カッパの出てきた日
大河かつみ
(1)衝撃映像
日本の東北のとある場所でカッパの集落が発見された。それはあまりにも山の奥深くだったので、今まで発見される事がなかったのだ。それが、たまたまポツンと一軒ある家を探しているテレビスタッフが上空からの写真で見つけてしまったのだ。
早速、テレビクルーが現地に向かう。山林の道なき道を進み、一日がかりで辿り着くと、そこには如何にも清流という様な美しい川と、そこでたわむれるカッパたちがいた。
撮影クルーはしばらく呆然と眺めていたが、我に返りカッパに気付かれないよう急いでカメラを回した。
この映像は早速テレビ局に送られ、緊急特別番組用として企画会議にかけられた。関係者スタッフは映像を観て驚いた。それはカッパの姿が、あの某酒造メーカーによるアニメーションで描いたコマーシャルそっくりだったからだ。
スタッフ達が次々に感想を言い合う。
「緑色じゃないんだ。・・・」
「ほとんど日本人と同じ肌の色ですね。髪の毛も黒い。」
「くちばしじゃないから本当に人っぽいわ。しかもアヒル口っぽくてなんか可愛い。」
つまりは“全裸の人間が甲羅をしょっている”だけ、特にメスは美人揃いで実に色っぽいのである。それに対しオスはぶら下がっているモノが滑稽極まりないのだが。兎に角、テレビ局としては当然、映像を流したいのだが、剥き出しになっている性器にモザイクをかけるべきなのか会議で議論となった。
「動物なので隠す必要も無いんじゃないか?」
「しかし胡坐かいているあのメスなんか完全に見えちゃっているぞ。」
映像を流しながら意見交換していると更に困った事になった。カッパたちが交尾を始めたのだ。ライオンや象なら放送もできようが、ほとんど人間の姿をしているカッパの行為はほとんどアダルトビデオの様相を呈した。スタッフの女性社員達は顔を赤らめ、若い男性社員のほとんどが腰を引いてかがむようにする体勢をとった。
「人間だと思うからいけないんですよ。」
「そうは言ってもだなぁ。こうも人間そっくりだと・・・。しかも正常位だぞ。」
「喘ぎ声がまた何とも色っぽい。」
「おいおい、カッパで興奮しているのか?この変態!」
「し、失礼な。君こそポケットに手をつっこんで何してるんだか。」
「そういえば田中がいないな。」
「さっきトイレに駆けていきました。」
こんな調子だからラチが明かない。仕方なく倫理委員会の重鎮や動物学者、言語学者らを急遽招いて意見交換をすることとなった。
「けしからん!実にけしからん!このような映像を流す訳にはいかんぞ。」
倫理委員会の重鎮が怒りに震えながら吠えた。
なんとしてもこの大スクープをどの局よりも早く放映したいプロデューサーは
「ではメスにパンティを履かせてですね。」
と言いかけると
「パンティってあんた、カッパと話が通じるの?さっきからカッパ同士の会話を聞いているけど人間の言語とはいえないぞ。」
と言語学者が苦笑して制した。
「そうだ、君、撮影クルーはカッパとコミュニケーションはとったのかね?」
と局の役員が尋ねた。
「いえ、なんとかしろとは言っているんですけどね、如何せん“お楽しみのところ邪魔するのも悪いだろう”という事で遠慮してましてね。」
「なんだ。やっぱり人間扱いして気を使っているのか。」
「えぇ、しかもカッパときたら、他に楽しみがないのか、“交尾してるか”、“魚を食ってるか”、“排泄してるか”“眠ってるか”なんで、そんなこんなで挨拶するきっかけさえ、掴めないでいるらしいんです。」
とディレクターが汗をぬぐいながら弁明した。
「魚か。きゅうりじゃないんだ。」
動物学者が、がっかりしたように呟いた。
「本能の赴くままとなると、やっぱり動物でいいんじゃないか?であれば、このまま放送でいいだろ。」
とぶっきらぼうに若い編集マンは意見した。
「交尾場面も?」
役員が怪訝そうに聞く。
「なんなら上半身だけアップにすれば結合部分は移りませんよ。只、オスの動きやメスの恍惚の表情など充分エロいですけど。」
編集マンがニヤニヤしながら答えた。
「メスの喘ぎ声はボイスチェンジャーでK田朋子みたいな金切り声にしたらどうでしょう?大分、いやらしさが無くなると思いますが。」
とプロデューサーが意見した。
「君はさっきのパンティといい、考え方がどうかしている!」
倫理委員会の重鎮が嘆いた。
「兎に角、へんな演出しないで事実をきちんと伝える。それが大事なんではないですか?」
報道部の人間が正論を言った。
「私も無修正の方がいいと思います。“ぼかし”なんて入れたら却って、いやらしい印象を与えてしまいます。」
と動物学者が異論を唱える。
「P.T.Aとかうるさいんじゃないかなぁ。」
「お笑い芸人にまかせてバラエティ路線にしましょうよ。明るいエロ。これならいいでしょう。」
「あのねぇ、もっと学術的知見で論じてもらいたんだけど。」
様々な意見が飛び交った。すると
「ちょっと待て。この番組、本当にスポンサーがつくのか?」
局の役員が今更というような疑問を呈した。
「つくでしょう。だって放送したらおそらく凄い視聴率ですよ!」
プロデューサーが満面の笑顔で答えた。
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