またやーたいリウキウ
「ゆいたん! こっちで合ってるでち?」
「うん、大丈夫だと思うよ」
水族館を後にし、ジェラートですっかり体を冷やした私たちは、次の集合場所であるシーサー道場という場所に向かっていた。
いつ見ても分厚いしおりを片手に、腕時計の示すコンパスを元に道を進んでいく。
暑がっていたジョフさんはすっかり元気になったようで、私の目の前でぴょんぴょんと飛び跳ねるように歩きながら、度々振り向いて道を聞いてくる。
「あとはここを道なりだね」
「みちな……分かったでち!」
分かっていないのもかわいい。
しばらく歩くと、緑に囲まれた一つの建物が見えてきた。石畳を踏み、建物を見渡す。神社のような風貌をしたそれは、沖縄の古民家によく見られる屋根瓦に対になったシーサーの像。そして出入り口の上部に大きく掲げられた【シーサー道場】の文字。
このパッと見神社のような建物が集合場所のシーサー道場らしい。
どうやら私たちが一番だったようで周りには誰もいない。どこで待っていればいいか思案したが、ジョフさんが一足先に縁側に座ってぼーっとしていたので、私も隣にお邪魔することにした。
腕時計の指す時刻は午前十一時四十分ごろ。やはり少し早かった。
数分経って、道場から森へ向かう道の向こうに人影が見えた。ジョフさんもそれに気づいたらしく会話を中断して二人して影を凝視する。縞模様の服が目に入って、
「あっ、アードウルフたんでち!」
……先に言われた。ということは平城山さんたちかな。
そう思った直後に背後から足音が聞こえてきた。手を振るジョフさんを他所に、後ろを向くとそこにはシーサーの二人が少し驚いた顔で立っていた。
ライトさんが、
「おー、みんな早いね〜」
と独り言を呟いた後に続けてレフティさんが
「さあ中に入って」
と一言だけ残し手招きをした後、道場の奥へと消えていった。丁度平城山さんたちもそれを聞いていたらしく、数秒顔を見合わせて一緒に道場にお邪魔することになった。
道場の中で平城山さんと談笑を交わしていると、出入り口の方から声が聞こえていた。ぼちぼちみんな集まり始めているみたい。
「やっほ〜、みんな〜」
独特な気の抜け方をした声が響いた。恐らくフルルさんだ。ということは……。
「あっ! ミライさん達でち!」
アードウルフさんと会話をしていたらしいジョフさんがそう声をあげた。
道場の中にぞろぞろと入ってきたのはミライさんと継月さんフルルさん。それとロードランナーさんだ。……あれ。
と異変を感じた私だったが、継月さんの少々険しい顔つきを見て深く追求するのはやめておいた。
「あっ、どうも」
継月さん達にそう声をかける平城山さん。
「四人とももう着いてたんだな」
「といっても、私たちもそう変わらないくらいですよ? 確か……五分前くらいでしょうか?」
アードウルフさんがそう答える。しっかり者の癖が出ているのかバッチリな時間計算。すごい。
「そのくらいでしたね」
「みんなはえーな〜」
ロードランナーさんは腕を組んでそう感心した。
「集合時間に遅れるとシーサーさん達やこの後行くゴコクエリアで待ってる方々のご迷惑になりますから」
早く来すぎた私が言うのもなんだけど。
しばらくして、みんな道場に集まった。なんかびしょ濡れな人もいたけどミライさんがすぐに対応していたので心配することはないだろう。……なにがあったのかは気になるけどね。
* * *
『いっただっきまーす!』
昼食。リウキウらしい沖縄料理の数々。大人数で食卓を囲むことはとても久しぶりで、どこか懐かしい感じがした。
ジョフさんは横でご飯片手におかずを少し危なげに口に運んでいる。もちろんスプーンで。かわいい。露骨に野菜を避けているのもかわいい。本当は栄養バランス的にもっと平均に手をつけて欲しいところだけれど、フレンズなので多分大丈夫だろう。飼育されてる側だし。
そんなジョフさんを横目に野菜好きな私はゆし豆腐やゴーヤチャンプルーに手をつける。ゴーヤチャンプルーは本州でも食べたことがあるけれど、それ以外の料理は見たことも聞いたこともないものばかり。食べず嫌いを無意識にしがちな私にとって初めて食べる料理こそ怖いものはないが、みんな食べているということはきっと美味しいのだろう。地元の昆虫食よりは絶対良い。うん。
ジョフさんのサポート(お米を頰につけたり取りこぼすことがよくあった。けれど世話焼きな私からすればかわいいで済むのでよし)をしながら、食事を進め、みんながほぼ同時に食べ終わった。
お皿の片付けを軽く手伝いながら(料理担当のフレンズ達に少々怒られかけた)十分ほど食休み。ゴロゴロするジョフさんを横目に荷物の確認と予定の確認をした。いつみてもしおりが分厚い。スキャナーでもあれば自炊するんだけどな。
* * *
「それじゃあみんな。またね!」
「また会いましょう!」
港にてライトさんとレフティさんが手を振ってくれた。
「ばいばいでち!」
各々言葉を紡いでいく中、私は小さく手を振り返してクルーザーに乗り込んだ。
水上を走り出したクルーザー。その窓から顔を出したサーバルさんが突然声をあげた。
「あっ! ねぇみんな、外!」
その声にみんな一斉に窓の外へ視線を向ける。……そこには、クルーザーと並走して泳ぐシナウスイロイルカさん、イッカクさん、シロナガスクジラさんがいた。みんな料理を作ってくれたフレンズ達で、私は後片付けのときに個人的に紹介をしてもらっていた。
──大きく手を振るサーバルさんが少し羨ましく感じた。
……いつかまたパークに来た時に逢えればいいな。
そんなことを思いながら離れていく三人に小さく手を振った。
* * *
時間はそれから約一時間後。ゴコクエリアに到着した私たちはバスに乗って地上を走っていた。
ジョフさんはクルーザーに乗っている最中に口数が少なくなったと思ったら寝てしまっていたので、起こさないように背負ってバスに移動させたはいいものの寝つきが良すぎるのか全く起きる気配がない。
揺れるバスの中、かわいい寝顔で寄りかかってくるジョフさんをどう起こそうかと、私は頭を抱えるのだった。
カクヨムユーザージャパリパーク旅行記・風庭雪衣視点 風庭 雪衣 @wind-garden
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