第42話 こ こ か ら

 早朝の水汲みと、羊たちの乳搾りから風の民の一日は始まる。

 ゲルの煙突から煙が立ち上り、あちこちから朝食のスープの香りが漂う。

 季節は初夏。

 草原の爽やかな風に顔を晒すと、大きく伸びをした。

 よーしっ、いろいろあったがこっからだ。


 顔を手早く洗いキタエのゲルに向かう。

 朝飯にお呼ばれしていた。


 ミズイの季節は夏期と冬期しか無い。

 風の民の朝は夏場は『赤い食べ物(肉)』、冬場は『白い食べ物(乳製品)』だ。

 昨日遅くまでキタエと打ち合わせをし、ついでに酒も入っていた俺は固まっていた。


 食卓の上には肉、肉、肉、サラダ、肉。カレーパンくらいありそうな揚げ餃子(ポーシュー)山盛り。


 キタエとナナミが、ニコニコしてこちらを見ている。


 (結構ヘビーな量なのねーーー。朝から......)


 「サラも呼んでいいかな?」


 シュタ!


 「ここに!」

 天井から音もなくサラが現れた。


 「......」


 「なんか言ってくださいよぉ! 結構大変なんですよぉ〜! 天井待機って」


 んん、コホッ。


 「......キタエさん。今日は、朝からご馳走になります。どうもありがとう。このあとのーーー」


 「えーッ、放置ですか? バカみたいじゃないですか?! アタシの扱い、ひどくないですか?」


 「そのバカじゃないのかっ? 朝から黒装束着て天井待機してるおまえは、そのバカじゃないのかっ? 不思議だよッ!

 ここの部族長のお宅で、朝から黒装束して天井待機してるおまえ。

 俺はすっごく、不思議なんだが間違っているかな? 俺の感覚」


 パァン! キタエが手を叩いた。

 はっ! となって俺とサラはキタエを見る。

 ゴメンナサイーーー。


 「さあ、大地の神に感謝してこの恵みを頂きましょう! 神に祈りを。人々に幸をーー」そう言って胸の前で手を組み、祈りを捧げる。


 みんなに幸ありますようにーーー


◇◇


 「ーーーと言うわけです」

 そう言って、キタエが集まった風の民の面々を見た。

 俺が新しい領主である事、正式にカイの救出を要請する事、その為に自警団の再編成をするとを周知していた。


 「ーーー質問して良いですか?」

 ケビンが手を上げた。


 「索敵さくてき班と迎撃げいげき班、避難警護と分けるのは分かりました。

 でもなんで、救出するのに自警団の再編成が必要なんですか?

 前回のカイ様の調査隊に、自警団の半分はついて行ってるんですよ。人数が少な過ぎてーーー。

 一班三人ずつじゃあ、あの魔人クラスが来たら勝てないんじゃないかとーーー」


 「その通りだ。良く分かってんなケビン」

 俺は一人一人の目を見ながら話す。


 「確かに’勝つ”のは難しいだろう。だが、俺が救出に行く事は敵を刺激する事になる。

 魔法陣を使って集落を急襲きゅうしゅうされ

報復される事もあり得るし人質を取られるかも知れん。

 だから後顧こうこうれいを無くしときたい。行っている間”負けない”で欲しいんだ」

 とはいえ戦力不足は否めない。

 だから、奥の手は手配した。


 同じ風の民のとなりの集落にも、連携を持ちかける。

 互いに、避難場所とし敵襲の際は駆けつけるよう連携を持ちかけた。


 似たような連携は昔からあったようだし、相互扶助なら異論は出まい。

 キタエと昨夜打ち合せ通知や、通信手段はキタエに丸投げした。


 「それでも無理っしょ!」リョウが口を挟む。

 「まぁ見とけって!」俺はニパッと笑った。


 「明日には分かる。まずは、接敵したことのあるメンバーはこっちに来てくれ」


◇◇◇

—ーコウ目線——


 「何をやってるんだ? コウヤは?」

 通信石から吐き出された文書を見ながら私は呟いた。

 あれから私は領地を返納し、ゴジカスの評議員になっていた。

 辺境の地を統治するより、国政に参加する道を選んだんだ。


 ふふ。

 コウヤらしいか?!

 どうせ、どこぞの女に惚れて騒動になっているんだろう。


 ん‥‥‥?


 コウヤから送られてきたした地図?!

 慌てて私は報告書をひっくり返した。


 や、やっぱりーーー?!

「まずい! あの魔窟ダンジョンは!!

 オキナ、オキナ防衛補佐へアボを頼む!」

 秘書にアポイントを取る様指示し、私は評議会議員会館を飛び出した。


「あいつ! 絶対忘れてる。ややこしくしてーーー全くッ!」

 時間がない。

 まずは座標確定の為の魔眼の使用と、魔法陣の使用を申請する。国家権力の使用も辞さない。

 オキナに一肌脱いでもらってもだ。

 その時、その瞬間にコウヤがいないと嫌だ。


—コウヤside—


 まずは隣りの集落との連携は取り付けた。

 集まってもらった自警団の面々には、光陰流の基礎訓練を施したが、もともと足腰と体幹は騎乗で鍛えられていたので筋は良い。

 それでも不安を拭えない面子もいる。


 ゴゴゴーーッ

 ん?

 そろそろ来たかな?


 地響きがした。

 ギギィーー! プシーッ‼︎ 


 トレーラーが停止する様な音を立てて、ヤツは来た。

 「どうもー! ご無沙汰しております。ゴシマカス魔道具開発のサイカラです。コウヤ様、ご注文通り調整して来ました」


 そこには全身漆黒の装いで、帯状のカメラに光体が光りを放つ金属兵【マジロスコ3型】がその勇姿を現した。


 「「「はぁぁぁぁぁぁぁ?!」」」


 風の民全員があんぐり口を開けたまま固まった。

 サイカラは満面の笑顔だ。

 「コウ様からも口添え頂いたので、事は早く進める事ができました。

 これでコウヤ様も、コウ様の婚約パーティーに間に合うと良いですね」


 あ......。忘れてた‥‥‥。


 なんですと?

 サラが固まる。

 俺は冷たい汗を全身にかきながら、遠い目をして呟いた。


 コウ‥‥‥! ワリィ‥‥‥


次回 ひ み つ

俺は謎を解く!

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