20

 ふたりはどこにいる?

 ふたり、とは橘とサトミだ。

 ふたりはいま、光の中にいる。朝日の、うすく赤と青を混ぜ合わせた光の中か、地下通路の、採光巧みな初夏の光の中か、そのどちらか、または両方か。

 ふたりは光の中にいる。

 サトミが手を差し出す。手の上には、赤い/血の色をしたおやつのパッケージがひとつ、ある。ひとつだけある。

「おなか、すいてる?」

 サトミが、差し出す前か、差し出した後か、言う。

「すこし」

 橘は応える。

 じゃあ、ほら、これ、とサトミは手を差し出さして、橘は素直にそれを受け取る。それおいしいから、とサトミは笑う。橘は手の中の赤いパッケージを見つめる。握らず見つめて、そしてサトミに言う。

「ひとつだけ、か?」

「え――いいのよ、私のことは気にしなくて」

 わかった、と橘はひとりうなずいて、パッケージを開ける。細長い、チョコレートが顔をのぞかせる。

 パキン、と小気味いい音をたてて、チョコがふたつに割れる。

 驚くサトミを、橘は認識する。

「――そういう発想はなかったわ」

 橘は苦笑する。それを見たサトミがうわぁと顔を赤くする。

 ふたつに割ったチョコの片方を橘は口に含み、もう片方をサトミに差し出す。ん、と差し出された先には、サトミの口――。

 サトミはさらに顔を赤くして、それでも橘の手から、チョコレートを食べる。食べてサトミは言う。

「すこし、とけてるのね」

 手の中に残った赤いパッケージをポケットにしまって、橘はうなずく。

「でも、甘いね」

 橘はうなずく、うなずいて言う。

「咽が、熱い――」

 あー、と困ってサトミが言う。

「ごめんなさい、飲み物は……ないの」

「いや、大丈夫。もう大丈夫」

「本当に?」

「本当だ」

「そう」

「だから、」

「だから?」

 橘は言った。

「ありがとう」

 そうして、ふたりはいま白い、光の中にいる。



【了】

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スーサイド・ヒューマンズ 川口健伍 @KA3UKA

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