廃校編 第8話

考えが甘かった。

 今、俺はかなり後悔している。

 あの時、家から出ようなんて思わなければ。

 あの時、何にも気付かずにいれば。なんて思いながら途方に暮れている。

 

 それに気が付いたのはトイレから出た直後だった。廊下は思った通り明かりがついていた。

 埃っぽい雰囲気は何処へやら。トイレの中ほど荒らされている訳でも無く、どちらかとゆうと、まるで現在進行形で使われているかの様な感じ。廊下は奥の方までハッキリと見えるほど明るく照らされており、それがかえって不気味だった。

 上を見るとしっかりと蛍光灯がプラグに刺さっている。ガラス管の端の方が未だ黒く変色していないので取り替えたばかりと見えた。どれも新品だ。

 流石にこの時点でおかしいとは思ったよ、なんせ聞いていた話と違うんだから。ここは廃校だ。それも俺が転校してからすぐの事だから、少なくともこの校舎が使われなくなってから年単位で時間が経過している筈だ。

 それなのに何故か新品の蛍光灯が装着されている。一体誰が取り替えたのだろうか?

 

 窓の外の景色も変だ。

 さっきまで降っていた雨は止んだそうで、一切の雨音が聞こえない。ついでに他の音も。

 何も聞こえないんだ。耳を澄ませても虫や鳥の声も、風の音も。

 音だけではない。濃い霧で景色も完全に遮断されている。まるで雲の中にいるかの様だった。蛍光灯の光が霧に吸収されているみたいな、校舎の外の世界が全て無くなってしまったふうにも感じられる。

 

 不審に思いながら前方と後方を同時に警戒し、抜き足差し足、極力足音を立てない様に玄関へ急ぐ。と言っても元来た道を辿るだけだ。

 そう、道を辿るだけだった筈だ。

 歩いても、歩いても、幾ら歩いても玄関に辿り着かない。

「???………えぇ?」

 おかしいぞとは思った。何年も前のこととは言え、五年生になるまでお世話になった学校だ。当然校舎の構造は熟知しているつもりだし玄関の場所を忘れてはいない。あの不審者に追われている時もトイレまでのルートは把握していた。

 それなのに廊下の長さも、曲がり角の向こうの景色も俺の記憶と矛盾している。

 

 気がつくと俺は走っていた。

 目的も警戒も何もかも放り出して、ただただ混乱のままに全力疾走していた。

 だが幾ら走っても廊下の景色が変わらない、幾ら階段を駆け上がっても最上階に辿り着かない。

 結果、このザマだ。

 今はこうして三階(?)の廊下の隅に座り込んでいる。もう限界だ、走れない。さっきから「マジかよぉ」とか「やってらんね」しか言葉が出ない。

 考えがうまく纏まらない。正直、怖いのだ。

 怖すぎてそれ以上なにも言えない。

 呼吸は安定してきたが、震える足を抱えて青い顔をすることしかできない。心臓がバクバクして、でも手足の先は痺れるように感覚が感じられない。

 

 この状況、ある程度の察しはついている。俺も馬鹿じゃない、こんな状況でパニックになればなるほど体力も精神も削られていくんだ。

 だから落ち着け上妻有正、冷静になるんだ。でも怖がるのは止めるな警戒心を研ぎ澄ませろ。確かに漫画みたいな状況ではあるが要は雪山での遭難と一緒だ。

 こんな時こそ俺の無駄にある二次元の知識の出番じゃないか。

 そう、こうゆう事に関しては俺はどんなレスキュー隊員よりもエキスパートなんだ。(自分にそう言い聞かせろ) だから、だから落ち着いてこのクソッタレの状況にも対応できる……筈だ。さぁ、作戦を立てるぞ。

 

 幾つか、俺が知っている事があるとすれば以下の通り。

 まず一つ目。

 この校舎からは出られない。正確には、屋外へ脱出する手段が無いとゆう事だ。

 玄関には幾ら走っても行き着く事はなく、どれだけ階段を駆け上がっても屋上へ続く踊り場が見えてこない。

 それなら窓から逃げれば良いじゃないか。

 ダメだ、散々試したがピクリとも動かない。ガラスを破ろうとドロップキックをお見舞いしたが、アレはどちらかと言うとコンクリートブロックの手応えだ。とにかく俺の力ではどうやっても開かない。

 仮に開いたとして、その後はどうする? 外の霧を見てみろ、アレは異常だ。多分、これはあくまでも俺の感だが、あの霧の向こうには何も無いんだ。多分そうだ。

 次に二つ目。

 この校舎には『何か』がいる。具体的には何なのかは未だ分からない。でも確実にいる。

 薄々勘付いてはいたんだ、もうあの不審者は死んでいるって。状況的に見て確実にその『何か』にやられたって。

 きっとアイツも俺と同じようにこの学校から出られなくなっていたんだ。そしてたまたまここに来てしまった俺に気が付いて追ってきた。

 いや、違うかもしれない。アレは逃げていたんだ。何かから逃げている時に俺を見つけたんだ。じゃあ何故俺の方へ走って来た?

 まさか、まさか俺に何かを擦りつけようとして来たのか? ……あり得るな。

 そして三つ目。

 多分、俺は四日前にこの校舎には来ていなかった。

 あのトイレのドアの破壊痕、どっかで見た事があるとは思っていたが間違いない。校門の鎖と同じ壊され方だった。

 つまりだ、こうゆう事になる。

 俺はあの夜、この校舎には一歩も入ってはいなかった。そしてあの不審者は何らかの手段を持ってあの鎖とドアを断ち切ったんだ。

 あの鎖の壊し方はアイツにしかできない。俺には無理だ。この校舎には正門と焼却炉のある裏道以外に出入りする場所が無いから、四日前に俺が来た時には校舎の中には誰も入れなかった筈だ。

 

 とゆう事はだ……、そもそもここが目的地ではなかったとゆう事になる。じゃあ結局俺はどうしてあの方角から交差点に現れたんだ? あぁ、わからない。

 あまりにもしょっぱい収穫だ。分かったのは結局それだけかよ、と落胆する。

 それだけならまだよかった。

 

 まとめると、これは所謂ところの「脱出系ホラーゲーム」に近い状況である。

 『○鬼』とか『クロッ○タワー』的な事が現実に起こっているんだ。

 主人公達が古びた洋館や今回のような廃校に来て化け物に追われながら脱出を目指すってゆうアレだ。

 俺はあまりやった事はないが実況動画等で散々見たのである程度の知識はある。

 

 俺は大真面目だ、ふざけてなんかいない。この数日間に起きた怪現象に続きこの現状、今起きている事に疑問を持つほど俺は鈍くない。これが夢だなんて寝言を言えるぐらい俺はおめでたいオツムをしていない。

 もうこれは現実だ。この際、「有り得ない」事が有り得ないって考えるべきなんだ。

 

 じゃあどうするか……、どうしよう。

 

 こうゆう場合は一箇所に止まっているよりも移動しながら手掛かりを探すべきだ。

 幸い食料ならある。リュックサックにスナックを幾つか忍ばせておいてよかった。ジュースもある。

 希望を持て、なるべくネガティブになるな。

 

 そうやって自分を励ましながら根拠のない希望だけを頼りにこの校舎を探索する事に決めた。

 強張る両足に鞭を打って何とか立ち上がる。正直吐きそうだ。

 

 廊下の先を睨みつける。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 何てカッコつけてみたはいいが、どうしよう。あれから十分ほど歩いてはいるが何にも見つからない。

 今は未だ三階に居る。とゆうか今度は三階から抜け出せなくなっている。

 窓の外は相変わらずの霧模様。当然、玄関にはまだ辿り着いてすらいない。

 人っ子一人いやしない……、筈なのだが。

 

 この校舎で起こっている怪現象、あのマンデラエフェクトと関係があるのだろうか?

 さっき結論は出たが、あの髪の毛の色が変わる現象と、このホラーテイストが効きすぎる現状、今のところ関連性が見当たらない。だって四日前までは正門の扉が施錠されていたのだ。どうやってもこの校舎に出入りする事はできなかった筈だ。

 

 そんな事を思いながら景色の変わらない廊下をグルグルしていると、ポケットの内容物が振動し出した。

 

 ブブブブブブブブ‼︎ ブブブブブブブ‼︎

 

 俺はその場に立ち止まりポケットからそれ取り出す。

 そこそこ大きめのバイブ音、俺のスマホではない。最初は親からの電話かなと勘違いをして舞い上がったりしたものだが、今はただうるさいだけにサッサと捨ててしまいたいと思ってすらいる。

 音の主はあのトイレで拾った時計(?)だ。

 いや時計ではない。何か、変な機械のような物だ。

 これはきっとあの不審者の持ち物だったのだろう。うっかり拾って来てしまったがどうしたものか?

 全体的に燻んだ銀色の時計っぽい何か、柄はあしらわれていない。横の摘みを押し込むと同色の蓋がパカッと開いてバイブレーションが止まった。

 初めて見た時は少し驚いた。本来なら文字盤と針が並んでいる場所にそれらが見当たらない。代わりに碁盤のように蛍光色の緑が縦と横に並びその中心と端っこにに赤い点が一つづつ光っている。

 よく見ると端っこに黄色い小さな点があって、それは一定のパターンで波紋のような模様を作っている。

 何となくだが用途はわかる。恐らくは機械式方位磁石ってところだろう。

 アイツの私物だろうか?よくできている。

 俺が右を行ったり左を行ったりするとそれに連動して緑色の線と黄色の点が移動するのだ。原理は分からないがジャイロセンサーのような物が入っているのかもしれない。

 

 だが分からない事がいくつかある。

 この中心にある赤点が自分なのは分かる。だがこの方位磁石(?)には方位を指すための印が無いのだ。これではどっちが東西南北なのかが分からないではないか。

 初めはこの黄色い点が北を指しているのかと思ってはいたがどうやらそうでも無いらしい。何故ならこの黄点、動くのだ。

 時々画面の端っこに映ったり増えたりしてまるで規則性が見当たらない。

 目的地を指しているわけでもない、かと言って何の意味がないわけでもない気がする。となると……。

「何かの警告か?」

 バイブレーションはこの黄点が映った時にだけ鳴っている。つまりこの装置の用途は方角を知るためでは無く黄点の存在を知らせるためのレーダーって事か?

 ならこの黄色い点の正体とは一体何だろう? まさか例の化け物だったり?

 充分にあり得るな。それに、

 

(視線を感じる)

 何かに見られている? そんな気がする。

 例えるなら、夜中に部屋からトイレに向かっている時に視界の外から感じるあの嫌な視線のパワーアップバージョン……的な?

 ビンビン来てるぞ。まるで全身を舐め回すように、何かに見られている気がする。

 だがそれはあくまで「そんな気がする」ってだけの事であり、実際にその方を見ても何も居ない。

 きっと気が滅入っているせいだ。ここ最近ロクな事しか起きてないせいで気が立っているんだ。それも現在進行形で。

 警戒することも大事だろうが流石にやり過ぎか?


 ブブブブブブブブ‼︎ ブブブブブブブ‼︎

 

 また装置が振動し始めた、今度はさっきよりも激しい。何事かと画面に視線を落とすと、例の黄点がまた増えていた。そしてもっと気になることと言えば、

「なんか………、こっちに向かって来てないか、これ。」

 黄色い点の一つががレーダーの中心に、つまり俺のいる方向に向かって急速に迫って来ている。

 間違いない、何かがこっちに来ている。

 

 その何かが向かって来る方角、廊下のずっと向こうを見やる。だが何も居ない。何も見えない。

 確かにこの方角、この廊下の先から何か、ヤバいものが来ている筈だ。このレーダー(?) にはそれがはっきりと映っている。

 

 俺は迷わずその場から逃走する事に決めた。確かにあの不審者を襲った……かもしれない何かの正体は気になる。

 しかしこのまま鉢合わせでもして、それであんな風にされでもしたらたまったものじゃない。

 なので今は逃げる、逃げに徹する。

 だが逃げ切れるだろうか?

 

 俺はリュックサックの紐を背負い直して何かが迫って来る方向とは逆方向に舵を切って本日何度目かの全力疾走を決め込んだ。

「なんで俺がこんな目にぃいい〜〜‼︎」

 誰か教えてくれ。

 

 レーダーをチラ見しながら走る。

 廊下の景色が後方に流れていく、だが一向に場所が変わらない。やはりこの廊下はループしているのかもしれない、給食用の搬入口を見るのはこれで四度目だ。

 まだ視線を感じている、だが何も居ない。振り返っても何も居ない。

 でもレーダーには何かが映っているのは確かだ。先程からぴったりと俺の後方十数メートルの間隔を保って追って来ている。

 まるで遊ばれているかのようだ、お前をいつでも襲えると、俺のビビって逃げ惑う姿をもっと観察したいって感じの追いかけ方だ。

 

「ハァ…ハァ…ハァ……あ゛あ゛ぁ゛ああ‼︎」

 息が切れてきた、さっきから殆ど休憩無しで歩き回っていた反動がここに来て同時に襲い掛かる。そもそも体力には自信が無いのだ。ダメだこのままじゃ追いつかれる。

 何処かでうまく撒かなければ、でもどうやって? どうすれば逃げ切れる?

 考えろ上妻有正! どうすればいいんだ、どうすれば…………ん‼︎

 さっき俺は何を見た⁉︎

 給食用の搬入口だって⁉︎

「そうだ! アレを使えば………!」

 

 俺はある事を閃くと走りながらそれを実行する為の作戦を組み立てた。

 この廊下はループしている、それに何故か分からないが校舎全体に電力の供給がされていて壁も窓も新品になっている。

 とゆう事はもしかしたらあの装置も問題なく起動するのでは?

 だが起動してからすぐに使えるわけでは無い。モタモタしていたら間違いなく追いつかれてゲームオーバーだ。

 ではどうするか、いや待てよ? このループ現象を逆に応用すれば………。

 いける、いけるぞ! 後は実行に移すだけだ。

 作戦開始。

 

 まず一度目のループ、俺はさっきと同じルートの道を走り抜けて目的のものを見つけた。

 この校舎には一階に給食室があり、昼食の時間になるとそこから昇降機(エレベーター)を使って各階のフロアにある搬入口にご飯や味噌スープの詰め込まれた台車が運び込まれる。それを白いエプソンを身につけた給食当番が回収して教室に運ぶって寸法だ。

 この学校に通っていた生徒なら誰でも知っている常識、俺も例外では無い。

 構造がおかしくなっているとは言えこの校舎の構造はある程度理解しているつもりだ。

 

 俺は廊下の先に搬入口とすぐ横に設置してあるエレベーターを見つけた。一階行きのボタンを押して……直ぐに乗らずにそのまま走り抜けた。

 あのままちんたらエレベーターが来るのを待っていたら追いつかれてしまう、じゃあ何故スイッチだけを押して使わないのかって?

 焦るな上妻有正、全部予想通りだ。多分。

 俺の予想が正しければ次の廊下のループが来れば万事解決だ。

 そして来る二度目のループ。また景色が戻った。やはり一定の距離か曲がり角などの起点がトリガーになっているらしい。そろそろ体力は限界だ、しかし後二十メートル。

 一応、レーダーを確認する。よし、問題ない。後ろの何かはちょうど角の向こう側にいる。つまり俺が何をしようとするかは分からない筈だ‼︎ あと十メートル。

 俺の作戦通り、エレベーターは開いていた。

 一度目のループでエレベーターが使えなくても二度目のループになる頃には開いていると思った訳だ。

 俺は『入っちゃダメだよ』と赤と黄色の警戒色で書かれた注意書きを無視し腰より少し高めの位置までしか開かない扉の中に迷わず体を滑り込ませて『閉』ボタンを外に手を回して押した。

 搬入口のランプがオレンジ色に点滅し、ゆっくりと閉まっていく。

 もう一度レーダーを確認する。何かはすぐ側まで迫ってきている、恐らく後十メートルもない。早く、早く閉まってくれ!

 立ち上がる事ができないぐらい狭いエレベーター内で膝を抱えて祈る。だがレーダーからは目を離さない。走って荒くなった呼吸を必死に抑えて気配を殺す。

 あと二十センチ、あと十センチ、えらく扉の閉まる速度が遅く感じる。廊下から差し込む光が扉に狭まれてどんどんか細くなってゆく。あと一センチ。

 

 レーダーに映る黄色い点があと一歩手前の所で扉は完全に閉まり、ガコンと音を立てて動き出した。

 降下中のエレベーター特有の浮遊感に包まれ、自分が未知の何かから逃げ切った事を実感する。それと同時にどっと疲れが波のように襲ってきた。今になってやっと自分が満身創痍だとゆう事に気付かされる。心臓が爆発しそうだ、手足が貧乏揺すりみたいに震えて止まらない。

 エレベーター内には明かりは無く、完全に暗闇に包まれている。何かの機械の駆動音と心臓のバクバクする音しか聞こえない。打ちっぱなしの金属製の壁がひんやりとしていて気持ちいい。

 

 結局、俺を追ってきた何かの正体は分からなかった。振り返っても姿が見えなかったのだ。

 透明の敵だったのだろうか?

 いや、そんな筈はない。もしそうだとしたら足音ぐらいは聞こえていた筈だし、トイレのあの血溜まりには俺以外の足跡が無かった。

 見えなくて、足音のしない何か。アレは幽霊とかその類だったのだろうか? 十分あり得るかもしれない。だってここは廃校だぜ、実際に人も死んでいるし。

 

「……幽霊、ねぇ。」

 もしかしたらそうなのかもしれない。

 これは祟りか、この学校に来る事であの子の魂的何かの逆鱗に触れてしまったのかもしれない。

 それでもこの校舎に来てしまったのは、あくまでも偶然が重なったからに過ぎない。それで呪い殺されるのはまっぴらごめんだ。

 いや、そもそもだがアレが幽霊って事も未だ確証が無いんだ。それ以外の、例えば宇宙人って線もあり得るのだから。

 

 エレベーターがガコンと音を立てて停止し、浮遊感と駆動音が消える。

 どうやら一階についたようだ。

 ともかく、今は逃げ切った。

 エレベーターの扉が開き、光が目に刺さった。ノソノソと廊下へ這い出た俺は、リュックの紐を背負い直してレーダーを確認する。

 未だこの辺りには何も居ないようだ。

 ここは……本当に一階に着いたらしい。搬入口の目の前には家庭科室、そしてそのすぐ側に給食室がある。

 どうしようか、めちゃくちゃ疲れた。もう走りたくない。取り敢えず俺は休息の為に、給食室に身を潜めることにした。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 もう一人の生存者を追って三階に辿り着けたは良いのだが、レーダーの反応がどうもおかしい。それ以外にも、かなり異常な事が起こっている。

 この校舎は上から見るとこの国の言語……カンジと言うのだっけか? それで言う所の『日』の形をしている。

 私はその真ん中の線にあたる渡り廊下からレーダーを使って目標とそれを追っている何かの監視をしていた……訳だが。

 ここでおかしな物を見た。

 

 階段を上がってすぐの事だった、目の前をかなりの勢いで人影が通り過ぎていった。

 突然のことだったので流石に腰を抜かしそうになったがなんとか持ち堪えた。

 

 ブブブブブブブブ、ブブブブブブブブ、

 

 その直後、レーダーが反応したので開いてみる。

 案の定、こちらに向かって黄色い点……、『敵性生物』のマーカーが向かってきていた。

 マーカーは時速24km 程の速度で接近している様だ。私はホルスターから杖を引き抜いて応戦の構えを取る。それと同時にある考えを巡らせた。

 

(あの人影……子供? では何故、部隊専用のレーダーを持っている?)

 画面を確認したとき、確かに味方を示す赤色のマーカーとあの人影は同時に動いていた。 しかしどう見ても味方の生存者では無かった、でも敵でもない。アレはこの国の人間の衣装だった。リュックを背負ったこの国の子供だ。

 では何故、そんな物がこのダンジョンに紛れ込んでいる? 何故、レーダーを持っている? 謎は深まるばかりだ。

 

 しかし今はこの状況をなんとかしなければ、と思っていたら今度はマーカーが勢いを変えずに私の目の前を通り過ぎて行った。

 フルフェイスの甲冑の下で、目をパチクリとさせてその場に固まる。

 今アイツ、私を無視して何処へ行った?

 まさかあの少年の方へ向かったのか?

 

 どうやら見逃されたらしい、とゆうか完全に眼中にされなかった。どう言う事だ?普通はダンジョンに生息するモンスターは私の様な全身重兵装のエネルギーの塊りに向かってくる筈なのだが……、そもそもだが何故民間人がここに居る?

 

 取り敢えず今の彼等と合流しなければ、あわよくばモンスターの方も討伐してしまおう。

 そう考えて目の前に続く渡り廊下から先回りしようとしたのだが、今度はレーダーから二体の姿が消えた。

 

「ナニぃ!?」

 一瞬で目の前から消えたのだ、本来ならここで正面から鉢合わせるルートなのに、何故かこのT字路に訪れる事なくレーダー上から姿を消した。

 そう思ったら、背後で足跡。

 振り返ると今度は例の少年は私がきた廊下の方角から姿を現し、そして見えなくなって行った。

 慌てて後を追うがその廊下の先には少年の姿は既にない。レーダーを確認すると黄色いマーカーがまたも私を無視して、今度は階段の下へ向かって消えて行った。

 赤色の、なんらかの原因があってレーダーを拾ったのであろう少年のマーカーも消えている。

 一体何が起きている、どんな手品を使っているのだ?

 あの少年はどうやってこの廊下から煙の様に消え失せたのだ?

 マーカーの識別色は赤、私と同じ人類種を示していた。ので恐らくは亜人種や転生者の類ではない。そんな一般人が、どうやって?

 

 廊下を隈なく探す。今が好機なのだ、今、あの化け物を逃して少年が喰われてしまえば今度は何時何処から自分を襲ってくるのかがわからなくなってしまう。なんとしてでも彼を見つけなければならなくなってしまった。

 画面上右上の赤色マーカーは未だ点灯したままだ。これは未だ彼が生存している事を指している。そして、黄色マーカーは下の階層に消えて行った。つまり彼もその何処かに今居る。


「……? これは、」

 私はある物を見つけた。それは『1F』と点滅しているランプと、奥の方から駆動音が聞こえる銀色の小さな扉だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パンピーボーイ・ラック @2151008

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ