第10話

「グレイス聖女殿、申し訳ないが、バーンと結婚してやってくれ。

 あれの手綱を握れるのは、グレイス聖女殿しかいない。

 どうかこの通りだ」


 ハリー国王が私に深々と頭を下げます。

 側近忠臣重臣も、沈痛な表情で同じように頭を下げます。

 彼らがそこまでしなければいけないくらい、大陸は追い込まれています。

 エイル神の怒りがおさまらず、大陸中に疫病が蔓延しているのです。


 まあ、でも、全ての国というわけではありません。

 アスクレーピオス神が守護されている国や、トヨウケ神が守護されている小国は、疫病を治す魔法薬が十分出回っています。

 でも、その魔法薬も、他国に渡ると全く効果を現わさない場合が多いのです。


 どうやら、エイル神と仲のよい神が守護する国では、エイル神の怒りを慮って、守護神が魔法薬を無効にしてしまようです。

 あくまでも推測でしかありませんが、間違いないと思うのです。

 その影響もあって、人口が半減した国や、八割の国民が死んでしまい、滅亡の恐れがある国さえあります。


 ソモンド王国は、疫病こそ聖女が防いでいますが、大貴族大商人神官が聖女を虐待殺害していた事で、それを見逃していた王家王国の求心力が著しく低下しています。

 悪事を働いていた者があまりに多く、そのすべてを処刑した事で、国内統治が著しく混乱しています。

 さらに、近隣諸国から疫病に冒された者達が大挙してやって来ています。


 他の国のように、疫病に冒された者達を撃退虐殺すべきなのか。

 それとも受け入れて治療する事で、エイル神の怒りが解けるのか。

 ソモンド王国は判断に迷っています。

 頼られれば優しく接してしまうバーン王太子は、私達聖女団に彼らを助けろと無茶振りしてきます。

 その噂を聞いた国民が、疫病と神の怒りを恐れで暴動を起こしかねない状態です。


 だから、聖女の代表である私をバーン王太子の正室にすることで、王家の求心力を高め、国民を安心させて暴動を防ごうとしているのでしょう。

 その気持ちも分かりますが、疫病に冒された人達を可哀想に思っています。

 なにより、やんちゃな子供のようなバーン王太子が嫌いではありません。


「お受けするには条件があります。

 この国に逃げてきている難民を救っていただきます。

 彼らの病は私達聖女団が治します。

 彼らを養うための費用は、私達が滅ぼした大貴族や大商人や神官から没収した財産を使わせてもらいます。

 難民達を入植させるための土地もいただきます。

 認めていただけますか」


 この条件は認めてくれるでしょう。

 今のこの国には、私達に逆らう力はありません。

 バーン王太子のあやし方は、もう覚えましたから、何の問題もありません。

 私達の力で、エイル神の怒りを鎮めてみせます。


 

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癒しの聖女は愚かな王太子に隣国に売られてしまいました。今更守護神が疫病神と知らなかったと言っても戻りません。 克全 @dokatu

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