第43話 ひ み つ

 俺は冷たい汗を、全身にかきながら遠い目をして呟いた。


 コウ......! ワリィ......!


◇◇

 「人間の魔人化?」

 サイカラが驚いている。

 「そんな事聞いた事ありません」


 腕組みをしたまま、俺は《風の民》を顎でしゃくる。

 「もう十名はやられたらしい。ここの部族長、カイはその謎を解くため調査に出たきり、戻っていない」 


 「人間の魔人化は、ありえないんだがーーー」

 サイカラは、うーんと唸って俺を見た。

 対魔人兵器 【マジロスコ】の技術者であり、魔人のスペシャリストでもある。


 「コウヤ様、魔人と人間の違いって分かります?」トントンと額をペンで叩き、魔人の解剖図を描いた。


 「魔力の容量です。魔素の多い大気で、進化した魔人は魔力の容量が大きく、少ない大気で進化した人間は少ない」

 トントンッと肝臓の辺りを叩く。


 「この辺りに魔人は魔石が内臓され、全身に魔素を循環させています。

 さらに、基本的な魔法詠唱の術式はこの段階で入力されている。魔術に変換された魔素は......」


 ツゥーッ、ツッ! と、肝臓の辺りを丸く囲み脳まで線を引く。


 「脳まで運ばれて、脳内でイメージしたカタチが魔法として出力される。ほとんど詠唱なしで、強力な魔法を発動できるわけです。対して......」

 カ、カ、キュー、カッ!

 人体図を描いた。

 「人間は魔石を内臓していません。魔石を形成できるほど魔素が無かったからです。

 そのかわりここ!」


 キューッ!キュ!

 頭のてっぺんに丸く印をつける。


 「天中テンチュウに詠唱をする事で魔素を集め、丹田たんでんに落とす経絡を発見した。詠唱をすることで、魔石に変わる魔素循環の術式を編み出したわけです。つまり魔術です。

 魔術を用いて人間は魔法を発動させる」


 うーん。

 つまり......?


 「魔石を持たない人間は、魔人にはなれないって事かい?」

 魔人の解剖学を眺めながら、サイカラに尋ねた。


 「ーーの筈なんですがね」

 うーんっと頭を掻く。


 「同じ魔法を使うように見えて、実は全く異なる経路で発動させています。無理に魔石を移植しても、もともと体が魔素を受容できる量が違う。

 循環させる経路が違う。魔法は発動しないし、大量の魔素に負けて恐らく生きられない」


 なるほど。わからん。


 うーん。考えても謎は解けない。なら解かなくても良い。

 俺は部族長カイを救出するだけだ。


◇◇


 カン! カッ! カンカン! カッ!


 子気味良い木剣の音が聞こえる。

 「おお! やっとるなぁ」

 ソード・バックラーの訓練場所に移動した。なかなか様になって来た。


 「よし! 集まってくれ」

 型の練習を終えさせると、自警団を集めた。


 うん うん。うーん? うん。

 「君と君。そして、そこの君。君たち三人は盾役だ」体格の良い三人を選ぶ。

 サイカラに、持ってきてもらった耐魔法を施したライオットシールドを配る。

 獲物は百八十センチほどの手槍だ。


 そしてーー。えーと?!

 「ケビン、シン、エケン、ハンはコイツを使え」

 ライトニング(光の矢)を発射できるボウ・ガンを手渡し、盾役の後ろに配置する。


 「おーい! ナナミ!! おまえはこっちだ!」

 ボウ・ガンより後ろに立たせた。


 「リョウ! おまえはここ」

 ナナミの横に配置する。


 「さて、勇敢なる自警団の諸君! これから、魔人を想定した訓練に移る」

 俺は偉そうにみんなを見渡す。


 「盾役は弓兵を守れ! 弓兵は狙撃したら盾兵に隠れて次の狙撃準備だ。

 ライトニング(光の矢)を潜り抜けて、魔人がきたら盾兵は手槍で仕留めろ。

 ナナミは遠距離から攻撃魔法で狙撃だ。

 リョウは接近戦になったら、横から土手っ腹打ち抜いてやれ! わかったか?」


 おおっ!


 初めてみるゴシマカスの兵器に、自警団の面々から歓声が上がる。

 俺は嬉しい。

 そうか!? 喜んでくれたか?


 なら特別サービスだ!

 「そして、魔人の役はーーー金属兵【マジロスコ3型】だ!」


 ズォーン! ブシューッ!!

 ズォーン! ブシューッ!!


 全身漆黒の装いで、帯状のカメラに光体が光りを放つ金属兵【マジロスコ3型】がその勇姿を現した。


 はぁぁぁぁぁぁぁ?!


 諸君! 健闘を祈るーー!



◇◇◇


 「コウヤ様、コウヤ様ーーーちょとお耳に入れたい事がございます。手が空かれたらこちらのゲルまで」キタエが手招きした。


 「どうしました?」


 寂しげな瞳に見つめられたら、無い時間でも作ってやろうって思うじゃないか!?


 跳ね飛ばされる自警団を尻目に、キタエのゲルに向かう。

 「実は......これが主人が残したメモです。魔窟ダンジョンに入る前に、いろいろ調べておりました。これが、何かの手がかりになればとーーー。

 御足労をお願いしたのです」


 全部で、二十枚くらいの冊子を手渡された。

 はらりと一枚のメモが抜け落ちる。部族長カイの手書きのメモが添えてあった。


 “これから私は魔窟ダンジョンに入る。

 この魔窟ダンジョンには、いにしえのひみつが隠されている。

 まだ推測に過ぎないが、もし私が帰ってなければこのメモを領主まで届けて欲しい。

 キタエ。

 君には、苦労ばかりかけてすまない。ナナミの事をよろしく頼む。”


 なんだ?


次回 こ う りゃ く

俺は一気に駆け抜ける!

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