(2)反響

 放送後の影響はどえらいものだった。まずテレビ局と同じ系列の新聞社がスクープとして一面大見出しで“カッパ現る!”と報じ、ほとんど東スポの様な紙面となった。その上で翌日、系列テレビ局による映像公開番組を放送すると記載した。勿論、テレビ局でもCMでその旨告知した。

 スポンサーは自社イメージの問題から、プロデューサーの読みに反し、なかなか決まらなかったが先のカッパアニメCMを放送している某酒造メーカーとかつK藤正臣、Y瀬まみをカッパに仕立てたCMを流していた某殺虫剤製造メーカーが手を挙げた。

 尚、問題の“ぼかし”であるが、学術的見地からあえて無修正とする英断をした。但しR-18指定と告知し、放送も23時からとすることで極力子どもの目に触れさせないよう配慮した。尚、子どもたちの観る時間帯はニュース枠でごく短く何の問題も無い映像を使用した。


 “この配慮が還って大人たちの好奇心を刺激する”というテレビ局の読みは見事に当たった。一応、真面目な報道番組であるからして、様々な有識者が集められたが、何故かその中にピンクのカッパ姿のY瀬まみがカッパ代表として鎮座していたのは、例のプロデューサーの発案だろう。

番組では無修正ノーカットの映像が流され、学者達は大真面目にカッパの肢体や交尾行動について分析してみせたが、すればするほどアダルト映像の鑑賞会のようになってしまった。


 翌日この話題で世間はもちきりだった。一応良識ある大人として、誰もが慎重に感想を述べあうのだが、結局は“あの右端にいたメスが可愛かった”とか“奥にいたオスだったら抱かれてもいい”といった会話に変わるのだった。

 又、他のテレビ局や報道各社は悔しがり、番組内等で紹介された現地に新情報を求め移動した。上空には各社のヘリやドローンが飛び交った。

YouTubeでは再生回数を増やすべく

「私、子どもの頃、カッパに育てられました。」

「私、カッパです。」

等と言い出すYouTuberも現れ、世間のひんしゅくをかった。

 一方、お笑い界では遠い昭和の漫才で、鳳啓助に

「このエロガッパ!」

とつっこんだ京唄子のフレーズが再び脚光を浴び流行語となった。

更に、この場所の自治体はこの集落を“カッパの里”として観光地化する事を目論んだ。だが如何せん、交尾ばっかりしているので家族向けとはいかず、結局大人向け秘宝館を巨大テーマパークにしたような仕上がりになってしまい、さながら大自然のおける覗き部屋といった感じになってしまった。

 それでもお客は詰めかけた。海外でも大ニュースになったおかげで日本人のみならず外国人客も様々な国からやってきたのだ。

早速、大手広告代理店も動き出し

“エロガッパJAPAN”

という一大キャンペーンを企画した。マスコットキャラクターの“エロちゃん人形”を作成、アイドルグループにはキャンペーンソング「恋のフォーチュンエロガッパ」を歌わせ、海外からは奇術師のデヴィッド・カッパーフィールドを来日させて興行を行い、大いに盛り上げた結果、関係各社、莫大な収益をあげたのである。

そんな中、日本政府は“カッパ保護の観点から「覗くだけ、撮影とお触り禁止」という看板を各国語で書いて設置すべき”という役人による進言を国会にて全会一致で決議した事を発表し、国民は頭を抱えた。

 

 人間たちの狂騒を遠くから眺めながらカッパたちはささやきあっていた。

一人のオスが

「やれやれ、どうして“人”という“俗物”は我々“動物”のように自然に振舞えないんだろう?」

とぼやいた。それに対しカッパのメスの一人が答える。

「昔、来てあたしたちをスケッチした漫画家が言っていたじゃない。人には見栄や体裁があるから好き勝手出来ないって。」

「いずれにしても“動物”を金の為に利用するような“俗物”と共生する気はないね。ここも住みにくくなってきたから場所を変えるとしよう。」

と別のオスが提案した。

「でも、あの人たちをまいて上手く引越しできるかしら?」

先程のメスの言葉に他のメスも同調する。

「なんといっても“人”には文明の利器というものがあるのでしょう?心配だわ。」

オスが笑いながら返答した。

「なーに。夜に紛れて水中を移動すればいいのさ。自然界で人間をまくのなんて“屁のカッパ”さ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カッパの出てきた日 光河克実 @ohk0165

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ