第3話 命の危機なんだがぁぁぁぁぁぁ!

 大丈夫なのか?! 王国ゴシマカス。物語を召喚の儀式に戻す。


「「「なんなんだーーッ?!」」」


 SSSランクの海亀と、マイナスSSの勇者コウヤがプラスとマイナスで引かれ合い、『ニュー勇者コウヤ ランクS+α』が誕生したのだ。


「き、貴様ッ、戻れ、貴様のようなふざけた勇者はいらんっ。ま、魔王オモダルを倒す勇者を召喚せねばならんのだっ」

 男爵ソーダが絶叫している。コウヤを睨み付ける目は、正気を保ってはいなかった。


「最期のチャンスがS+αでは、ブロウサ伯爵が国王ウスケに殺されるぅ。貴様ーーッ帰れッ、もう一回召喚の儀式をするのだーーーーーーーッ!」

 手にはハンドソードが引き抜かれていた。


「神聖なる神殿で、剣を振り回すとは何事です?! 男爵ソーダよ。落ち着きなさい」

 司祭が止めに入ろうとするが、もはや声は届いていない。


 ソーダは血眼で竜神モウケマッカを探すがもはやそこにはいなかった。

「帰る」

 一言告げて帰ったようだ。


 男爵ソーダはその場に泣き崩れた。


「お、おお......ン、グッ。終わったぁぁぁぁぁぁーッ!! せっかくブロウサ伯爵を踏み台にして、この国の中枢まで潜り込んでやろうと思ったのにぃ。終わりだぁぁぁぁーッ」


「泣きながら腹黒いこと言うなよーーー」

 コウヤが男爵ソーダの肩に触れた。

「なんか悪かったよ。俺なんか出てきちゃって」


 男爵ソーダは滂沱の涙を流しながらうずくまっていた。


「ところで聞きたいんだが、ここはどこだ?」


 コウヤも混乱していた。トラックに跳ねられて、白い世界に送り込まれたと思ったら半狂乱の男が泣き崩れている。


 世界史の教科書から飛び出してきたような騎士団はいるわ、映画ハ○ーポッ○ターから抜け出てきたような魔導師はいるわーー。


 困った顔でまだ冷静そうな司祭に尋ねた。


「なんか悪かったようだが、ここはどこなんだ?」


 司祭は軽く膝を折り、目を伏せた。

「勇者コウヤよ。ここは王国ゴシマカスの神殿です。竜神モウケマッカの導きにより、あなたはこの地に召喚されて来ました」

 司祭は伏目がちに続ける。


「このゴシマカスは、今魔王オモダル率いる魔王軍の侵攻を受けています」

 そしてーーーと緊張の為か、唾を飲み込み続けた。

「魔王オモダルの魔力は絶大で、対抗し得るのは勇者と魔導師のみ。そこで召喚の儀式を行い勇者コウヤ。あなたと魔導師コウが導かれたのです」


「なるほど、分からんーーーってそんなわけないだろーが?! なんか、あれ? ドッキリ的な撮影なのか? それともサバゲーか何かのお約束? 『ラノベ異世界設定で戦っちゃう?』みたいなーーーの割には、取り乱しかたがハンパ無いな」


「ヒック、ヒック‥‥‥」

 神殿の床に突っ伏したまましゃくりあげている男爵ソーダに目を向ける。コイツも大概にして欲しい所だが、一番偉そうだし何か分かるかも知れない。

 嗚咽が収まって来たらしい男爵ソーダに声をかける。


「あんたーーー大丈夫か?」


「あんた? あんただと......?! 卑しい平民如きが貴族に向かって、何を口走るのだ......?」


 男爵ソーダの目は血走ったままだ。

「そもそもおまえが悪いのだ......。おまえなんかが来たばっかりにっ、おまえなんかが来たばっかりにぃぃーッ」

 ハンドソードをふりかざしコウヤに切り掛かった。


 ビュウッ、という風切り音が現実とわからせる。尖った硬い金属がすぐ近くを掠めて通り過ぎて行った。


「うわッ! やめろッ、あぶっ、うわぁ」


 ビュウッ。横なぎに払われた剣が、コウヤの突き出した掌をかすめた。剃刀で削がれた痛みが走り、血が溢れてくる。


つうッ!」

 本気でヤバイ。

「やめろってッ、バカ! やめろって」


「どうせこの責任をなすり付けられるっ。ブロウサも終わりっ、俺も終わりだ。この国も終わりだ......終わりだぁぁぁぁぁぁーッ!」


 血走った目で剣をふりかざし、コウヤに男爵ソーダが突っ込んで来た。

 さすがに呆然としていた騎士団が、動こうとした瞬間。


 亀の甲羅が光った。

 海亀は男爵ソーダに照準を当てて、口を開いていた。光の粒が亀の口に吸い込まれてゆく。

 凄まじい熱線に、口の周りの空気から水分が蒸発し雲のような輪っかが発生する。

 目も眩むような光りが、神殿を貫いた。


 シュッ......バッシューーーーーンッ


 耳をつん裂く轟音とともに亀の口から凄まじい閃光が発射され、男爵ソーダは跡形もなく消えた。

 焦げた大理石にその人のいた形だけ残して。

 ソーダの後ろにあった神殿の全ても、射線上にあったはずの山すらも削り取られ形を変えていた。


(((あ? あれ……?)))


 その場にいた全員が、あんぐり口を開けて佇んでいた。


次回、犯罪者 コウヤ!


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