第2話 終わりの始まり

「第二師団ッ、拠点を落とされましたっ! これより第四防衛ラインまで撤退に入ります」

 王宮内に緊迫した声が響く。

 魔王軍に連敗に次ぐ連敗。王国『ゴシマカス』は風前の灯だ。


 残された逆転の目は、魔王と互角に戦える勇者、魔導師の召喚。貧乏ゆすりの音が王座から伝わってくる。


「もう召喚できるのであろうが!? であろうが?! 勇者と魔導師の補充くらいに何を手間取っておる! 金は出したっ。であろうが?! あろうが?」

 また国王ウスケの癇癪玉が破裂している。


「偉大なる大王ーーーおたいらに。あと暫しの刻を頂戴ちょうだいできますならば。儀式はまさに今、進行中でござりまする」


 癇癪かんしゃく持ちの国王ウスケの顔色を伺いながら、救国・災害担当大臣ブロウサ伯爵はのたまう。


「竜神モウケマッカに召喚の儀をお願いするだけでも苦労しておりましたが、偉大なる大王様のお名前ひとつで尊大な竜神モウケマッカの態度は一変!

 特別龍玉を献上致しましたぞ」

 自信ありげな微笑みをたたえて、大臣ブロウサ伯爵は続けた。


 ブロウサ伯爵も今年六十四才。

 国政の表舞台に戻る最期のチャンスに必死だ。

「これも偉大なる大王様の御威光によるもの。このブロウサ、感服至極にございます」


(このたわけ者が!)

 態度とは裏腹に心の内は焦りで一杯だった。


ゆえに今しばしの時を賜りたく存じます」


(急かして竜神モウケマッカがヘソを曲げ

たらどうなるーーー?!)


 寄附金をケチる貴族どもから捻り出させ『救国財団』を組織し、防衛費の四割八兆インを吐き出させた。失敗は失脚どころか家名没収。

 この癇癪持ちの事だ。死刑を意味する。


 竜神モウケマッカを呼び出すために予算の半分近く費やし、国を超えた外交努力で召喚魔導師をかき集めた。


 思い出すだけで涙が出そうになる激務を、召喚のこの日まで半年も繰り返してきたのだ。

 それを横から出てきてきたこのバカが、ぶち壊そうとしている。


 ブロウサ伯爵は大袈裟に手を広げてのたまう。

「召喚の儀式はあと数刻。召喚に立ち会うのは各国一流の召喚魔導師たちーーー 見事っ、勇者と魔導師を召喚しお味方を勝利に導きましょう。

 そして後の世の人は偉大なる大王様の名を、永劫にたたえ続ける事に相違ございません」


「ーーーで、あるか? ならば良い。我の名を残させよ。愚かな民どもに永遠に刻ませるのだぞ」


 見通しが立っているのを聞いて安心したのか、国王ウスケの貧乏揺すりが止まった。


(さてここは治めたぞ。頼むっ、救国の勇者、魔導師よ! きてくれーーー)


 場面は変わる。

 真っ青な空とその空を映して真っ青に染まる湖。

 その湖の真ん中に、まるで空中に浮かぶように神殿は佇んでいた。

 道の一番奥に目を移すと、神託と召喚を行う神殿があった。

 中に入ると召喚の間だ。四角く切り出された石柱が、地面から生え出たように石造りの天井を支えている。石柱の側面には歴代の勇者たちの彫刻が施され、その視線の先には女神アテーナイの像が鎮座していた。


 龍神モウケマッカの変幻した女官が瞑想し、空中に浮かんでいる。

 女官が輝き出した。


「これより十連ガチャを始める‥‥‥。言わずと知れておろうがガチャは運じゃ。

 必ず勇者、魔導師が来るわけではないぞ。そなたらの国の運が試されよう」


「「始まる!?」」


 ブロウサ伯爵の代理として立ち会いをしている男爵ソーダは息を飲む。

「来いっ、勇者、魔道士!」


 神殿の中空から召喚龍玉が出現した。縦に十個の龍玉がセットされる。


 まず一つ目が破裂する。


『SSアイテムミスリルソード!!』


「おおっ、いきなりレアアイテム!?」

 騎士団から期待と驚きの声が上がる。


 二つ目。


『ミスリルソードの鞘』


「「「ん?」」」


 三つ目。


『魔導師専用、世界樹ユドクラシス製 魔法の杖』


「「「おお!」」」

 召喚魔導師たちが釘付けだ。


 四つ目。


『魔導師専用フード』


「「「ん?」」」


 微妙だ。


 微妙とレアアイテムを繰り返し、ついに龍玉九つ目となった。神殿を照らす照明が七色に輝き、あたりを目を覆うばかりの光りで照らし出した。


『SSランク! 魔導師コウ出現』


「「「魔導師キターーーッ」」」

 男爵ソーダと行政官は小躍りしている。神殿女官たちが駆け寄って、祈りを捧げながら控えの間に案内して行った。


 そして十個目......。


 神殿は先程の光とは比べようも無いほどの眩い光に包まれた。ジャァーンッ、と大音量の銅鑼の音が響き渡る。

 ハッと男爵ソーダと行政官は息を飲んだ。


「「「くるのか? 勇者くるのか? 来いっ勇者」」」


『SSSランク......海亀、出現っ!』


「「「......?」」


(……あれ? 外した?)

 神殿は小さく揺れた。


(え? ええーーー?? 四兆インも貢いだのだのにっ? 勇者来なくてーーー亀??)


「意味わかんないんですけどお!!」

 ソーダ男爵がブチ切れた。


「竜神モウケマッカよっ、これはいかがしたことか!? 我が国王ウスケな顔に泥を塗るおつもか? SSSランクとは言わぬ。我らには勇者が必要なのだ」

 ガバッ! っと倒れるように土下座した。頭を床に擦り付け叫ぶ。


「竜神モウケマッカよっ、あと一度チャンスを! 我らに勇者を与えたまえッーーー」


 竜神モウケマッカの変幻した女官は、嫌な顔をしながら頬をバリバリ掻いている。


「だから最初申した。召喚ガチャは必ず勇者、魔導師が来るわけではない」


「そこを、そこをなんとかぁぁぁーッ」


 半狂乱になって祈るソーダ男爵の熱意に押されたのか、しぶしぶ竜神モウケマッカは召喚おまけ龍玉を取り出した。


「おまけじゃ。これで来ねば諦めよ」

 龍玉におまけって書いてある。


「ほれ!」


 中空に浮かぶおまけ龍玉。

ゆっくり回転を始めると閃光を放ち、神々しい光を放ってオマケ龍玉は炸裂した。


『召喚!ーーー勇者コウヤ!!』


「「「キタ?! 勇者キターーーーーー!」」」

 歓喜に揺れる神殿。


『ランク、マイナスSS!』


「「「なんじゃそりぁーーーッ!」」」


《スキル、英検4級。普通自動車免許》


「「「意味わかんねーーーッ! いるか? いるのか?? そのスキル? 魔王倒すのに?! 」」」


 その時、グニャリッと空間が歪んだ。

 なぜか海亀が、必死に逃げようとしている。

 強烈な磁場の歪みに、海亀と勇者コウヤが引き込まれて行った。


『誕生! ニュー勇者コウヤ。ランクーーーS+α!』


(((び、微妙だ......)))


 勇者コウヤの左手には、海亀が装着されていた。SSSランクの海亀と、マイナスSSの勇者コウヤがプラスとマイナスで引かれ合い


『ニュー勇者コウヤ ランクS+α』が誕生したのだ。


「「だったらなんなんだーーー?!」」


 大丈夫か? 王国ゴシマカス!


次回 命の危機なんだがぁぁぁぁぁぁぁ!

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