたキシボシンだった。
時折痙攣しながら、ギリギリと歯を食いしばっている。
(明らかに弱っている?)
気配が変わったのはこのせいか?
ならやるべき事は一つだ!
更に削ってやる!!
「
シュタタターーッ!
「
シュタタターーッ!
キシボシンの展開するシールドに弾かれて、火花が散る。
キシボシンの血走った目が、こちらをギロリと睨む。
「おのれ! おのれ!! 邪魔をするなぁ!」
カパッと口を開けだ。
(黒い霧か?
いいのか? シールドが消えたぞ?!
悪いが削るだけ削ってやる!)
シュタタターーッ! タタタターーッ!! と光の矢が空を切り裂き、全射撃がキシボシンに命中した。
「ボゥエエェェーーッ!」
声にならない悲鳴を上げ、黒い霧とともに赤黒い塊りを四つ吐き出した。
両手を
身を
火の魔法を発動した。
「【ポルカニック・ボム】火山弾!」
無数の燃え盛る火山弾が降り注ぎ、キシボシンはマリのように弾かれて転がった。
赤黒い塊りに走り寄る。
「コウヤ! みんな!! 大丈夫か?!」
◇◇コウヤside◇◇
ハァ! ハァ!! ハァ!
ガスマスクを剥ぎ取る。
息が、息が、息が出来るってありがてぇ!
狼煙石を叩きつける。
パシユ! っと、間の抜けた音を立てて白い煙が立ち昇った。
ふらふらと立ち上がると、赤黒い塊りに近づき繭玉の様に絡みつく繊毛を剥ぎ取る。
馬が近づいて来た。ハンとコビンだ。
「リョウ! ナナミ!!」
口々に名を呼ぶ。
「いいから連れて行け!」
俺はまだ、繊毛を剥ぎ取っていない繭玉も二人に預けた。
「ぶはぁ!」
まだヘタるわけには行かねぇ。
行かねぇんだが、体が動いてくれねぇ。
「コウヤ!」
コウがポーションを投げた。サッとキャッチャーして口で栓を引き抜き流し込む。
ジワジワと力が戻ってきた。予備の魔石をもらい、ウエストポーチを開けて魔石のセットされた金具を引き上げると、白く変色した魔石がポトリと落ちて消えた。
新しい魔石をセットし、金具を押し込むとブシュ! と音を立てて魔力が供給され始めた。
コウを見る。
「サンキュなコウーーー。悪りぃが、もうちょい付き合ってくれるか?」
「大丈夫なのか?」
コウはニヤリと笑い尋ねた。
「ああ。決着をつけよう」俺は首を、腕を、腰を順番に回して歩き出す。
弾き飛ばされたキシボシンの、落ちた辺りだ。
俺はガスマスクを被り直して、早足にそして駆け足で近づいて行く。
あちこち焦げた跡のあるところまで来ると、髪の毛がチリチリになったキシボシンが中空に浮かんでいた。
傍らには金属兵が倒れている。
(助かったぜ! あとは任せろ!!)金属兵に感謝の念を送る。
俺の背中越しに、光の
コウの援護射撃だ。
シュタタターーッ、と光の尾を引いて襲いかかり、シールドに弾かれて火花が散る。
「おのれっ、おのれ、おのれぇっ」キシボシンの咆哮が聞こえる。
背中からコウが叫ぶ声が聞こえた。
「ヤツはシールドを張っている間は、黒い霧が出せないっ。シールドの切れ目が勝負だッ、行けッ、コウヤ!」
俺は駆け出した!
大きく開いたその口に俺は左手をかざす。
「コウ! 準備OKだ!!」
シールドに豪雨の様に降り注ぎ、火花を散らしていた
視界が開けたキシボシンが吠えた。
「おのれぇ! 地に
キシボシンはシールドを解除して、大きく口を開き黒い霧を吐き出した。
ん?
キシボシンは、左手を翳し膝打ちの体勢をとっている俺と目があった。
「な、なにぃ?!」
目を見開くキシボシンは、慌てシールドを展開し始めた。
ふー! っと、俺は大きく息を吐く。鼻から息を吸い込みながら念じた。
『亀、頼む』
左手の海亀の甲羅が輝き出した。海亀は敵に向けて口を開く。光の粒が、亀の口に吸い込まれてゆく。凄まじい熱線に、口の周りの空気から水分が蒸発してゆき雲のような輪っかが発生する。
「【万物突破!】ディストラクション!」
シュ、ドォォォーンっと巻き上がる閃光と爆音。そして熱波が収まると、そこにはキシボシンの成れの果て長い黒髪が数本落ちているだけだった。
次回 き ゅ う し ゅ つ
俺は二ヘラッと笑った!
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