第47話 な ぞ
頭の中でカンカンと音がする。
いい女だったがありゃあーーー危険球だ。当たれば一髪で退場するクラス。
そしてまた俺は振り出しに戻った。
◇◇
ギシ ギシ......
「ーーーと言うわけだ。」
俺はキタエとナナミのゲルにいた。
カイの無事を聞いてナナミは泣いている。キタエは気持ちを整理しているのか、しばらく
ギシ ギシ......。
やがて形の良い唇を鮮やかに広げ「有り難きーーー」と礼を言う。
「何よりご無事で帰られた。安堵致しました。我が夫と部族の民の無事をお知らせいただき、これに過ぎる幸せはございません」
ギシ ギシ......。
「なれど、これ以上の探索は危険。領主さまもまだ就任したばかり。わが部族にこれ以上の肩入れはご迷惑かとーーー」
「バカを言っちゃいけねぇ」バン、とテーブルを叩く。
ビクッ!?
「散々偉そうにしといて、救出失敗しましたなんて領主失格もいいところだって。もの笑いの種だぜ。なぁサラ?」
シュタ!
「何? 旦那さま?! お布団ならとっくにひいてますわっ」
「天井待機ご苦労だったな。でも、もういぞ。誰も面白いと思ってないから。さっきからギシギシ音たててんのに、そっとしてただろ?」
そ、そんな、そんなバカな......!?
口をワナワナさせているサラを指差し
「な?!
俺はニパッと笑った。
ふふふ。
キタエとナナミがつられて微笑んだ。
「で、教えてほしいんだ。呪術ってなんだ? 恨んでいる奴を呪うあれか?」
「私も詳しくは知らないのですがーーー」
キタエが話し始めた。
呪術とは魔法と似ている。違いは自力と他力。
魔法は自力で、発動し相手(対象)にイメージ通りの干渉をするのに対して呪術は霊の力を借りて他力で干渉する。
もっとも異なるのは呪術が代償(生贄)を必要とする事だ。
「
「代償となる生贄です。なので即座に発動させる魔法とは異なり準備も時間もかかる呪術は廃れたはずでした。あ、ありがとう。」
ふんふん。なるほど。
「ズズーッ。なるほどぉ」
サラが勝手にお茶を立てて配っていた。
「ただ『始まりの人』たちによって連綿と受け継がれてきたと聞いています。」
「「「『始まりの人』?」」」
ほぼ同時に俺とナナミ、サラが聞いていた。
「んんーーー」
ちょっとお茶を啜るとキタエは続けた。
「そうです。『始まりの人』です。あくまでも伝説なのですが、人間と魔人はーーーいいえ。魔界と人間界は一つの世界でした。
そこには『始まりの人』が住んでいました。ある時大きな戦が起こり『始まりの人』たちは絶滅の危機に瀕しました」
「「それで? それで?」」
俺とサラは初めて聞く話だ。
「この愚行に怒った女神アテーナイは、世界を二つに割いたのです。やがて魔素と酸素の濃度が偏るようになり人と魔人に分かれていった。」
ーーーと、言うことは?
今回の魔人化の狙いは魔人化ではなく『始まりの人』化? いや、復活を目指していると言うべきか?
「『始まりの人』って魔人と人間の中間位だったわけ?」
ナナミが割り込んでくる。
「そうね。でも今では誰もそれを知らない。
だって『始まりの人』たちはとうに滅んだって聞いていたもの」
ーーーもしや?
馬鹿げた話だが、今この世界を牛耳っているのは人間。魔界を牛耳っているのは魔人。
この両方とも言うなりにできりゃ、両方の世界の覇者となれる。マオの狙いはそれか?
魔人たちの言葉が
『マスター、マオの世界が、やがて世界を覆い尽くす! マオの世界、がーーー』
『ま、魔人と。に、人間の同化だ、
マスター、ま、マオさまが、ひとを導く』
倒した魔人たちの言葉を思い出した。バラバラなピースが、ひとつひとつ組み合わさっていった気がする。
同化してまとめて洗脳できれば、戦力はいらない。少数民族が世界を
だが、なぜカイと風の民を生かしている? 俺と今、会いたくない理由はなんだ?
カイと風の民を生かしているのは、魔人にするモルモットとして生かしているからで、魔人に変化する為に時間がかかっているとしたらーーー?
「ひとつ聞きたいんだが、カイが消息をたって何日経つ?」
キタエは小首を傾げ指を折る。
「ーーーおよそ十日です」
「呪術が完成するのに、準備と時間がかかるって言ってたよな?」
マオはカイが”まだ”生きているって言ってた。
まだ呪術が完成していないから”まだ”俺に邪魔されたくないから”今”会いたくない
とすればーーー?! まだ、カイは魔人化されていない筈だ。
「サラ!」
「ハイ、アナタ」
「ーーーんんっ、コウに文書を頼む。これからすぐに仕上げるから送ってくれ!」
「お布団は?」
「別々のゲルで頼む!」
「えーーッ?!」
「た・の・む・よ」
俺の顔がそろそろ魔人化しそうな様子を見てサラは飛び出して行った。
残された時間はどれくらいあるのだろう?
次回 せ ん りゃ く
俺は頭を抱えた。
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