第28話 石の漢
心身共に傷ついたコウヤとコウ。
ゆっくり休息する間もなく、敵の最終ラインまで転送して来た。
「きたか? 勇者と魔導師よ。われが魔王オモダル様の盾にして剣! 四天王筆頭 ラピスだ」
ゴリゴリと動くたびに、音を立てて近づいて来た。
ゴーレムか? 真っ白い石像だ。
ギリシャ彫刻のような隆々たる筋肉。髭面、短い頭髪に鋭い眼光。ゾロリゾロリと身の丈と同じくらいの長い剣を引きずり近づいてくる。
「ムン!」
いきなり横払いに剣を振るった。
ブァン! と展開していたシールドか弾け飛びそうになりながら波打った。
「やばそうだな...」
コウヤはシールドを二重にして隙を窺う。コウが詠唱を始めるのを見ると、剣を手槍に持ち替えて体勢を低く構えた。
足元には魔力を集中したのか、砂埃が立ち始める。
『亀ー【縮地!】』
甲羅が輝きだし、足元の地面がラピスまで歪んで波打った。絨毯を手繰り寄せるように空間が圧縮された。
「
一個の弾丸と化したコウヤが突っ込んでいった。 狙いは胴だ。亀を頭上に翳しながら、高速で手槍を突き出す。
ガキンッ!
金属がぶち当たる音と、火花が飛び散る。
ラピスは左手を掲げシールドを展開していた。
スピードを殺された手槍を、長剣で悠々と受け止め大きく上段に振りかぶる。
「ムン!」
ドッゴン! と大袈裟な音を立てて、振り下ろされた先は大きなクレーターができていた。
「ヤバイ! ヤバイって!」
飛び退いていたコウヤが、冷や汗を流す。
「さてーーーどちらから始末するかな?」
ジロリとコウヤとコウを舐め回す。
「好き勝手言ってくれるじゃねぇか」
掠れ声で呟いた。
ラピスはコウヤに目を止めた。
「どうやら早めに死にたいようだな...」
ピュンと長剣を振るうと、床ごと切り裂きながら衝撃波が襲って来た。
ガラガラガラーーッ とシールドを打ち破りバァンッ! と亀のガードごとコウヤを壁まで吹き飛ばす。床石の破片でひたいを切ったのか、ツーっと一筋の血が流れた。
「即死か、
ブァっと飛び下がると詠唱を始める。
「集え。集え。わが盟友たちよ。その力を我が身と我が剣に与えたまえ。
我が身は金剛! 我が剣はイカズチ。
我が名はーーー軍神アトラス!」
コウヤが金色の光に包まれる。
我が身を媒介にして勇者の力と軍神アトラ
スを憑依させる究極の魔術だ。
「ぬん!」
アトラスの手槍が空間を切り裂く。
ガラガラガラーーッと床を切り裂きながら、バァンッ! と今度はラピスのシールドが切り裂かれ衝撃波がひたいを割った。
「ヌォッ……。ック、ククククッ。久々にたぎるわっ!! 行くぞッ」
上段から叩き潰すように、軍神アトラスへ長剣を振るう。
「ムンッ!」
アトラスは手槍を脇に抱えて、からだをひねり長剣を弾き飛ばした。そのままズアーッと前足を滑らせて、間合いを詰めると、ガラ空きになった胴へ手槍を突き出した。
ガチンッー
ラピスは槍先を跳ね上げ足先を払いに行く。
ガスッ! ガン! 火花と交錯する剣と槍の攻防ーーー。
手槍のコジリを地面に突き刺し、ラピスの長剣を受けると左手の亀で殴りつけた。
「ヌォ!」
ラピスのひたいから黒い血が飛び散る。
「フンッ!」
ズザーー! っとラピスが飛び退いた。
「強敵と認めざるを得まい。ならばッ!」
「$€£*#<$€*£~_$><~^$€......!」
魔法詠唱のようだ。ラピスは左手をかざしシールドを二重、三重に貼ってゆく。
「来るぞ!」コウが叫んだ。
ボコボコボコッ!
あたり一面の石材が宙に浮き、高速で回転し始めた。
ババババババーッ
軍神アトラスへあらゆる大きさの石塊が叩きつけられる!
「フッ!」短い気合いと軍神アトラスの【滅殺防御】が発動する。
ガン! ガガン!! 轟音が轟き、軍神アトラスは高速で手槍を振り回し襲い来る石弾を叩き落としていった。
時折りピュン! パシッ! と押し寄せる石の塊に、アトラスのマントに穴が穿たれプレートアーマーの肩当てが弾き飛ばされる。
だがーーー、飛来する石弾が収まるとアトラスへ着弾するのは、小石クラスで大振りのものは全て叩き落とされていた。
ガキッ!
奥歯を食いしばる。軍神アトラスの【縮地】の詠唱が始まる。
「コウヤ!」
コウが左手を叩いている。軍神アトラスに変化したコウヤはうなずくと前に集中した。
左手海亀の甲羅が輝きだし、足元の地面がラピスま歪んで波打った。
絨毯を手繰り寄せるように空間が圧縮された。
「閃光突破!」
高速の弾丸となった軍神アトラスは、手槍を剣に持ち替えていた。
ガキッ!
ラピスの長剣を叩き落とすと左手を切り落とした。狙いは左手だった?
「ぶあっ!」
飛び退くラピスと軍神アトラス。
「ぷはぁ〜ッもぉダメ! もぉ限界!」
軍神アトラスの憑依が解けたコウヤが、へたり込んでいた。
ニヤリと笑うラピス。叩き落とされ長剣を拾い上ると肩に担いだ。
「なかなかのものだったがーーー軟弱よの! 案ずるな。すぐ楽になる」
肩で息をするコウヤ。
「も、もういいだろ? コウ?」
「ああーーー十分だ」
コウヤごとシールドを展開し終えたコウはニヤリ笑った。
「ん? 覚悟ができたようだな」
ラピスが肩に担いだ長剣をなぎ払おうとしたその時、足下に転がっている光る塊に気づく。
「発動!【フレイム・コア!】」
ブァンと白い炎が立ち上がった。高熱であたりの景色が歪む。
「ムオォォォーーーーーーッ」
ブスブスとラピスの体を焦がしてゆく。
「シールド! シールド!? シーーー? 何故シールドが展開せぬ!?」
左手に目をやるラピス。そこには切り落とされた断面があるだけだった。
「?!ーーー鼻からこれを?! ーーならばッ!!」
ドッゴーーン! と地面が爆音を上げた。ラピスが灼熱の炎に長剣を叩き付け灼熱の熱風が当たりを薙ぎ倒して行く。
凄まじい衝撃波と風圧で【フレイム・コア】そのものが弾き飛ばされた。
あたりはブスブスと焦げ錆びた鉄の匂いが充満しいる。
ゴリッ、ゴリッっと長剣をぶら下げたラピスが近づいて来る。
「もはや、わ、我が命も、もたぬ。せめて道連れじゃ‥‥‥」
高温で熱せられた石炭のように、真っ赤な炎をチロチロあちこちから吹きながら近づいて来る。放射熱で顔に手をかざさなければ目が焼ける。
コウが手のひらを前に突き出した。
「アイスシールド展開! 熱量反転!!」
辺りの空気が揺らぐ。
吹き上がる熱波がピタリと止んだ。
「さらに冷却ッ、【
真っ青なスクリーンが展開し、ラピスを包み込んだ。
「は? はは?」
パリ‥.ッ、パリパリパリ。
乾いた音を立てて真っ赤に染まっていたラピスは、たちまち黒ずんだ塊となりやがて真っ白い石像に戻る。
パァーーーンッ。
と弾ける音がして粉々に砕け飛んだ。
ポカンとするコウヤ。
「高熱に熱された固体を、急激に冷やすと崩壊する。理科で習わなかった?」
コウはムンとした顔でコウヤに顎を突き出しニヤリと笑った。
その時、敵の侵入を知らせるアラートが、ゴシマカスの
その中から現れたのは巨大な亀の上にそびえる魔王城だった。
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