第32話 激 突 !
床材はとうに溶けてマグマのように流れ落ち、ブスブスと黒い煙を吐いていた。
その中から魔王オモダルが、ゆらりと立ち上がる。
「愚かなーーーお遊びはこれまでだ」
メリメリと音を立ててオモダルの背中が裂け、中から禍々しい黒光りのするものが現れた。
耳元まで裂けたの口、胸と背中から生えでた腕。全ての腕にはこれも黒光りする剣が握られていた。
丸太ほどもすある足に臀部には、ユラユラと空を舞う尻尾が生えている。
第二形態【アシュラ】
「愚かな......。自らの罪をーーー身をもって知るがいいッ!!」
カッと大きく口を開くと眩いばかりの閃光が走った。
「ずおっ」
コウヤが壁まで吹き飛ばされ叩きつけられた。反射的に展開したシールドがなければ即死。
「ヌンッ」
四本の剣から
「くっ!」
コウがシールドを展開し雨のように降り注ぐ光の矢を防いでいる。
豪雨をしのぐ雨傘のようにシールドはたわみ、その周りはギザギザの剣山が突き出たように穴が穿つていた。
「チッ!」
足を押さえて踞る。シールドをすり抜けた破片がコウの脚を貫き、コボルトの皮を舐めして作られた戦闘服がみるみる赤く染まっていく。
「下がってろ!」
コウヤはコウの前に立ち塞がり応急処置のためのポーションを後ろ手に投げた。
コウは空中で受け取ると、患部に振りかけながら指示を出す。
「時間を稼いでっ。さっきより魔王の魔力が増大している! こっちも連発で打ち込むっ」
「任された!」
『亀【万物突破!】ディストラクション』
左手の海亀の甲羅が輝き出した。海亀は敵に照準を当てて口を開く。
光の粒が亀の口に吸い込まれてゆく。
凄まじい熱線に口の周りの空気から水分が蒸発し、雲のような輪っかが発生する。
魔王オモダルがカッと大きく口を開きと眩いばかりの閃光が走った。ーーーと同時にディストラクションが発射される。
ズッ……ドォォォーーーンッ!
互いにシールドを張りダメージは無い。
だか、建物が持たなかった。あちこちで倒壊が始まる。
コウは魔力を集中させ、一気に錬成しようとしていた。
時として自らの保有する魔力を超え意識が飛びそうになり、魔力送信装置から送られる魔力でやっと持ち直すほどの集中。
「ここで決めなきゃもう倒せないっ。もう少し時を稼げ! コウヤッ」
「チッ! 人遣い荒いなっ」
軍神アトラスを憑依させ向き直る。
「ヌン!」
「フン!」
火花を撒き散らし軍神アトラスが打ち合う。
互いの手元が見えなぬほどの高速の打ち合いに関わらず、第二形態アシュラはコウを狙い第二、第三の腕で光の矢を放つ。
シュタタタッーーッ!
光の尾をひいて襲い掛かる必殺の閃光。
かわして走り出すそのあとを追い込むように次々と突き刺ささって行く。
「おまえはこっち向いとけっ!」
コウヤが剣を思い切り叩きつけた。
スルリといなされ体勢が泳ぐ。ほぼ時間差無しで第二形態アシュラの剣が首元に迫った。
「のぉぉぉっ!」
首を曲げ紙一重でかわす。
避け切ったと思えば第二、第三の腕から神速の剣が繰り出されて来る。
「あッぶっねーっな、っって!」
シュ、シュバッ、シュパパパーーーっと空気を切り裂く音が加速し、コウヤの剣速が上がった。
「愚かな‥....愚かなッ! 人間如きが我にキズ一つつけることなどありえぬわっ」
「それが、あ・る・ん・だ・よって!」
攻撃の切れ間を利用しザッとコウヤは後ろに飛び退き距離をとる。
「神速!【フラッシュ・ソード】」
コウヤの剣速がさらに上がる。
「ヌォ! オオオオオオオーー」
二人の剣が高速で交差し火花が散った。
もはや空気さえなぎ払い辺りにカマイタチが発生し瓦礫が弾け飛ぶ。
「痛ぅっ!」
捌き損ねた剣先がコウヤの顔を掠った。
その僅かなスキを第二形態アシュラは見逃さず、上段と左右からなぎ払いにくる。
「シッ!」
コウヤは身を沈めながらシュルシュルと上段の剣を左にいなし、右なぎにきた剣を左に身を逸らしてかわす。
左からきた剣を亀の甲羅で擦り上げると、ガラ空きになった腹に剣を滑り込ませた。
思い切り体重をのせた剣をいなされれば、第二形態アシュラといえど防御が間に合わない。
「だぁ!」
ズッンッと、低い音とともにコウヤの剣はアシュラの胴に吸い込まれて行く。
「ウオォーーッ!」
第二形態アシュラから絶叫がほとばしり、コウヤは全体重をかけ剣の根元まで押し込んで行った。
剣を投げ棄て、右手と胸から生えた手でコウヤを引き剥がそうと掴みかかる。
黒い血を撒き散らしながら、空いた左手で刃元を掴み引き抜こうとしている。
「うっわーーッ」
千載一遇のチャンスだ。ここで決めるんだっ。
剣のつかを持ち、体ごと体当たりする様に押し込んでいく。
ついには二人の体がもつれ倒れ込んだ。
「あーーッ」
上になったコウヤは絶叫しながら剣の
剣先はとうに第二形態アシュラを貫き、床に縫い付けている。
「しゃぁ、コウッ! いまだぁ」
と、振り返り叫んだ瞬間ーーー。ビンッとコウヤが反り返った。
「ふんっぐっ」
コウヤの口から鮮血が飛び散る。
「ーーーーえ?!」コウが目を見開いている。
コウヤ自身、何が起こっているか理解できていなかった。
ふぅーーーふぅーーーふぅ。
世界から音が消え、自らの呼吸の音しか聞こえない。
間を置いて激痛が襲う。
首を回すと第二形態アシュラの尾がコウヤの背を刺している。
そのまま強靭な力で、アシュラの上から引き剥がされ壁に叩きつけられた。
「コウヤ!」
コウが走り寄ってきた。
「は 、は 、はや 、早く。
と、とどめを、もも、もう 、う、うご、動けないーーーーから」
震える指で第二形態アシュラを指差した。もう軍神アトラスの憑依も解けている。
「しゃべるなっ、黙れ。黙れっ」
コウは袖を裂くと傷口に押し当て、ヒールの詠唱を唱え始めた。
「癒しの女神よ。我が盟友よ。
我が身に集え。集え。この者。一人にして十。百の功徳あり。この者救いたまえ。救いたまえ。」
光の粒が手に集まってくる。
ふぅ......ふぅ......ふぅ......ふーーー
コウヤの呼吸が止まり糸が切れたように、腕が垂れ下がった。
「癒しの女神よ。我が盟友よ。
我が身に集え。集え。この者一人にして十、百の功徳あり。
この者救いたまえ。救いたまえーーーー」
溢れ出る涙を拭おうともしない。
「あぁぁぁぁーッ」
コウの絶叫があたりに響き渡った。
ゾロリ。ゾロリ。ゾロリ。
音のする方をみると、第二形態アシュラが尻尾を剣に巻きつけて引き抜こうとしている。
苦痛に顔を歪めながら笑った。
フルフルとからだが揺れている。
「はは‥....愚かな‥....とどめを刺さずに我に背を向けるとは、な。その者の犠牲もタダの犬死にしよって」
コウはコウヤを守るようにシールドを展開した。
「おまえ......おまえこそまだ気づかないのか? 周りを見てみろ!」
そこには光の粒が漂っている。
「ん?」
「ファイヤ・コアを極小化してばら撒いてある。すでにお前をシールドで囲った。そこは灼熱の卵の中だーーー発動っ【フレイムコア】!」
カッ、と閃光があたりを真っ白い世界に変える。シールドで囲まれた球体の中で白い炎が踊り狂った。
引火するように次々と炎が吹き荒れる。
ブゥワン!!
密閉された空間に灼熱の光の球体が出現した。
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