ブラックホール


 僕はさらに山奥に逃げ込んだ。

 皆、僕を倒す為に、僕を利用する為に必死になって探して来る。


 僕を、僕の魔法を手に入れれば、この世を、この世界をどうにでも出来るから……。


 僕は生きていてはいけない……でも自ら命を絶つ事は出来ない。

 そして僕を倒せる者もいない。


 だからこの命が尽きるまで、僕は一人で生きていく。

 そっとしておいて欲しい、それが僕の願い……ただ一つの願い……だったのだが。


「見つけた……遂に見つけたわ」

 どこまで行ってもこうなってしまう。

 そして発見されれば発見した相手を帰すわけにはいかない。


 僕の居場所を知られたら、もっと多くの者が僕の元にやってくる。

 僕の魔法を利用する為に、もっと多くの兵隊が送られてくる。


 もっと多くの人を手にかけなければならない。


「見なかった事にして帰った方がいい」


「……お父様の敵……私は貴方をを倒す」


「お父様?」


「マスター、マクダーウエルを覚えているわね?」


「……なんか美味しそうな名前……って……あいつの娘か!」


「覚えていたわね! お父様は貴方を倒すと言って出ていった……そして帰っては来なかった」

 全く面影の無い金髪の美少女戦士は重そうな甲冑姿で、さらに重そうな剣を僕に向けてそう言う。

 

「女の子とは対決したく無いんだけど……」


「うるさい! 貴方を倒すのが私の目標、私はユーリ、ユーリ·マクダーウエルよ! さあ勝負しろ」

 名乗った段階で決闘は成立、いつもならここで勝負は着く……でも、女の子との対決は初めて、いくら僕でも……彼女を木っ端微塵にするのは気が引ける。


「たあああああああ!」

 そう言って彼女は剣を振り上げる。

 父親の敵と言っていたので恐らくは形見なのだろう大剣、彼女の体格には全くあっていない為に動きが遅い。

 僕は軍にいた時みっちりと逃げ足の訓練を受けている。足さばき、体さばきにより自らの魔法によるダメージを低減する様に……。


 そして彼女のその遅い剣さばきでは、僕を傷付ける事はできない。


「はあ、はあ、はあ、はあ、畜生」

 彼女は暫く剣を振り回すが僕に全く届かない、その動きでは僕にかすり傷一つ付けられない。


「僕は君を殺したく無い……」


「うるさい……うるさいうるさい、殺れ、殺りなさい! 許さない、私は貴方を許しはしない!」

 彼は泣きながら僕に向かって来る。

 

 しかし僕は油断していた。彼女は思っていたよりも、したたかだった。


 彼女はただ剣を振り回していただけではなかった。僕は追い込まれていた。

 彼女は僕を攻撃しながら罠を張っていた。剣を重い剣を何度も地面に振り落とし、地面に穴をあけまくっていた。


 そして僕は、油断していた為に、まんまとその穴に足を取られる。まさに足元をすくわれた。


「しねえええええ」

 可愛らしい叫びだった。甲冑を身に纏っていたために年齢わからなかったが、恐らく思っていたよりもずっと若いのだろう。


 接近戦、近接戦闘では僕の魔法は使えない……と言うのは嘘、爆心地の方が二次産物の影響を受けにくい、でも……さっきも言ったが彼女を、女の子を目の前で木っ端微塵にするのはやはり気が引ける。


 数万の命を奪っておいて、何を言ってるんだって自分でも思うけど……。

 

 足を穴に取られ、地面に倒れる僕に向かって剣が目の前に迫ってくる。もう避ける暇はない。


「仕方ない……」

 僕はポケットに手を入れ、小さな、小さな球を手に取り親指で弾く。

 鉄の球……それを指で彼女の少し横に向け弾き、そして魔法を、その鉄球目掛けて僕の収縮魔法を発動した。


「グゴゴゴゴゴゴ」

 音と同時に真っ暗な穴が彼女の横をすり抜ける。

 そして、彼女の持っている剣と兜がその穴に吸い込まれて行く。


「きゃああああ! な、何!」

 黒い穴は彼女の装備をどんどん吸い込んで行く。

 胸当て、そしてスカート、脛当て、最後に彼女自身を。


「い、いやああああ、た、たすけて」

 彼女はそう言った、僕に助けてと、幼い表情、幼い身体……甲冑が外れ全てが露わになる。

 やはり彼女はまだ子供だった。


 僕は……彼女の手を掴む。彼女は僕の手を握る。

 彼女と僕は恐らく同じだ。

 なにも分かっていない、ただ言われるがままに、大人に言われるがままに……。

 

 僕は再度ポッケに手を入れ、鉄球を取り同じ様に同じ方向、黒い穴に向けて親指で弾く。

 そして再度収縮魔法をかける。

 

 再び黒い穴が現れそのまま最初の穴に吸い込まれ、そして二つの穴が消滅した。

 対消滅……お互いの穴がお互いに吸い込まれそして消えていった。


「はあ、はあ、はあ……うわ~~~~~ん、うえ~~~~~~ん」

 彼女は泣いた、僕に抱きつき、わんわんと泣いた。

 僕は彼女の敵……殺らなければ殺られる。

 彼女を帰せば、僕はさらに多くの敵と戦わなければならない。


 でも出来なかった……子供を、女の子を殺すなんて……何万と殺した僕でも……できなかった。

 

「……あの……どうでもいいけど……裸なんだけど」


「うえ~~~……ひううう! いやああああああああ!!」

 彼女の全ての装備は穴に飲まれている。

 

「スケベ! 変態! 私の装備返せええ!!」


「いや、そんな事言われても」


「ううう! 許さない! 私はあんたを一生許さない!」


「親の敵よりも裸を見られている事の方が必死とか……」


「帰らないから、アンタを倒すまで、ここに居てやる!」

 身体を手で隠しているので、今一盛り上がらないポーズでそう言う彼女……。


「まあ、もとより帰られるとまた僕は直ぐにどこか山奥に逃げないといけないんだけど……」

 僕は着ている服を脱ぐ。


「な、なにする気! 帰さないって……畜生! 私を物にする気ね! ううう、仕方ない私は負けたのだから……」


「いや、そういうの良いんで、とりあえず引っ越し準備できるまでいてください」

 そう言って僕は彼女に服をかける。


「は? 情けをかける気ね?!」


「いや、もうすぐ色々収穫できるから、それまで待って欲しいだけ」


「収穫?」


「そうほらそこに僕の畑が、今回結構誰も来なかったから、色々と大きくしたんだよ」


「……あんた……」


「とりあえず、少しだけ帰らないでいて欲しいんだけど……ダメかな? いつでも命は奪っていいけど、僕は訓練されてるんで、多分無駄だと思うけど……」


「……わかったわ、貴方を他の人に殺させるわけにはいかない……貴方は私の敵……私が殺すまで、私はここに居る!」


「……うん、まあ……じゃあそれで」


 僕は自分を殺そうとしている女の子と、ユーリと暫く一緒に暮らす事になった。



【あとがき】

 なんか仲間を作ってあげてと言われたので(笑)とりあえず書きました。

続きは、感想等を見て考えます(笑)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強の圧縮魔法、最強過ぎて世界が簡単に終わってしまいます。 新名天生 @Niinaamesyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ