第48話 せ ん りゃ く

 まだ、呪術が完成していない。


 とすれば......?!

 あとどれくらい時間は残されているのだろう?


◇◇

 ゴソゴソ......

 その日夜。コウに書き上げた文書を送り、床に着いた。サイカラ派遣のお礼。呪術のこと。仮説ではあるがマオの狙い。俺が倒れた時を含め軍部の派遣要請。


 今のところ魔人の襲撃はないがーーー


 ゴソゴソ......


 俺は、枕もとの剣を手繰り寄せた。


 ゴソゴソ......


 魔光石に手をかざした。途端に明るくなる。 


 刺客か?!


 俺は剣を抜き放ち、そいつの後ろに回り込んだ!

 サッ、と剣を首元に突きつける。


 ん ーーー?


 「サラ? なにやってるんだ?」

 え? って顔の、ネグリジェ姿のサラと目が合う。明後日あさっての方を見て、目をそらすサラの頬を右手で挟み目を合わせる。


 「何やってるんだ?」


 「ーーー夜這いですけど? なにか?」

 なぁに聞いてんのよ? あなた? って顔をしやがった。


 「なぁ? 魔窟ダンジョンからおかしいぞサラ! なんでグイグイくる? お前はもっとーーー

 ともかくだ。俺は領主でお前は部下。それ以上は無いし、それ以外もない。俺はセクハラ上司にはなりたくはない。わかったか?」


 ムーっとサラが口をとがらす。

「私のどこがいけないのですか? こんなに健気で、お茶目で、お料理上手なセクシーダイナマイト部下キャラですよ?

 普通ほら! ムラッとくるでしょう?」


 ふむ。だが俺にも越えたくない一線がある。

 その、越えたくないのがおまえだよ。


 「なぁ、俺のどこを気に入って食いついてくるんだ?」


 とりあえず聞いとくか?


 「なに言ってるんですか? コウヤ様。今やコウヤ様は、ゴシマカスNo. 1の超優良物件なんですよ⁉︎ 成り立て貴族だから格式、面倒ごと無し!

 報償金はたんまり持っている。領地持ち。おまけに女にだらしないからすぐ惚れる!

 とはいえ、大してモテないから貴族からの縁談は少ない! まさに格安玉の輿!」


 そっか......そっちだったか‥‥‥。

 勘違いしちまうところだったよ俺。

 なんだか目の前がぼやけて来ちゃった。


 「出て行け! すぐにだ!! 頼むからそっとしておいてくれ!」


 「えー?! せっかく勝負下着履いてきたのに?見るだけ見ません? スッゴイんですって!」


 「出て行けーーーっ!」


 追い出されたサラは、そっと呟いた。

 「今日は、これくらいにしといてやるか?!」


◇◇◇

 翌朝、サイカラを交えて救出作戦を練る。前回の”無計画の成果無し”を踏まえてだ。時間がない。今回は失敗は許されない。前回得た情報をもとに作戦を練る。

 キタエ、ナナミ、サラ、自警団の面々に集まってもらった。


 カイは生きている。”まだ” 途中だから。魔人化する前に呪術の進行を止める。

 カイの居場所の特定もしなきゃならない。

 課題は山積みだ。


 「‥‥‥で? 呪術の進行をどうやって止める?」

 俺は知恵を求めてたずねた。


 「はっきり言って、言い伝え以外はっきりとした事は何もありません。ですが、気になるワードがあります」

 サイカラが口を開いた。


 「生贄いけにえです。生贄いけにえがなければ、魔人化も出来ません。生贄いけにえが何なのか? を突き止め、これを断つ。魔人化を食い止める戦略になりませんか?」


 おお! さすが!

 ゴシマカスの超優良企業主査! 一同を見渡すが異論はないようだ。


 「生贄いけにえは何なんでしょう?」

 キタエが呟く。

 「生贄いけにえが何かわからないと断ちようがないでしょう?」

 「ゴシマカスからの報告を待つとか?」

 サラがおずおず口を挟む。

 「却下だ。時間がかかり過ぎる」


 「魔人化した人間を回収できませんか? サンプルがあれば特定できるかも知れない」

 ってサイカラさん?

 サンプルって魔人解剖するつもり? 


 魔窟ダンジョンに入って捕縛するか‥‥‥?

 だが俺が戦って、俺が捕縛し、さらに探索しながら居場所を特定するって無理だ。

 せめてサンプルを確保したら、ここまで持ち帰ってくれる補助が欲しい。


 「「オレが(俺が)行きます!」」

 リョウとナナミが同時に口を開いた。


 え? リョウは顔を真っ赤にして首を振る。

 「ナナミはダメだ! 危険過ぎる!」


 「リョウこそ! これはお父ちゃ、んん!

 私の父上の事よ! 私だけ安全なところで他の誰かを危険な目に合わせるなんて。私が行かなきゃ誰も納得しない!」


 んーと。

 「俺がおまえを守るって決めたんだ!誰にも文句は言わせない!!」


 えーと。

 「リョウだって危険なんだよ! もしリョウが倒れたら私は自分が許せない!! ずっと後悔する!」


 はい はい はい。アオハルはそこまで。


 「危ないと判断した時点で撤退する。これが守れるんなら、二人とも連れて行く。手が足りないんだ。助けてくれ。

 キタエさん! いいかな?」


 キタエはしばらくうつむいていたが、やがてニッコリ微笑んだ。

 「領主様ばかりに、危険な事をお願いするのは筋違い。これはわが部族の問題。

 二人をお任せします。ナナミ、リョウ! おいで」

 そう言って、リョウとナナミを抱き寄せた。

 「二人は立派な大人となりました。しっかり領主様をお助けしなさい」

 そう言って優しく微笑んだ。


 さぁ! こっからだ!!


 ん?


 サラが、いそいそと布団を引いている。


 よっこらしょっとぉ!


 「サラも立派な大人よ! コウヤ! おいで!」

 布団の中から手招きするサラ。

 俺は頭を抱えた‥‥‥。


次回 ぼ う け ん

俺は驚きのあまり声を上げる!

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