ラブデス

泥飛行機

.

 揺り籠のように 安らかに

 僕らは折り重なって 死ぬ





            ラブデス







 廃れた教会には

 なぜだか灰がよく降る

 僕は十字架に背を預けてみた

 天井の死んだ蜘蛛

 あちこちの穴から漏れ出す風

 そのせいか

 壁際の本の積み木が

 いつの間にか崩れ落ちていて

 灰が光に変わるので

 僕は昼寝をする


 君と

 どこかの小さな美術館で

 小さな額縁の絵を

 何も言わずに見つめていた

 エーデルワイスの花畑

 壁に染み込む

 湿ったコーヒーの匂い

 十字窓の外の傘模様

 モノクロームの水玉

 君と


 あれはいつの記憶か

 そんなものは無かったのか

 焔のようなあまやかさ

 どうしようもない退屈さ

 どうしようもない血に塗れた

 厭味なくらいに讃美歌のような何か

 心臓?

 沈黙に波紋の輪を広げて

 この鐘がようやく鳴り止んだとして

 僕は祈ったりはしないだろう










   さよならを

   きいたよ

   せかいじゅが

   まっぷたつに

   たおれて

   みにくい

   くさが

   はえた




   きらいだ

   きらいだ

   かなしみが

   つぶれた

   まま

   よくぼうとかが

   さまよう




   ちまみれ

   ちまみれ

   ちまみれ




   だめだなあ

   これもう

   かれてんだ

   ぜんめつ










 それは仰向けの僕を穿つ

 一筋の虹も腐らすようなひどい雨

 温められる鉛の床と

 世界のない天井を透かして

 くるくる回る君の傘

 そいつにはたぶんこんな日の死が映っている


 僕を見下して笑うような

 役立たずなそいつがずっと前から欲しかった

 分かってたのなら貸してくれよ

 霧色の、霧色の傘


 両目を塞ぐ冷たい手が君の解答

 星が騒ぐような夜が見えるかと囁く声

 そんなものいらない僕はいらない



    そろそろ天道が誰かさんのところに

    落ちてきたっていい頃だって

        僕は思うんだけどさ



 どうかしてるからさ僕は動けない

 どういうわけか体中が痛くて

 全部の骨が砕けてしまったような気分なんだ


 霧色の、霧色の傘

 ぼやけた世界とクモの切れ間と

 剥がれ落ちそうな方舟を

 雨が上がったらどうか切り裂いてくれ


 君なんかいらない、いらない

 僕はいらない、僕だって

 一人でさえなくていいから

 回り続ける傘の永久機関

 こんな日の恋なんか

 それだけでいい


                












 一枚、一枚、数え唄を歌いながら

 エーデルワイスが風に舞う

 鳶色の髪が風に梳かれているうちに、彼女は花を見失った

 僕はちゃんと憶えていたけれど


 羽をなくした花を元に戻すために

 彼女は僕に振り向いた

 エーデルワイスの茎が折れた、茎は僕の頸だった

 それなら君の涙の一かけらを、枯葉の露にすればいい


「十字架の並ぶ墓地に、いつかエーデルワイスを摘みに行こう

 そうしたら、十字架の前に立って、花占いをしてさ

 そういう約束をしたいんだ」


 一枚、一枚、数え唄を歌いながら

 海の底に青いペンキを塗る

 黄金の貝殻を探しているよ でも彼女にはずっと見えない

 季節と秒針の区別がつかないから


 溶けてしまった雪を綿菓子にするために

 彼女は三月の路上で僕を待つ

 雪は盲いた、あの目は僕の恋だった

 それなら君の両手のぬくもりを、零時の鐘に捨てればいい


「もし君が死んだなら

 黄金の貝殻がどこにあるかを教えるさ

 だからその十字架には、十月の雪を被せてくれ」


「十字架の並ぶ墓地を、いつか僕が歩くとき

 十字架に囲まれて、反対側から彼女が歩いてくる

 そうしたら、擦れ違わないように一度だけ、抱きしめてさ

 そういう約束をしたいんだ」




 Love equals to death, Death equals to love

 Two girls hanged on the crumbling wall

 Wear the red dresses, Standing with black both wings

 What you play by that acid whistle

 What you ring by that charcoal bell

“We are the neglected dreams,

 The sinner giving the blood to the void”

 Be pieces of the stained glass, Be eternal maidens

 We never know the ruin till the mold flowers bloom



 I


 h

 e

 A

 r


 A


 r

 e

 q

 u

 I

 e

 m


 f

 r

 o

 m


 t

 H

 e


 D

 i

 s

 t

 A

 n

 c

 E



「もうすぐ終わるね」

「まだ全然終わらないよ」

「私たちだけはきっと終わるね」

「どうしてそんなに終わりたいの」


    ど して そ おわ り の ? ……








 目に痛い太陽が

 何億回の朝を呼んでいる

 僕がアプリコットを刻んでいる間に

 君はトースターに食べないパンを差し込む


「ラブデスだよ、安っぽいけどね

 甘酸っぱいんだってさ、一個どう?」


 印字も剥げて読めなくなった

 四角い缶を君は撫でる

 そしてひびの入った窓が

 ピアノみたいに勝手に開く


 錆びた時計台から

 地上を見下ろしている

 そこにあるのは

 純粋の有刺胞子と

 数多の張り巡らした根と枝と

 街の残骸のようなもの

 君は何も入ってないはずの缶を逆さまにして振って

 地上に何かを捨てる


 退屈な青空が

 このままじゃ生温い血が

 血が足りないと

 何もない場所をしつこく探している


「何か起きるよ、根拠はないけどね

 だからとりあえずはさ、生きておかない?」


 紅茶を淹れて

 トースターが騒いで

「まあ待ってなさいよ」って

 二十年前の新聞広げて、君は少し微笑む

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ラブデス 泥飛行機 @mud-plane

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