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 むかしむかし——具体的にどのくらいむかしかと言えば、ざっと千年くらいむかし、おばあさんとおばあさんがいました。貧乏です。


 おばあさんは山にキノコ刈りへ。


 もう一人のおばあさんは川へ洗濯へ。


 おばあさんが川で洗濯物をゴシゴシしていると、川上からどんぶらこどんぶらこ、あるいは、ザサー、っと黄金に光り輝く竹が流れてきました。


 あ、ありは……、と。おばあさんは驚きのあまり、ついでに歳なのでろれつが回りません。


 しかしそんなおばあさんでも、肉体には自身がありました。自分はまだまだ現役、アグレッシブに行動できると、おばあさんは自負しているのです。


 とりゃあー、と、川に飛び込むと、おばあさんは光り輝く竹を掴み、地上へ投げようとしました。が、やはり肉体に自信があろうとも歳には逆らえない——それがこの世界のことわり。


 この世界どころか、どの世界を見渡しても、老いに逆らえる老人など存在しません。


 そもそも逆らえるのなら、老人ではありませんので、残念ながらおばあさんは年齢にも逆らえませんし、川の流れにも逆らえませんでした。


 あ、ありまー!? あーれーえっ!


 そのように大きな声を出して、竹にしがみつき、生きることに必死のおばあさん。


 だれか助けてくれー、と。大声をあげても誰も助けてはくれません。光り輝く竹に目がくらみ、みずからの意志で飛び込み流されているのですから、自業自得もいいところです。笑える。


 いくら声をあげようとも、誰も助けてはくれません。人里離れた山で暮らしているので、おばあさん自身も、助けは期待できないと覚悟を決め、流されながら自分の人生を振り返ります。


 思えば、ワシが愚かじゃった……と、確かにその通りとしか言いようのない振り返りをしながら、しばらく流されていると、


 おーい! ばーさん大丈夫かー!?


 と。男の声が聞こえました。


 おばあさんは、激流に首をやっちまいそうで不安な気持ちはありましたが、なんとか頑張って声のした方——地上の方に目をやります。


 するとそこには、マサカリを持った快男児かいだんじがおばあさんに声を掛けながら地上を駆け、竹とおばあさんに並走しています。


 一体いつから快男児がいたのかわかりませんが、おばあさんは今できる最善のジェスチャーを快男児に送りました。とはいえ、竹にしがみつき流されている現状では、できることなど限られています。とりあえず口に入った水を水鉄砲のようにピューっと吹き出すことしかできませんでした。


 まってろばーさん! 今助ける!


 快男児は言うと、持っていたマサカリを振り上げ、おばあさんに向けて差し出しました。


 これに捕まれ、ばーさん!


 じゃが、た、竹が……っ!


 なんと強欲。おばあさんはまだ竹を諦めてはいなかったのです。ちなみに伸ばそうとすれば、マサカリを普通に掴めましたが、おばあさんはあまりにも強欲だったのです。


 おばあさんが金に目が眩んで竹を離さないことなど知らない快男児は、そのおばあさんの様子に、激流で手が伸ばせないのか——と、おばあさんにとって都合の良い勘違いをしました。


 ちくしょう——と、歯噛みした快男児はマサカリを戻し、ぐわああああ、と。凄まじい声で叫び声を上げた。否。


 咆哮ほうこうを上げた。


 すると快男児の反対側の岸から、黒い影が。


 黒い影——熊の影が。


 ひいい! 熊だべえ!?


 突然の熊登場に、おばあさんは慌てて目を閉じて死んだふりをしましたが、体力的にすでに虫の息に等しいので、ふりではなくマジで迫真の死体のようになりました。


 だけどずっと目を閉じているのも怖いので、おばあさんは恐る恐る目を開く——と。熊はおばあさんの顔面を覗き込むように見ていた。


 んぎゃあー! 熊だ熊が出たあ!?


 まだ生きてるなババア。俺に捕まってな!


 …………え? 熊が喋った……?


 熊が喋った事実に、今度こそショック死しそうになりましたが、おばあさんはしぶといので生き延びました。


 そのまま熊にかかえられ、ようやく陸地へ運ばれたおばあさん。竹は流されてしまいました。


 でもおばあさんは、自分を助けてくれた快男児、そして熊にお礼を言いました。


 ありがとう、助かった。


 なあに、へへっ。ばーさんが無事で良かった。


 熊さんもありがとう。


 勘違いするな。俺はババアを拾っただけさ。


 もう無茶すんじゃねえぜ、ばーさん——と。快男児はそう言って豪快に笑い、熊と一緒に山へ帰っていきました。


 無事、命が助かったおばあさんは、あの快男児に感謝しながら、竹が流された川下に目をやります。


 あれがあれば、ワシらは貧乏生活からおさらばできると思ったんじゃが……。


 そう思いながら、川下を見つめるおばあさん。


 だが、おばあさんはまだ知らない。


 あの竹が——あの黄金に光り輝く竹が、この世界の命運を握るものだとは。


 このときのおばあさんは、思いもしなかったのです。まさかあの竹が原因で、のちにあんなことになるなんて。


 まさかあの光り輝く竹が——。


 


 〜第一部完〜。


「突っ込みどころが多すぎて、何から突っ込めばいいのかわかりません!」


「心震えるファンタジーの予感がするでしょう」


「腹筋刺激するコメディラインの間違いじゃないです?!」


「あら。わたしの脚本にケチをつけるというの? 命知らずね」


「ひいいっ、僕、殺されるんですか!?」


「さあ? どうかしらね。あなた次第よ」


「……………………」


 じゃあ、怖いので黙っておきましょうね。

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おとこの娘だってラブコメがしたいっ! ふりすくん @tanamithi

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