第41話 は っ か く
大きく息を吐き出し、俺は目を
「だから守ってやってくれ。頼むーーーバトンタッチだ。」
パァン!
なぜかあの日涙で交わしたハイタッチと勇者タガの顔が笑顔で浮かんだ。
◇ ◇
ーーーなぜだろう。
俺はキタエの前で正座している。リョウを叩き伏せ弟子にして、そのあと集落の部族民と戦う雄叫びを上げたあと呼び出されて......
「コウヤ殿ーーーこれはいったいどう言う事でしょう? 確かに私は今日の宿を許しました。
ところが会食を終えると、今日、初めてお会したコウヤ殿がカイ救出? 部族民を訓練するお話? 私は貴方に主人の救出を依頼したわけでもなく、部族の守りをお願いしたわけでもありません。
私はカイから留守を預かっています。
私になんの断りも無く、勝手に物事が進んでは部族の示しがつきません」
ーーーそうだよな。
「まずかったか?」
チラリとキタエをうわ目遣いに見る。
「何を
厳しく顔を引き締めて続ける。
「軍部にも知り合いがいるとか? あなたはいったい何者なのです? 素直に話さない限りこのままあなたをこの集落に止める事は出来ません」
んー。
確かにそう見られればそうなるわな。
「ちょっといいか?」
そろそろ正座も足が痺れてきた。
ドカッとあぐらをかく。
「サラ、ちょっと来い。そこにいるのはわかってるんだ」
シュタッ!
黒装束のサラが天井から降り立つ。
「ぅおい!」俺は思わず飛び退った。
あービックリした!
「御意! ここにッ!」
「なんで普通にこれねぇんだよッ、怪しさ満載になったじゃねぇか?! 御意じやねぇよ!
ここまでの話聞いてたんだろ? なんで忍者っぽく登場してるんだよ!」
サラが唇をとんがらかして反論する。
「えー? この流れじゃないんですか? 着替えるの大変だったんですよッ!!」
「バカじゃねぇのか? 頭の中酢が湧いているんだろ?」
「えー?! ちょっと入っているかもですけど、舐めた事ないからわからないですぅ」
舐めた事あるヤツ見てみてぇよ......。
パァン!
キタエが手を叩いた。恐る恐るキタエを見る。
怒ってるみたい......
「コウヤ様が悪いんじゃ無いですか?! コウヤ様が暴走するから。鼻っからミズイの新しい領主になったから、視察に回ってるって言えば済むじゃないですか?!」
サラが小声で抗議する。
ば、バッカ!
俺はだな! 本音を聞きたくて......?
ーーーん?
身分を偽って聞いた本音をどうしたいんだ?
んー。
もやっとしたもんが残るなぁ。後から身分をバラした時に。成り行きとはいえ後々尾を引きそうだ。
ならーーー
「すまん! 俺が悪かった」
ガバッと立ち上がり、キタエに深々と頭を下げる。
「新しく領主になったコウヤ・エキノだ。正式な就任式の前に領地の視察でここに来ている。
身分を隠したのは堅苦しいのが嫌なんだ。領民を肌で感じたくて身分を偽った。だが騒動になっちまった。悪かった! 謝る!」
頭を上げずうわ目でキタエを見る。
キタエの目が驚きで大きく見開かれていた。
「‥‥‥」
口がパクパク動いているが言葉になって無い。
「ーーだって、あなた商人だってーーー
どう見たって、あなた、貴族とはーー?」
控えめにあちこち見回し値踏みをするのだがイメージとかけ離れ過ぎているらしい。
「任命書だ。サラ!」
サラが恭しく懐から取り出した国王ウスケのサイン入り任命書を渡す。
ついでに身分証のカードも渡した。
じっと任命書と身分証のカードを交互に見つめる。穴が空くほどと言うが、穴空きそうだぞ! おい!
「なるほど。先ほどは失礼いたしました。どうぞ頭をーー。これで得心いたしました。
あなた様が新しい領主様でいらっしゃる事も
勇者コウヤ様である事も」
椅子から床に降り正座する。
スッと背筋を伸ばし、「んん! コホッ」っと可愛く咳払いをするとキタエは微笑んだ。
「ようこそ。我が部族『風の民』へ。
改めて御礼申し上げます。そして改めてお願いいたします。我が夫、部族長カイを救出ください」
両手を揃えゆっくり額を揃えた両手につける。和服美人がこの所作をすると似合うなぁ。
「なぁ、これでおあいこでいいか? 頭上げてくれよ。俺も悪かったよ。
カイさんの救出はする。だが、その前に部族の事も教えてくんねぇか? 魔人が湧いて来るんだろ?
守りはどうなってるんだい?
戦えるのかい? 逃げ先はあるのかい?
苦労してカイを連れ帰ったら全滅してたなんて嫌だぜ。ここの連中いいヤツだからな。なんかあったら、俺も泣いちゃう」
ニパッと笑う。
つられてキタエも微笑んだ。
いい笑顔だ‥‥‥
「さて、と。
あんたも口添えしてくれ。索敵出来る連中と、魔法陣を張れる者を選別して欲しい。
ここら辺の地理も知りたい。
女子供の逃げ先、拠り所を教えてくれ。まだ決まってないなら選定と交渉はあんたに任す。
できれば
遠ざけたい。
できるか?」
キタエは表情を引き締めて頷いた。
「出来るだけ敵の情報を知りたい。接敵したことのあるヤツも集めてくれ。明日の早朝から取り掛かる」
「何を始めるおつもりですか?」
キタエの顔が曇る。初日からこの騒動だ。心配になって当然だ。
「決まってるだろ。あんたの旦那を救出する
準備だ。それとーーー」
俺はニパッと笑う。
「続きは後からのお楽しみさ!」
ひとまず戦える体勢を整える。そして俺は笑顔を取り戻すんだ。ナナミも。このキタエも。
この
次回 こ こ か ら
俺はどうやらとんでもない事を忘れていた。
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