第4話 犯罪者コウヤ

「いいからここに入っとけッ」


 騎士団に王宮まで連行されると、牢獄の扉をあけバーンと突き飛ばされて放り込まれた。


「まッ、待てよっ、違うってばさッ。事故でしょ!? おれなんにもしてないじゃんか?」

 虚しく声が響く。


 あたりを見回す。薄暗いしカビ臭い。簡易的なベッドとトイレ。こいつも臭い。

 まだマシな方か? とは言え何でこうなった?!


「くそ!」


 左手で扉を叩く。

「勝手に召喚したのはそっちでしょ!? この世界を救う勇者だの言っといて、これは無いでしょうがッ」腹立ち紛れに牢の扉を叩く。


 ガンッ、ガンッ、ガン?


 音、ガンッ、って......今の音、変じゃない?

 ーーーじっと手を見る。


 亀なんだが......。左手が海亀なんだが......。

 正確に言うと左手の肘から先が亀だ。いや今更なんだけど。亀なんだが......?!


『今更だわっ』脳内に声が上がって驚いた。


「うわっ」


『ガンガン叩きよってッ、喧しいわ!』


(左手が喋った!? いや喋ってないけど語りかけてきよった?)


 コウヤが固まっていると、にゅっ! と海亀が顔を出してきた。


 すぼっ! と手と足も生えて来る。

 恐る恐る覗き込むと、吊り目の海亀の眼があった。


『玄武じゃ!』


「......?」


『だから玄武じゃ!!』


「......??」


『恐れ慄けっ、我は玄武じゃ!!』


「......?」


『たわけっ、北の方位神 霊獣玄武じゃ。もっと恐れおののけ。知らんのか? たわけ者。本来なら姿さえ拝めぬ北の守護神ぞ』


(ーーー神様がなぜいる? いや何故、左手?)


 ムフッ、と海亀は笑うと、語りかけてきた。

『驚いたじゃろ? 我も驚いたわ』


 (神様が驚くってーーー天変地異クラスの出来事だったの?)


『太古よりワシは北の方位神じゃった。ここゴシマカスでもの。北を守る我の使命により、魔王オモダルの侵攻を止める為に、ガチャに紛れ込んだわけじゃ』


(それはご苦労さまです)


『ところがじゃ、なんなんじゃ? おまえは? あまりのマイナスステータスに、吸い込んでしもうたではないかッ』


(吸い込まれちゃったの俺? 亀のほうが左手になって、部位になっちゃっているんですけど? お尻にぶら下がってるのが俺?)



『我のステータスはSSS。おまえはマイナスSS。

 強力なプラスとマイナスが同じ場に居れば、くっつくじゃろ? おまえが我のケツにくっついとるんじゃ!』


 なんかすみません。


『よほどついてない前世だったの...... 』

 同情されてるーーー亀に。


「ついてないって程ではなかったと......。って言うかどうしてくれんの?! 俺の左手っ、このままじゃ着替えも、トイレも出来ないでしょうがっ」

 なんだか分からないテンションになったコウヤは左手に食ってかかった。

 玄武様も流石にカチンッと来たのか、前ヒレでペチペチコウヤを叩きながら喚く。


『世界の平和とトイレと並べるなっ』

 

「直近の問題でしょうが、トイレはッ! それとも、あんた俺のオチ◯チンを摘んでくれるのかッ?」


『何で北の守護神がお前のオチ◯チンを摘まねばならんのじゃッ、右手でどうにかやるじゃろ?』


「じゃぁ、着替えはどうすんだよッ、袖が入らねぇじゃねぇかッ!」


『どうして身近な事しか頭に浮かばんッ?! 普通は異世界に来てどうしょうッ? て話題だろうがッ?!』


 ハタと気が付いた。


「どうしよう? 俺異世界に来ちまったんだよな......。しかも左手が海亀になっちまって」


『お前が念ずれば、ワシは元の左手に化てやる。それで不便は無かろう? もしもの時はワシが助けてやる』


「お前がいなけりゃ、俺、マイナスSSだぞ? 多分一般人より弱ぇぞ?! 異世界で戦えって言われても死んじゃうよ」


『ワシがおると言うておろうが?! ランクもプラスマイナスでS+αじゃ。修行すれば、マイナススタートのおかげでSSランクの倍以上で伸びる』


「ん? どーゆーこと??」


『成長度合いのことじゃ』


 海亀は前ヒレで、空間に尻上がりの弓型の曲線を描いた。縦軸がステータスで、横軸が成長時間らしい。グラフの一番上がSSSランクだ。


『スタートは普通ここじゃ』

 曲線の一番下を指す。


『普通は皆ゼロからのスタートじゃ。修行を積むことでだんだんと尻上がりになっていき、最後にSSSにたどり着く』


 曲線を一番下から上までなぞる。今度は曲線の中ほどを指して星印をつけた。


『今はここSじゃ。ところがおまえは、マイナスじゃったからーーー』


 スタート地点の一番下の更に下を指す。


 ここから今一気に星印まで線を伸ばした。そのま一番上まで伸ばしてゆく。弓型の終点よりずいぶん手前に直線の終点が着く。直線の終点と曲線の終点を指し、『尻上がりに上がっていくより、ずいぶん早く到達できるじゃろ?』と説明してくれた。


 SSS到達の時間がだいぶ短いようだ。

『我も力を貸そう。魔王オモダルを倒し、この地に平和と安定をもたらすのじゃ』


「断る!」

『何故じゃ!?』


「転生ってチートスキルで、俺TUEEE! って無双してお金持ちになってモテモテになってーーーが定番でしょ。なんで今更辛い修行? そもそも俺関係なく無い?」


『転生してないじゃろ?』


「う、生まれ変わってはないけどさ」


『みんな生まれ変わって、小さなうちからやり直すじゃろ? おまえは転移してここにきたのじゃろ?! なら詰め込み修行になるじゃろ?』


「いや、だ・か・ら俺関係なく無い?」


『関係ないも何も、神殿と山と男爵吹き飛ばしたじゃろ?』


「それはあんたがやったんですぅ」


『我はおまえの左手になっておった。勝手にパニックになりおって、我の力を行使したのはおまえじゃろ?』

 亀に言い負かされるコウヤ。


『犯罪者じゃの?! 間違いなく死刑じゃろ。せっかく転移してもう一度生を受けたのに、こんどは犯罪者として死刑じゃ。修行してこの地を守り英雄となって生きるか、犯罪者として死刑になるか? 我はどっちでも良いがの? おまえが選べ』


「ええーーーーっ!? 嫌ですぅ! いやいやッもっと楽したいのよぅ!」

 コウヤは絶叫した。


「いきなり俺モテでお金持ちになって、簡単だと助かりますぅ!」


 玄武(海亀)は呆れた様に口をパクパクさせていたが、諦めた様に優しい声になった。

『本音じゃな。じゃが良い事もある。我が力を貸すと言うておろうが』と優しく前ヒレでペシペシしてあげている。


 そんな2人? に近づく影があった......


次回 忍び寄る影にダイブ!


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